第114話 機内ダンジョンちやほや伝説
「えーと、なんですかね。何が起きてますかね……」
※『おはようw』『おはよー』『眠そう』『寝癖ついてる』『寝ぼけながら強力なデーモン二人を単独で圧倒する女』
なんですかなんですか?
眼の前には、コウモリみたいな翼を生やした赤と青の肌のCAさんがいる。
カラフルなアメリカン美人!
だけど赤い方のCAさんはゴボウに当たって半分くらいになってしまった。
これデーモンだ!
「あひー、侵入できないはずでは!? あ、そうか夢か」
※『だんだん目が覚めてきたぞ』『頭が覚醒するほどに夢の中みたいなことしか言わなくなるなw』たこやき『最初からいたらしい。敵だよ、敵』
「お、おっす。じゃあぺぺイッとやっつけます」
私がコメント欄とわちゃわちゃ会話しているのが、デーモンたちの癇に障ったらしい。
何か英語で叫びながら、こっちに攻撃を仕掛けてくる。
えーと、氷とか炎がやってきたけど、魔法かな?
私はファーストクラスの座席に隠れてやり過ごした。
そこでハッとする。
CAの人たちがこっちにいるということは、このままでは機内食が出てこないのでは!?
それは困る。
「あのう……機内食は勝手に食べてもいいものですかね……」
向こうさんはまた英語で叫んでる。
Aフォンは気を利かせて翻訳してこない。
なんで今回は訳さないのー。
「仕方ない。この人たちをやっつけて、本物のCAさんが残ってたら機内食あっためてもらおう……」
そういうことにした。
リュックからバーチャルゴボウを取り出す。
ただの棒だったものが、あっという間にゴボウの見た目になった。
表面の凸凹に見せかけて、ボタンが配置されている。
「えーと……これがなんかリフレクトモード……?」
ポチッと押したら、ゴボウが展開した。
「ゴボウの開き!」
飛んでくる炎と氷の魔法は、ゴボウが開いたところに当たると……くるりと反転してデーモンたちに飛んでいく。
『!!!!!』『~~~~~!!!!』
なんか叫んでる叫んでる。
うまい感じに、炎が青いデーモンに、氷が赤いデーモンに当たった。
効いてるー。
私は座席から出てきて、小走りで寄っていった。
まさか飛行機の中で走ることになるとは……。
お行儀が悪いのを今だけお許しください!
※『うおおおお勝利の小走り!』『いけはづきっちーっ!!』『ちなみにAフォンは翻訳してくれないみたいだけど、こっちはアワチューブの字幕機能が使えてるぞ』
「え、ほんと!?」
私はよそ見した。
その時に適当に振ったバーチャルゴボウが、なんか周りに張り巡らされてたっぽい魔法のトラップを次々粉砕する。
※『Aフォンの読み上げ機能使おう』
「はあい。翻訳文読み上げて」
『ば、ばかなあ』『見ずにトラップを破壊するなんてなめられているのぉ』『ゆるせないぃ』
「あ、可愛くなった」
棒読みの読み上げ機能に、私は思わず笑ってしまう。
この笑ったのが、デーモンたちの勘に障ったらしい。
もう金切り声をあげて襲いかかってくる。
「あひー、み、皆さん落ち着いて! うわー、アメリカの女の人は背が高い~」
※『のんきなこと言いながら連続攻撃完全に捌いてるの草』『不規則に揺れるゴボウとバーチャルゴボウの動きが、たまたま的確に攻撃を防ぐんだよな』『はづきっちに注目してると素人丸出しなのに、敵に注目してると達人の動きに見えてくる』
『こ、攻撃があたらないぃ』『なんなのこの女ぁ』
「あ、きら星はづきです。さっきみんなが紹介してくれたみたいで。よろしくお願いします」
私はペコペコ小さく会釈しながら、二人を押し込んでいく。
※『攻撃を放ってる側がどんどん追い詰められていくの草』『完璧に防ぎきりながらどんどん前に出るんだもんw』『防御は最強の攻撃や』
コメントは見たことがある人たちのばかりなのだけれど、ネチョネチョ動画の配信では違ったみたい。
外国の人たちが、色々な言語でウワーッと盛り上がっている。
デーモンが使ってくる魔法は、もうすっごい密度になってきていて、私の眼の前で炎と氷がバリバリ炸裂してるんだけど、たまたまゴボウに当たってこっちまで全然抜けてこない。
なので私がもりもり前進する。
デーモンたちが叫びながら後退する。
それで、ついにここは飛行機の最後尾なんですが。
「ていっ」
『ウグワーッ!!』
半分削れてた人が、私のゴボウでペチッと叩かれて粉々に砕け散った。
『キャスリーン!? ~~~~!!』
なんか怒って叫んでる。
ひえー、そんな怒んないでもらえませんか……!
