第73話 ガチ恋・ママ目線デーモン撃破伝説
エレベーターはこの大人数だと身動きが取れない。
階段で行こう、最近運動してないし、という野中さんの意見を取り入れて、非常階段で行くことになりました!
……野中さん……?
「まあパルたち配信者は常に運動してるピョンからなー」
「そうそう。体が資本だもの」
「風街さんはあちこちに出現するから、本当にそう……」
とりあえず私たちでフォローしておいた。
野中さんがエヘヘ、とか笑ってる。
そんな彼らを連れて、非常階段をてこてこ登ることになった。
もちろん、ここにもモンスターは出てくる。
だけど、明らかに少ない。
手すりにもたれてまったりしてたモンスターが、私たちに気づいてギョッとする。
慌てて非常口から仲間を呼びに行こうとするけど……。
壁と手すりを飛び跳ねながら走っていったピョンパルさんが、キック一閃、モンスターの首をスパーンとはねた。
「首狩り兎の本領発揮だねえ!」
風街さんが感心し、男性声優さんは「ヒエー」と震え上がった。
ピョンパルさん、すっごく動ける配信者だもんねえ。
私はどう頑張っても、不思議で怪しい動きしかできないからちょっとうらやましい!
※『本場の首狩りだ!』『いつも思うけどやっぱ人間の動きじゃないよなあ』『同接パワーで強化されるとこんなこともできちまうんだ!』
そっか、同接パワー……!
……私は強化されても、身のこなしは普段の私なんだが?
※『はづきっちが解せぬ顔をしている』『配信者が顔芸でリスナーに伝えるな』『はづきっちはあれよ。無駄に洗練された無駄しか無い動きをするから一見して強化されてるかどうか分からない……』
「洗練された無駄しか無い動き!?」
凄い事を言われた。
野中さんと風街さんがけらけら笑う。
「上手いこと言いますねー! 間違いなくはづきちゃんはそうです!」
「うんうん。海外のチームもはづきさんを分析してるけど、さっぱり分からん、パターン化できん、という解答でしたから」
「全ての配信が初舞台、くらいの感覚でやってるのがはづきちゃんですからね!」
私への理解度が高いのか、どうなのか……!
解せぬ……のはいつものことなので、放っておくことにした。
最近、私のことを妙に知ってる人が増えたなあ。
なんでだろう……。
はっ、ま、まさかまとめサイトに晒されている……!?
あわわわわ……。
※『はづきっちが赤くなったり青くなったりしてるぞ』『またいらんこと考えてるんだろう』『配信者なら口に出せ口に』
「そうだった。あのですね、最近妙に私の事を知ってる人が増えたので、これはまとめサイトで炎上してるんじゃないかって」
※『草』『私、何かしちゃいました? 言うとる』『エゴサして、どうぞ』『毎配信がトレンドに乗る配信者なのにw』
エゴサ!!
なんかとんでもない誹謗中傷を見つけてしまって、心に癒えぬ傷を負うやつでしょそれ!
やだー!
と勢いのままにゴボウを振ったら、どうやらそこの踊り場そのものにフロアイミテーターという部屋に擬態するモンスターが張り付いてたみたいで、それがペチられて『ウグワー!』と消えていった。
「さっすがはづきちゃん!」
野中さんが興奮して後ろからムギュッとしてくる。
「あーっ、動けません動けません! セ、センシティブなところへのお触りはやめてください~!」
※おこのみ『キ、キマシタワー!!』『俺たちの姫がアイドル声優と絡みを!?』『この瞬間だけでも神配信』『全てのリスナーの中で唯一はづきっちへのハグを許された女』
「ぐふふ、羨ましいでしょ」
野中さんが私をむぎゅむぎゅしながら、コメント欄に語りかけてる。
※『レポートを……レポートをどうか……!』おこのみ『はづきっちの抱き心地を語ると助かる命があるんです!』『あ、抱きまくらカバー売り切れてら』
「はづきちゃんはねえ、柔らかくていい匂いがして……。あれ? この匂いゴボウの煮物の甘い香り……」
「家でお母さんが作ってたので……」
そんなお喋りをしてたら、到着です。
風街さんが、いい声で歌いながら扉をバーンと開く!
