第170話 年末イベントの顔合わせ伝説
配信者の年越しイベントなるものに招待されてしまった……!
つまり、冒険配信者たちが歌謡祭するらしいんだけど、私はゲスト席でこれを聞いて軽妙なトークをせねばならないらしいのだ。
あひー。
そんなもんできるかー!
「はづき先輩、うちやります!」
「も、もみじちゃんが燃えてる……!! 別に私たちが歌わなくてもいいんだけど」
「そうなんですかー!? でもでも、ここで目立てばうちの登録者数20万人に近づくし」
そう言えばもみじちゃん、20万人になったら他にデビューさせたい人を会社がバックアップしてくれるという話だった。
もみじちゃんの登録者数は9万人。
十分にすごい。
みんな彼女の可愛さにメロメロになった人々だ。
だが、もみじちゃんは可愛いだけではなく、音楽的パフォーマンスも大したものなのだ。
今もレッスンに通ってるしね。
私?
私は死んでも歌わんぞ……。
ということで、もみじちゃんとビクトリアを連れてイベントのリハーサルに出掛けた。
このイベントはボランティアみたいなもので、得られた収益はダンジョンハザード救済基金に寄付されるらしい。
名誉なイベントなんだそうで、各企業系配信者の人たちも参加したりする。
「よく来てくれましたきら星はづきさん!! 貴女がいなければ始まりませんから!!」
なんか主催らしき、個人勢の女の人が大感激していた。
この人、チャラウェイさんの回復パーティーで会ったなあ。
蛙飛クロロさん。
色々企画屋なことをする人らしくて、風街さんや八咫烏さん、バトラさんの古い知り合いらしい。
特に、昔バトラさんと同じジェーン・ドゥ所属だったみたいで、この伝手をフル活用して今の地位を築いたんだって。
「あ、ど、ども。見てるだけですけど、まあ……」
「いいえいいえ! 貴女がいるだけで全然違いますから~! あー、良かった! ギリギリのオファーを受けてくれて。どうしようか迷ってたんだけど、バトラさんや流星さんが誘っちゃえ誘っちゃえ、と後押ししてくれたんで」
私は押しに弱いからな……。
風街さんとバトラさんの二人に完全に見破られている。
そんな私の袖を、もみじちゃんが引っ張る。
何か言いたげである。
なるほどー。
「あのあの。飛び入りで歌ったりできるんですか?」
「えっ!?」
私の質問を受けて、クロロさんが目を白黒させた。
おおーっ、配信の中で見られるカエル仕草。
「それはつまりきら星はづきさんが歌ってくださると!? 大歓迎ですー!!」
「ちっちっちっ違いますうちの事務所の子が」
「あーなるほどー」
トーンが静かになった。
「ううう」
もみじちゃんがもじもじしてるなあ。
仕方ない。
「私と彼女がデュエットで……」
「大歓迎ですー!!」
クロロさんが飛び跳ねて感激した。
くそー、もみじちゃんのためなら仕方ねえー。
「せ、先輩……! 大好きー!!」
「リーダー優しい……! Way too cool!」
両脇から後輩女子たちにもみくちゃにされる私なのだった。
クロロさん、これを見て目を輝かせる。
「凄い……。あれだけ有名になったのに後輩思いで、凄く慕われてるんですねえ! 人気と実力と人徳まで兼ね備えて、完璧超人か? うりうり」
「あひー、か、買いかぶりです~!」
ということで。
圧倒的パフォーマンスの配信者の皆さんによる歌謡祭リハーサルを見て。
合間にある箸休めで、ゲストである私ともみじちゃんがエキシビションという感じでちょっと歌うと。
「生放送ですから、ちょっとグダったりとちったりは普通ですから! それに歌の長さもショートになりますし」
「は、はいー」
「はひ! 頑張ります!」
「二人ともファイトー!」
ということで、燃えるもみじちゃんとともにレッスンのため、カラオケボックスへ。
ビクトリアがマラカスをシャカシャカ振る前で、デュエットの練習をしたのだった。
今回の出場配信者たちが選んだ曲と被らない、ユニゾンで歌う女性ボーカルによるアニソン。
なるほど……半分以上ユニゾンならいける……。
もみじちゃんにカバーしてもらえる……!!
そんなわけで、大晦日までわずか数日。
私の大特訓が始まったのだった。
終業式が終わり、本日もカラオケボックス。
「はづき先輩はだんだん慣れてきましたねー。えっと、うち考えたんですけど」
「なあに」
ポテトを注文して、もりもり食べる私。
歌はカロリーを消費するなあ~。
「観客がいると思うと緊張するでしょー」
「するねえ」
「観客じゃなくてダンジョンのモンスターがたくさんいると思えば」
「あっ、全然緊張しない……」
「普通はめっちゃ緊張すると思うんですけどー。はづき先輩だから!」
ありがたいマインドセットだ!
なるほど、観客はモンスター、観客はモンスター、観客はモンスター。
私はスーッと無意識のうちにゴボウを取り出していた。
「あっあっあっ! はづき先輩ゴボウを振り回したらダメです! リアルでもはづき先輩のゴボウは本当にダメ!」
「そ、そう!? じゃあバーチャルゴボウで……」
「それならまだ……」
こうして練習の日々は一瞬で流れ……。
ついに発表の当日が来たのだった。
おかしい。
私はゲスト席で悠然と鑑賞するだけで良かったはずなのに。
気がつくと後輩のために奮起する展開になっている……!
仕方ない、やるかあ。
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