私は口元に人差し指を持ってきて、静かにっていうジェスチャーをした。
これは世界共通だよね?
そうしたら……デーモンの青い顔が一瞬さらに青くなって、そこから赤黒く変色した。
怒った?
怒った?
なお、ネチョネチョ動画ではコメントが爆発的に流れる。
後で聞いたんだけど、『やってくれたぜ!』『最高の挑発だ!』『見たかデーモン女! これが人類の反撃だ!』とか盛り上がってたみたい。
うちのコメントはもう慣れているので、
※『まーた挑発してるw』『デーモンからすると最悪の相手だよなあ』『あー、無謀に突撃してきた』『はづきっちの守りは盤石だと言うのに』
そして。
『ウグワーッ!?』
飛び込んできた青いデーモンの人は、私がなんとなく突き出してあったゴボウに自分から当たって粉砕された。
あー、前方不注意は危ない……。
※『身も蓋もない』『最後の一言すら許してもらえないの草』もんじゃ『なまじ予知能力に頼っているからこそ、その予知が完璧に妨害されるはづきっちとの戦いでは何もかも裏目に出るのだろう』『だが有識者、いつもは不規則なはづきっちが今回は割りと達人めいた動きをしていたようだが……』もんじゃ『寝起きでぼーっとしてるのと、空腹だったので雑に動いたのだろう……』
もんじゃ、私の腹具合に詳しい!
二人のデーモンを倒したら、機内が普通の感じに戻った。
いや、むしろなんか、前より居心地がいい感じになったような……。
倒れてた兵士の人たちが、次々に起き上がってくる。
みんなげっそりした顔してる。
だけど、誰もが私を見て微笑んだ。
『勝利の女神がいてくれたぜ』『俺たちが絞り尽くされる前にあのビッチどもを粉々にしてくれた!』『なるほど、こいつはジョーカーだ!』『俺が元気なら放っておかないんだが!』
「あー、皆さん、どうもどうも」
私はこういうノリが苦手なので、曖昧な笑顔でするーっと会話を躱した。
ちなみにアメリカの偉い人はデーモンにやられてしまったみたいで、この飛行機は責任者不在になってるみたいだ。
つまり……機内食をいつ食べていいかという判断は私がしていいということ……?
「いや、機内では勝手に動かないほうがいいだろう」
兄が席から立ち上がった。
「俺は操縦席を確認してくる。無事だといいのだが……」
不穏なこと言ってる!
ちなみに機内食だけど……。
『戦いのあとのディナーだぜ、勝利の女神さん』『ちょいとショボいかも知れないが、ステイツに到着したら俺が知ってる最高のステーキをごちそうするぜ』『おいお前抜け駆けはやめろよ』『押すな押すな』
「あひー、あ、ありがとうございます~!」
兵士の人たちがワーッと寄ってきて、ご飯や飲み物をたくさん用意してくれたのだった。
それはありがたいんですが、私の前でわあわあ喧嘩しないでくださーい!?
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