第171話 年越し!配信者歌謡祭伝説

 始まった。

 始まってしまった……!


 私が人前で歌うイベントが……!


「はづき先輩配信で歌ったりしてたじゃないですか。あれ何百万人が見たと思ってるんですか」


「えっ、動画再生数もうそんなになってるの」


「一千万届きますよもうすぐ」


「あひい」


 全世界に歌声を晒した後だった。

 だったらもう何も怖くねえ。


『皆様、今年も一年お疲れ様でした! 今宵は歌って騒いで、今年最後の大イベント! 配信者歌謡祭でございます! 楽しんで参りましょう!』


 蛙飛クロロさんが司会を務める。

 そして相方は見たことがある人……。


『ヒャッハー!! みんな、年忘れイベント、楽しんで行こうぜぇーっ!!』


 チャラウェイさんだ!

 こんなビッグイベントの司会をやるほどの人なんだなあ……。


 この配信者歌謡祭、今年で五年目らしい。

 冒険配信者が今みたいに、バーチャライズして配信するようになってから六年。

 その一年後に始まったんだって。


 一昨年は兄がゲスト参加してて、その半年後に配信者引退した……という話をもみじちゃんに聞いた。


「なんではづき先輩、斑鳩様の妹なのに知らないんですかあ」


「いやー、昨年まで本格的に引きこもってたので……」


『素晴らしいゲストの方々が来てくださっています。まず、迷宮省長官、大京嗣也氏。今年度大ヒットアニメ、時空戦士バルダム~魔星のアクア~で主人公のミレアを演じた声優の野中さとなさん』


 わあわあと観客席から歓声が聞こえる。

 名前を呼ばれた人たちが、立ち上がってあちこちに会釈した。


 一人挟んで隣が野中さんだったのか!!

 彼女は私を見て凄くにっこりする。


『そしてサプライズゲストです! 今年度の配信者と言えばこの人! 全世界を震わせた、アメリカでの配信は記憶にも新しいことでしょう!』


 ざわめき。

 それがなんか、すっごいどよめきに変わる。


 な、なんだなんだ。

 誰が出てくるんだ。


『紹介しましょう! もはや新人ではない大物配信者! きら星はづきさん!!』


 うわーっ!! と大歓声。

 なんか私にスポットライトが当たる。

 あひっ、まぶしっ。


 私がめちゃくちゃ眩しがってじたばたしてる姿がスクリーンに映し出されて、会場がドッと沸いた。


 この配信はあちこちのチャンネルでも流れてるので、コメントが草で覆い尽くされる。


※『はづきっちめちゃくちゃ眩しがってて草』『名前呼ばれる直前まで全く自分のことだと思ってなかったw』『平常運転過ぎるw』


 とりあえず慌てて立ち上がり、ぴょこぴょことあちこちに頭を下げた。

 温かい拍手が起こる。

 みんなあったけえー。


 もみじちゃんも一緒に立ち上がって、私と一緒にペコペコした。


※『可愛い子が一緒におる』『イカルガの新人さんな』『先輩に連れてきてもらったんだな』『むしろはづきっちの付き添いかも知れないw』


 確かに……。


『以上豪華ゲストの方々をお迎えして、さあ始めて参りましょう! まずは一曲目はこの方! 風街流星さんで“ミーティア”!』


 うおわーっと盛り上がりが最高潮に達した。

 イベント開始なのだ。


 私はもみじちゃんと並んで座りながら、ジュースをごくごく飲みつつ歌合戦を見学した。

 いやー、いいものですねえ。


 このイベントは残念ながら食べ物は出てこないので、ジュースで我慢せねば……。

 あ、トイレ行かなくていいように量も控えないとなの?

 つ、つらい……。


 ちょこちょこカメラが私を映して来るので、私は手を振ったりいないいないばあをしたりした。


「せ、先輩! そういうファンサは別にしなくてもいいんですよ」


「そうなの?」


 だが大受けだったみたい。

 楽しんでもらえて嬉しい……。


 こうしてプログラムが順調に消化されていく。


 次々に上手い配信者の人が熱唱するんで、飽きずにずっと見てられる。

 ちょこちょこネタに走った人もいるなあ。

 滑ってもご愛嬌、コメント欄を草や『は?』『今なんて?』が流れることで、ちゃんとネタに昇華される。


 いいイベントだあ。


 そしてついにやって来てしまった。


『ここで全プログラムの半分が消化されました! 一次休憩と参りましょう。では……ゲストの方が特別に、一曲歌ってくださいます! きら星はづきさん、鹿野もみじさんで……“connection”!!』


 うおおおおーっ!とどよめき走る!

 うちのお前らにも秘密にしてたので、お前らもうわあああああと叫んでいる。


 あまり期待しないで頂きたい……。

 私の場合は某国営放送ののど自慢大会で鐘が一個なるレベルだと自負しているのだ。


 そして歌い出す!

 私は実は、自分が音を外れているのか外れていないのかよく分からない!

 とにかく全力で歌うのみだ。


 眼の前にいるのは観客ではない、モンスター……。

 おお、モンスターだと思ったら凄くリラックスしてきた……。


 そして私の歌声をもみじちゃんが上手くカバーしてくれる。

 できた後輩だなあ。


※『はづきっち上手くなってるな!』『やっぱり他にない歌声だなあ』『相方の子可愛くない?』『歌うっま』『あ、ハモった!』『ユニゾンの歌でちょっとアレンジ入れてきたな』『はづきっちがちょっと調子が外れたから結果的にハモリになった説』『ありうる……』


 サビで、私たちの背後でなんか流れ始めたみたいだ。

 私は歌うのに必死で見る暇なんかないけどな!


 だけど、会場もコメント欄もめちゃくちゃ盛り上がっている。


※『はづきっちの配信じゃん!』『一年の総まとめだ!』『ダイジェストでどんどん流れる……!』『エモい……!!』『ダンジョンハザード凄かったよなあ』『商品紹介とかw』『上に登り続ける配信!』『例のプール!』『アメリカ!!』『北海道がさ』『VRだろ』『あー、異世界!』


 大変な盛り上がりの中、私たちは歌いきった。

 いやあー、いい仕事しましたねえ。

 私は大満足なのだ。

 そしてお腹が減ったので何か食べたい。


 えっ、年越しそばが出るんですか!?


 最後に画面に、協力・イカルガエンターテイメント・冒険配信者うぉっちチャンネルと出てムービーも終わった。

 後でアーカイブ見ておこう。


 ゲスト席に戻ったら、野中さんが隣のゲストさんと席を交代していて、私をむぎゅーっとハグして来た。


「最高……!! 最の高だよはづきちゃん……! 愛してるぅ……!!」


「あひー光栄です~」


 そうしていたらお腹が鳴ったので、出された年越しそばを美味しくいただいた。

 イベントはつつがなく進み……。


 最後に出演者みんなで壇上に上がって歌う。

 私ともみじちゃんと野中さんも壇上で並んでわいわい歌い……。


 歌いきったところで、年が明けた。


「あけましておめでとうござまーす!!」


 新たな一年の始まりなのだ。

 お餅が食べられるぞお。

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