新年!私の心機一転編

第172話 新年始めは仕事しない伝説

 歌合戦イベントの後、私とシカコ氏はタクシーで送ってもらった。

 家について、シャワーを浴びてガーッと髪を乾かし、家族やビクトリアから色々わあわあ感想を言われながら、私はスピーっと寝てしまったのだった。


 目覚めたら自室のベッドの上。

 布団にくるまって爆睡していた。


 時計を見る。


「11時!!」


 本当に爆睡してしまった。

 もぞもぞ起き上がり、のそのそ着替え、髪の毛を雑にまとめてから階下に降りる。


「おっ、起きてきたな。あけましておめでとう!」


「あけましておめでとうございます」


「リーダー、ハッピーニューイヤー!」


「あけましておめでとうございます……。なんでビクトリアは和服着てるの」


 そう!

 ビクトリアが黒と赤のなんかゴス可愛い和服を着ているのだ。


「ジャパンのママが布を買ってくれたの! こっそり二人で作ってたんだ」


「ほええ」


 わたしゃ、お正月だというのにだぶだぶのスウェットワンピースだよ。

 気付くと胸元に大きなブタさんのアップリケがされていたので、母が密かにカスタムしていたらしい。

 昨日の歌合戦の感想などを家族から聞きつつ、私はもそもそとおせちを食べ……たところで血糖値が上がって目がシャキーンと冴えた。


「お母さん!! お餅が食べたい……!」


「もう焼き上がってるわよ。お雑煮、お汁粉、磯辺巻き、納豆巻き、きなこ、どれでもいけるけど?」


「お雑煮から……!!」


「ホイきた」


 母がサッと台所に移動し、ものの十数秒でお雑煮を持ってきた。

 手際~!


「ジャパンのママは凄いわよ。一流のシェフね。モチを焼いてお湯につけてくっつかないように準備してるのね。そうすると冷たくならないし」


「食べる間の一時しのぎだけどね。私もこの娘もたくさん食べるから、こうやってすぐに使えるようにしておくわけ」


 な、なるほどー。

 私は昨年まで食べる専のだらけた生き物として正月を暮らしてきた。

 普段もあまりお料理しなかったからな。


 今年はちょいと、私も自ら食べ物を用意するとするか……!


 むしゃむしゃお餅を食べ、お雑煮をズズズーっと飲み込んだ。


「ではセルフでお汁粉作ってきます」


「あら行ってらっしゃい。二番のお鍋があんこよ」


「はっ、山盛りで行ってきます」


 お餅をあんこまみれにして……量は……四個で良かろう……。

 私はまた、お餅をむしゃむしゃと食べた。

 磯辺巻きも納豆餅もきなこ餅も食べた。


 ビクトリアは納豆とあんこは苦手らしいので、主に磯辺巻を食べた。


「豆が甘く煮られているのにまだ抵抗が……。ジャパニーズがお米が甘くなってスイーツになるのに抵抗があるのと一緒よ」


「私はライスプディングいけるなあ」


「リーダーは特別だと思うわ」


 そういう話をした後、せっかくなのでビクトリアと初詣に行こうじゃないかという話になったのだった。


「ちゃんとあなたの着物を用意してあります」


「えっ!?」


 いつの間に……!?

 母が奥から持ってきたのは、彼女が若い頃に着てたやつらしい。

 おお……。

 なんか赤と金色でキラキラしている。


「景気のいい時代の終わり頃だったからねえ」


 母が遠い目をした。

 私は着物の柄にそこまで興味がないので、お任せだ。


 何故か着付けまでできる母に全ておまかせする……。


「ジャパンのママはなんでもできるわね! リーダーと一緒だわ!」


「そうでもないわよ」


「私もそんなに色々できるわけじゃない……」


「ジャパニーズ謙遜」


 いやいや……。

 こうして着替え、髪の毛までキレイに結ってもらい、お化粧までされて。

 ビクトリアとお揃いで初詣となった。


 父が物凄く一緒に来たがったので、母とともに同行してもらった。

 めちゃくちゃ嬉しそうで、カメラで撮る気満々だ。


「二人ともそこの電柱のところで振り返って。いいね、似合ってる! すごくきれいだよ! はい、チーズ!」


 私もビクトリアも陰の者なので、こういうポーズを決めるのは苦手である。

 ぎこちないピースサインをしながら、ちょっと引きつった笑顔になった。

 今年最初の写真……!


「緊張した笑顔もいいな……」


 何やっても褒めてくれるじゃんこの父。


 ビクトリアは振袖草履の感覚が楽しいらしくて、パタパタ早足で歩いてみたり、時々飛び跳ねたりしている。

 その後振り返り、父に何かお願いしていた。


 おっ、撮影会してる。

 多分アメリカの家族に写真を送るのだ。

 今度は凄くいい笑顔だ。

 かーわいい。


「じゃあ次はお前だな……」


「私は大丈夫、のーせんきゅー」


「そんな事言わずに」


「のーのー!」


「やりましょやりましょ。若いうちは一瞬なんだから。私だってこの振袖を着ていられたの一瞬だし。ちょっと……派手なデザインが……」


 なんでそれを私に着せたのだ……!

 いやあ、確かに周りを見回すと、私の赤と金色の振袖は一番ゴージャスに見える……。


 その後、父に拝み倒されてめちゃくちゃに撮影されてしまった。

 うおお、なんたる恥ずかしさ。


 そして神社へ突入。

 流石にめちゃくちゃ混んでいる。


 参拝の列に並んだら、ちょうど帰ってくるイノ、シカ、チョウの三人娘に出会った。


「あっ、先輩!」


 シカコ氏だ。


「先輩……?」


 一人訝しげに首を傾げるイノッチ氏。


「凄い着物……!!」


 チョーコ氏が戦慄し、すぐにスマホを持ち上げて「撮影よろしい?」とか聞いてきた。

 もうどうにでもしていただきたい。


 たくさん撮影された。

 三人とも普通にコート姿。


 うーむ、ああいうカジュアルな感じの方が良かったかなあ……!


「っていうか、着物で髪上げたらもう別人じゃん。やべえ……美女」


 なんかイノッチ氏が私を見ながらぶつぶつ言ってる。

 チョーコ氏はそそそっと近づいてきて、


「今年からは色々お世話になると思います。よろしくお願いします」


 とかなんとか、改まった口調で言うのだ。


「こちらこそこちらこそ」


 私はいい感じで返しておいた。


 シカコ氏はビクトリアと二人で、あけましておめでとうございますの挨拶。

 それから父に頼んで、並んで笑顔でピースしてる様子を撮ってもらっていた。

 うーん、仲良し!

 同期の絆だね。


 こうして新たな一年がスタートした。

 私はお賽銭で千円札をするっと投げ込み、お祈りすることを考えた。


 うん、これで行こう。


「今年も美味しいものがたくさん食べられますように……。あと、仲良くなった人たちがみんな平和でありますように……」



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