第322話 衣替えと男子チームデビューの予感伝説

 学校はすっかり衣替えして、冬服に。

 ここの制服はかわいいから好きなのだ。

 上着がボレロっぽい感じで、体型が出ないからね……。


 夏服はもう大変なのだ!

 汗とかで体に張り付くし、私は凸凹が多いので、そこに汗がたまるともう大変。


 冬はいい……。

 もこもこに着込んでも汗かかないし、体温調節でカロリーを使われていくから、すぐにお腹がすいてたくさん食べられる。


 いいねえ、冬!

 その前にやってくる秋も好きよー。


 冬服に着替えて、朝のお弁当をぎゅっぎゅっと詰める。

 父にお弁当を手渡すと、ニコニコしてきた。


「夏服も似合ってたけど、やっぱり冬服が安心だな」


「ありがとー。安心……?」


 何が安心なのだろう……。


『さて、今日で我はイカルガに戻ることになる。世話になったな!』


「おお、バングラッドさん帰っちゃうのか。寂しくなるなあ」


 父が本気で別れを惜しんでるなあ。


『我はデビューする故な! だが今生の別れではない! また酒を飲み交わそうぞ!』


「ぜひぜひ!」


 完全に仲良しになってる!

 時間ギリギリまで別れを惜しんでから、父が出勤して行った。

 そっか、ここ最近は出るのが早かったから、私の冬服を見る機会がなかったのだ。


『ではきら星はづきよ。我も出る! またな!』


 扉を出ると、変形して飛び上がるバングラッド氏なのだった。

 すっかり空を飛ぶのに慣れてしまって。


 そしてゆっくりめに私は登校。

 今日は自転車。

 以前は息切れしていた登り坂が、鼻歌交じりに上がれるようになってる。


 やっぱり配信者は体力がつくんだなあ!

 体のお肉は落ちないのに、ここ一年は物凄く体が軽いし。


 そう言えば体育祭、あまりにも速く走れすぎるので、物凄く加減した。

 危うく長距離の女子世界記録を出すところだった……。


 教室に入ると、その間にイカルガが新規デビュー組の情報を出していたとかで、その話題でもちきりだった。


「あ、師匠おはようー」


 教室のみんなが挨拶してくるので、私も挨拶返しをする。

 すっかりクラスに馴染んでいる私。

 陽キャみたいではないか。

 フフフフフ……。


「師匠さ、イカルガエンターテイメントで今度、男子グループがデビューするんでしょ?」


「あ、は、はい」


「この甲冑みたいなシルエット、バングラッドさんだとして……あと二人は誰なんだろうね?」


 な、なぜ私に情報を求めてくるんだろう……!?

 一般人であるはずの私に分かるわけがない。

 分からないことにしておかねばならないのだ……!!


「わ、わ、分からないなー」


「あっ」


「そうだよねえ、話せないよねえ」


「楽しみにしとく」


 分かってもらえたか……。


「バレバレ過ぎる……」


 なんか近くではぎゅうちゃんがため息をついておられる。


「あら、私たち全員バレてるけど、気付かないふりをしてくれてるだけよ? 本当にみんなリテラシーが高くて助かる……。この学校じゃなければ色々終わってたかも」


 ぼたんちゃんは何の話をしているのだね。

 ここでもみじちゃんも投稿してきて元気な挨拶をしたので、教室がみんなでおはよー!と返した。


 もみじちゃんの校内での人気も上がってきている気がする。

 配信者をやってから、出会ったばかりの頃のちょっと疲れた感じの彼女からガラッとイメージ変わったもんねえ。


 みんないい方向に変化したのだ。

 あ、いや、ぼたんちゃんだけは全然変わってないね!


「ねえはづきちゃん、放課後はちょっと会社に寄ってみようよ。新人さんもチェックしないと。ほら、私とはづきちゃんの直接の後輩みたいな人がいるでしょ?」


 彼女はすぐ前の席なので、振り返って私の手を取り、放課後の予定なんかを立ててくれる。

 親切だなー。

 でも何かと言うとボディタッチをしてくる。

 きっとこれが普通の女子高生らしい距離感なんだろう……。


「ちょっとちょっと、近いってチョーコ。そのままじゃキスしちゃうでしょ」


「ぐわああイノッチ邪魔しないでえ」


 間にはぎゅうちゃんが入ってきた。

 なんだなんだ……!?


 そして放課後。

 ぼたんちゃんと二人でイカルガに行くのだ。


 男子チームのデビュー間近。

 11月の頭には大々的に姿を発表して、その1週間後にイベントなんだそうで。


 イカルガエンターテイメントはバタバタしていた!

 トリットさんとバングラッド氏がダンス合わせしてる。

 ちょっと遅れて、完全新人の男子もやって来た。


 この人の配信者ネームは決まってて、相賀茂鳴憲(あいがも・なきのり)ですって。

 情報量が多い名前だなあ。


 なお、みんなからはカモちゃんと呼ばれてる。


「あっ、はづき先輩! ぼたん先輩! おはようございます!!」


 好青年~!


「お、おはようございます~」


「はいおはよう」


 緊張してちょっとどもる私と、鷹揚としたぼたんちゃん。

 うーん、ぼたんちゃんの大物ぶりよ。


 カモちゃんはすぐにバーチャライズして、活動的な陰陽師っていう姿に変身する。

 首飾りが雀牌なんだよね。


 ここで揃った三人を見てみる。


 まず、ヒロイックな鎧姿のバングラッド氏。

 いつものゴリマッチョな感じからシュッと細くて、中に人がいるなら細マッチョであろうと思わせる体型。

 中には誰もいませんよ。


 トリットさんはちょっとストリート系。

 グラス付きの飛行帽に、はだけた作業服。

 下にはイエローのシャツを着てて、そこになんかストリートっぽい絵がプリントされている。

 足にはスニーカー。

 翼をちょっとアクセで飾ってるのね。


 で、カモちゃんは一見して狩衣。色は白と黒。

 あと烏帽子にレザーブーツ……!?

 手首にはAフォンと連動しているAウォッチ。

 ハイテク陰陽師だあ。

 白黒は陰陽をイメージしてて、雀牌もイメージしてるんだって。


 うーん、三人のデビューが待ち遠しい。


「はづき先輩! 見ててください! 僕らのダンスを!」


「ダンス!?」


 なんかカモちゃんが目をキラキラさせて言ってくる!


 彼、数々のランダム選考をくぐり抜け、面接ではあまりのラッキー打牌っぷりに友人間の麻雀から出禁になった話を悲しそうにしてて、配信ではリスナーと麻雀打ちたいって言ってたんだよね。

 新しいタイプの人だ……!


 宇宙さんの弟子になっているので、私とぼたんちゃんの弟弟子。

 まだ、どんな活躍をするのかは分からないんだよね……。


 あ、ダンスは凄くうまかったです。

 バングラッド氏もトリットさんも動けるなあ……!


 ますます私にできないことが得意な人が増えていくぞ……!!


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