すると、そこに待ち構えていたモンスターが襲いかかってくるのだけれど……。
風街さんの歌声は魔法なのだ。
そこから生まれた風や衝撃波がモンスターを打ちのめす。
「あっあっ、わた、私、前に出ますんで」
「あ、そう? ……って、あっあっ、はづきちゃん、私まだ抱きついたままで……」
「えっ、ほ、ほんとだ!」
野中さんを横にくっつけたままで、私は最前線に飛び出してしまった!
「あの、ちょっと待ってて下さいね。新衣装に変身して野中さんを後ろに……」
『オオオオオ!! お前が彼を取った女かあああああああ!!』
『ああああああ! お前はあの子にふさわしくないぃぃぃぃぃ!!』
『うちのあの子を知りませんかぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『いつまでも可愛いままだと思ってたのにぃぃぃぃぃ!!』
『その女を教えなさいぃぃぃぃ!! 査定してあげるからぁぁぁぁぁ!!』
「ちょっと黙っててください!」
ペシペシペシペシペシッ!
『ウグワーッ! 体が! 体が崩れるぅぅぅぅ』
『せめて、せめてあの女をぉぉぉぉ!!』
『せっかく力をもらったのにぃぃぃぃ!!』
『ひい、私は悪くない、悪くないぃぃぃ! 全部あの子を取った女が悪いのにぃぃぃぃ!!』
『いやぁぁぁぁ! こんなところで消えるなんて理不尽よぉぉぉぉぉ!!』
「あー、はづきさんが突然出てきたデーモンを片手間で圧倒してるピョンなー」
「見てもないからねえ。アレができる配信者はなかなかいないよ……」
「え、なんです? バーチャルアップ!」
私がその言葉を唱えると、体を包んでいたジャージが形を変えて、ジャージマントに。
大きなリュックは小さいポーチになり、体は体操着でスリムになった。
よしよし。
野中さんを後ろに回して……。
「あっ、腕にはづきちゃんの重みが掛かる……。想像してたよりも重量感が」
※『ざわざわ……!!』『どよどよ……!!』『そうだとは思ってたけど、やっぱり本物だった……!』おこのみ『け、けしからん……!』『無法な! こんなことが許されていいのか!』おこのみ『構わん、私が許そう……!!』『許された』
なんでコメント欄が物凄い勢いで流れてるのかなー!
男女関係なく、体の一部の感触の話で大盛りあがりだ。
「ンモー。じゃ、じゃあ私行きますからね! あの、デーモンさん。デーモンさんはいますかー」
スタジオへ続く通路をてくてく歩く。
「さっきはづきちゃんが片手間で半壊させたピョンなー」
「彼女がいると、後衛タイプの私も安心できるなあ! 絶対コラボしたい」
「はづきちゃんとのコラボ、毎回変なことが起きるピョンよ。風街さんならおすすめピョンなあ……。二人とも変だし」
「なんですって!!」
賑やか賑やか。
そしてついに到着したスタジオ。
「マネージャー!!」
男性声優さんが叫んだ。
ああっ、恰幅がよくてメガネの優しそうなマネージャーさんが、ラジオのMC席に縛り付けられている!
無事だったー。
「ど、どうして来たんですか! あ、でも来たなら助けてえ」
とっさに男性声優さんを庇ったものの、コワイものはコワイもんねえ。
「大丈夫だ、助ける! 配信者の皆さんにも来てもらったんだ! 皆さん、よろしくお願いします!」
男性声優さんが頭を下げて、凄くいい声でお願いしてきた。
ピョンパルさんと風街さんが、なんかカッと目を見開いてやる気になってる!
「ええ声のバフ、いっただきましたピョンー!!」
「もうギフトだよね、ギフト! よっし、やるぞお!」
私もなんか、やる気にならないと申し訳ないので、「や、やるぞー」と小声で合わせておいた。
そうしたら、まだ後ろにくっついていた野中さんが、
「はづきちゃんのいいところ見せて下さい……。さとな、期待しちゃうな……」
とか耳元で囁きを!
「あひー」
※『ウワーッ! 野中さとなのゼロ距離ASMR!!』『我々の耳と脳が溶かされた!』『なんちゅう……なんちゅうもんを聞かせてくれるんや……!!』
私とお前らは、揃って脳と耳をトロトロに溶かされてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます