第72話 ドロドロ! スタジオダンジョン攻略伝説

「お前ら、こんきらー! 今日はなんか、愛憎渦巻く理由でダンジョン化した収録スタジオを、インターネットラジオ配信までに攻略するRTA配信でーす!」


※『こんきらー』『相変わらずはづきっちはカオスに巻き込まれるなあ』『こんきらー! 横に野中ちゃんいるじゃん!』


「こんにちはー!」


 野中さとなさんが手を振る。

 ワーッと盛り上がるコメント欄。

 もちろん、ツブヤキックスのトレンドに乗った。


 どんどん同接が増える……。


「今回は突発コラボピョンなー。余計な仕事が増えたピョン! やれやれピョン」


「私としては、はづきさん……はづきちゃんって呼んでいい? いいよね? はづきちゃんの実力を見られると思うと凄く楽しみで、まさに目をつけた甲斐があったなーって」


※『ピョンパルと流星ちゃんおるやん!!』『なんやこれ!?』『いつもの突発配信かと思ったらアイドル声優とライブダンジョンの配信者二人を巻き込んだ超大型コラボじゃん!?』『なぜ予告もなしにやるのか』


 私も、ピョンパルさんも、風街さんも、コメント欄の流れが凄いことになってる。


「えっと、あの、愛憎渦巻く感じの理由でこうなって……。なんか男性声優さんの結婚報告に、ガチ恋勢の人がその場で生霊化してデーモンになっちゃったって」


※『こっわ』『やばばじゃん』『男性声優逃げてー』


 男性声優の人、これを見越して脱出経路を確保してあり、相手の女性が誰なのかは全く明かさなかったらしい。

 グッジョブ過ぎる。


 で、緊急避難通路からダンジョン化する寸前に見事脱出した男性声優があちらにいるわけです。

 すらっと背が高くて、多分イケメンだと思うし、声は見た目に反してダンディで低い。

 なるほど人気出そう。


「僕を庇って、マネージャーが取り残されているんです! 彼を助けて下さい!!」


「あっ、は、はい!」


 凄い勢いで頼まれてしまった。

 そして私たち三人と同行する野中さんを見て、彼はびっくりしたようだ。


「野中さんも行くんですか!?」


「はい! これから収録なので!」


「命がけの収録……!! 危ないですよ!」


「大丈夫です! 私、前もはづきちゃんとピョンパルちゃんに守ってもらいましたから! 私だってお役に立てますし!」


「なるほど……。声優には声優の戦い方が……!! 分かりました! マネージャーは僕を庇って取り残されたんです! 僕も行きます!!」


 うわーっ、同行者が増えた!!


※『コラボの規模が拡大したじゃん』『なんでこういう面白いことになるの』『はづきっちの配信、突発だし、こういう予告なしで始まるやつの方が神がかってるからたちが悪いよな』たこやき『撮れ高しかねえ』


 こうして、私たちはダンジョン化したスタジオビルに突入した。

 あまり大きくないビルの中層がスタジオなんだけど……。

 一階からもうダンジョンだねえ。


 地面がぐにゃぐにゃとうねり、壁から染み出すようにしてモンスターが出現する。


 一見すると、武装したガイコツ。

 腕が四本あって、それぞれに武器を構えている。

 こんなのが壁のあちこちからどんどん出てきた。


「彼らはスケルトンウォリアーね! モンスターとしては中の上くらい。同接1000人クラスの配信者では歯が立たないレベルだよ!」


「風街さん詳しい~」


「ふっふっふ、尊敬してくれてもいいけど、これは迷宮省のデータベースに乗ってるんだなあ。じゃあ、行きます!」


 風街さんの戦い方は、声に乗せて魔法を使うもの。

 もともと歌手活動みたいなこともしてた人で、そこに現代魔法をアレンジして組み合わせたらしい。


 彼女が歌い出すと、Aフォンが音楽を奏でる。

 歌声が風になり、炎になり、スケルトンウォリアーを打ちのめした。


 うーん、強い!

 ピョンパルさんは敵の中に飛び込み、手足から展開する刃でモンスターを倒していく。

 ちなみにこの刃、本当は刃がついてないプラスチック製。

 同接パワーで本当に刃と同じ強さになるらしい。


 私たち冒険配信者は、銃とか刃物を町中で持ち歩けないからね……!


「はづきちゃんが手持ち無沙汰になってる」


「そういうことってあるんですね」


 後ろですっごくいい声の声優さんたちが喋ってる。


「はづきちゃんは追い詰められると凄いんですよ。かっこいいんです! あんなに可愛いのにさらにかっこいいなんて……推せる……」


「そうなんですね……。でも今はなんかボーッと棒立ちしてて、配信しててこれは可哀想ですよね。よし、僕、敵を呼び寄せます。うおおおおおおおお!!」


「あひー!」


 私の背後で、男性声優の方がめっちゃ野太い声で吠えた。

 響く響く。

 これがボイトレしてる人のパワー!


 スケルトンウォリアーたちもビクッとして、慌ててこっちを振り向いた。

 うわー、こっち来なくていいのに!


 私はもたもたと、リュックからゴボウを引き抜く。


「まるで機甲戦士バルダムのビームセイバーみたいに差してるんですね! あんなに抜く動きがゆっくりでいいんですか?」


「普通はいいわけ無いんですけど、はづきちゃんだけは許されるんです! 洗練されたもたもた動作……!」


※『野中ちゃんガチ勢じゃん』『はづきっちへの洞察力が高い』


「私も普段はみなさんと一緒に、お前らになってコメントしてますから!」


※『な、なんだってー!!』『俺たちのなかに野中ちゃんがいた』『キラキラしてる野中ちゃんも、電車の中でくたびれた顔でスマホ見てる俺たちも、みんな揃ってお前らだ!』『そこに違いなんかありゃしねえんだな……』おこのみ『違……わないのだ!』


 コメントが盛り上がっているところ悪いんですが!

 ゴボウを抜きかけたところで、思いの外素早いスケルトンウォリアーが攻撃を!


「あひー! 私、一巻の終わり……!」


 後ろに声優さんたちがいるので、後退もできず通路でもじもじ動いていたら、スケルトンウォリアーの連続攻撃がもたもた抜いている最中のゴボウに偶然当たる。


「す、凄い! モンスターの攻撃ごとき、武器を抜くまでもないなんて! よろけてるように見えるけど、全ての動きが敵の攻撃を防ぐようになっている!」


「抜きかけのゴボウの20センチくらいのところで、連続攻撃を全部受け切るのがはづきちゃんなんですよ! 見てても意味わからないですよね!? そこがすっごく魅力なんです!」


 褒められてるよね!?

 解せぬ。


 ようやくゴボウがすっぽ抜けた。

 ゴボウの膨らんでる部分がリュックに引っかかってたみたい。


 抜けた勢いで、たまたま正面のスケルトンウォリアーの頭にペチッと当たるゴボウ。


『ウグワーッ!』


 モンスターが叫びながら光になって砕け散った。

 私、残心を決める……ような余裕はなくて、振り切った勢いに体を持っていかれて、


「あひー」


 ゴボウを突き出した姿勢のままよろけた。

 そこに、飛び込んでこようとするスケルトンウォリアーの群れが!


※もんじゃ『あ、あれは! 歌舞伎で言う六方の動き!! マスターしていたのか!』『有識者、知っているのか!』『あー、六方って片手突き出して片足で前に進むあれか!』『確かに似てるー』『表情は迫真である』『どうしてこうなった!? とか考えてそう』


 モンスターは、私が突き出したゴボウに勝手に当たって砕け散っていく!


『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』

『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』

『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』


 男性声優さんがおびき寄せたスケルトンウォリアーは、あっという間にみんないなくなってしまった。


「これが……これがきら星はづきさんなのか! 凄い……! 無駄しか無いように見える動きなのに、全ての挙動がモンスターを倒すために最適化されている!」


※もんじゃ『これがモンスターの天敵、きら星はづきである』


「ゴボウの先がふらふらしてるから、こっちまでモンスターが抜けてこれないの! ね、凄いでしょ!」


 野中さんが自分のことみたいに自慢している。


 ピョンパルさんと風街さんも十分に絵になるところを撮れたみたい。


「あれを二人守って無傷でしのぎ切って反撃で全滅させるとか、相変わらずはづきさんはおかしいピョンなー」


「私も見てて何が起こってるのか全く分からなかったなあ……!」


 二人とも、私の戦いを見てたらしく、なんか笑いながら話してるんだけど。

 どうしてこうなってるのか、一番わからないのは私なのだ!


 毎回全力なんだけどなあ!


「これでこのフロアはクリアですね! エレベーターか階段で次行きましょう!」


 野中さんの掛け声で、私たちは移動を開始するのだった。


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