第183話 あちらの事情と国際コラボダイジェスト伝説

 夜にチェンファの配信を見てたんだけど、


『お兄ちゃんたちそんなことも知らないの? 年下の女の子に知識でマウント取られて、なっさけないんだー。ザァーコザーコ』


※『ぬぎぎぎぎぎ……^^』『こ、このガキィ……^^』『分からせてやるぅ』


 という約束組手みたいなやり取りが多くて、奥深い世界だった。

 確かなニーズがあって成立しているんだなあ……。


「私がこういうメスガキ的シチュエーションでやるのどうですかね」


※『はづきっちはああいう猫的なキャラじゃないもんな』『ハムスター的生命体だもんなあ』


 ハムスター!!

 食べ物を与えると食いつき、触るともぞもぞ動き、自由に寝て、回し車を一心不乱に疾走する……。

 似ているかも知れない。


 そんな雑談配信をしていたら翌日です。

 今日は五人でコラボのダンジョン配信をすると予告してある。


 今朝方発生したダンジョンを見つけて、緊急性がないのも確認した。

 メイユーとチェンファのホテルからそう離れてない地下街だ。


 そこの攻略を地下街オーナーに連絡して予約しておいた。

 こういうのは受付さんがやってくれる。

 ありがたい……。


 オーナーの人も、


「えっ!? ダンジョン攻略をあのきら星はづきちゃんがやってくれるの!? うわー、イメージアップ! ありがとうございます!!」と喜んでいた。

 ダンジョンになった場所なのにイメージアップ……!?


 その日のお昼頃、小腹を空かせた感じで私は現場に到着した。

 ダンジョン攻略後にみんなでご飯の予定なのだ。


 並び立つのは、メイユーとチェンファ。

 ビクトリアにもみじちゃん。


 もうバーチャライズ済みだ。

 メイユーはいつものサイバーな感じの衣装。

 今になってよく見ると、猫耳がついてる。猫サイバーだったのか……。


 鉄爪なんちゃらっていうキャッチコピーもあるもんね。


 チェンファはウサギ。

 ウサギモチーフの配信者の人って何気に多いよねー。

 彼女は足に主な武装を装着してるタイプで、ジャンプしたりキックしたり、空中で足から銃を展開したりするんだとか。


 向こうの配信者のスタイルはかっこいいなあ!


 こうして配信がスタートした。

 アメリカンスタイルのビクトリアは、ショットガン……のスポンジバージョンをガンガンぶっ放したり、チェンソーのおもちゃでモンスターと戦う。

 向こうはこういう地に足が付きつつも、ちょいちょいアメリカン・ヒーローみたいなスタイルがメイン。


 対するもみじちゃんは……。


「てやー!」


 惣菜パンがバネ仕掛けでビヨーンと伸びて行って、モンスターを叩いた。


『ウグワー!!』


 弱いモンスターならこれ一発で消滅してしまう。

 うん、日本が一番訳の分からないスタイルだ!


「ハヅキ、よそ見しながら前線を支えているのね」


「あっ、他のみんなのスタイルが気になりまして……」


※『はづきっちの視界と連動して配信画面も変わるからありがたい』『いろんなやり方の人がいるよな』『大陸はとにかくスタイリッシュだ』『サイバーな仕掛けはやっぱかっこいいよなあ』


 なお、チェンファがまたリスナーをメスガキムーブで煽っており、リスナーたちもお約束で楽しそうにピキっていた。

 これにはうちのお前らも感心している。


※『統率が取れてる』『大陸の俺等も性癖は同じなんだなあって思っちゃうね』『国同士は仲悪くても中の俺らは性癖で繋がれる……』『私二窓してるけどどっちも好きです』


 あっ、向こう側のファンの人がお前らの中にもいた!


「どうもどうも。これからもよろしくお願いしますー」


 私はペコペコしながら、地下街の奥から溢れ出してくるゴーストの群れをレーザーブレードで捌く。


※『相変わらず雑魚が一匹も漏れていかないw』『はづきっち、タンクとして世界最強の一角だからな』『何故かモンスターははづきっちを無視できないという……』


 なんでだろう……!

 とにかく私がゴーストを食い止めている間に、一番奥に発生していた怨霊をメイユーとチェンファが叩く。


 メイユーの展開させた爪が、チェンファの蹴り足が、怨霊を同時攻撃で粉砕した。

 お見事~!


 この怨霊、地下街で待ち合わせたのにデートをすっぽかされた出会い系サイト利用者だったらしい。

 うーん、被害者~。


 ちょこちょこダンジョン発生の大元には社会の被害者がいるよねえ。

 闇を感じる。


※『今回のはづきっちは大人しめだったな』『やっぱホスト側だからねえ』『もてなしの心を理解する女、はづきっち!』


「いやあそれほどでも……」


 コメント欄に褒められている気がして照れ照れする私。

 戻ってきたメイユーが、何やら感心したように私に話しかけてきた。


「お疲れ様。とても動きやすかったわ。前に比べてサポートする力がとても上がったわね。凄い成長だわ」


「あ、どうもどうも」


※『はづきっちが恐縮しとるw』『直接褒められると挙動不審になる人だからなw』


「私の国では、今は怠惰の力を受けたダンジョンがあちこちに頻発しているの。それぞれはそこまで強い力を持っていないけれど、ごく稀に現れる怠惰の使徒は強力ね。ハヅキやあなたの後輩たちみたいな、特別な力に頼らない強い配信者が欲しいところだわ」


 なんか、彼女が帰国してから行われた怠惰のシン・シリーズへの総攻撃で、向こうの配信者はかなり大きな敗北を喫したらしい。

 で、実力者がそれなりの数いなくなってしまったとか。


 今は国をあげて配信者の育成を強化しているところ。

 幸い、怠惰のシン・シリーズはやる気が全く無く、積極的にダンジョンを作ったりして攻撃してこないんだって。

 部下たちがちょこちょこダンジョンを展開していて、彼らの攻略が今はメインになっているそうだ。


「ほえー、怠惰は強いんですか」


「強いわ。私たちの使う武器が、技が、そのほとんどが不活性化させられる。力を封じられてあの化け物と戦うのは自殺行為ね」


 敗北した時のアーカイブは消されているらしく、これは向こうの国の意向らしいんだけど、各国が大いに非難したらしい。

 そりゃそうだよねえ。

 貴重なシン・シリーズ本体との戦いの記録だし。


 なお、色欲のマリリーヌとやり合った時の私のアーカイブは残ってるけど、全く参考にならないと評判なんだって。

 なぜだー。


「正直、二度とやりあいたくない相手だわ。あれと戦うには、特別な技を一つも使わないで最上位のデーモンと渡り合うような実力が必要になるでしょうね。そんな配信者、心当たりなんて……」


 じーっと私を見るメイユーなのだった。


※おこのみ『いるさ! ここに一人なあ!』たこやき『はづきっちは基本技しか持ってないからな……』もんじゃ『基本を極めて奥義に至る。どうして普通の女子高生が武術の真髄を体現しているんだろう……』


 始まりの粉物三人の言葉は、華麗にスルーされる。


「なんでもないわ。お昼ご飯行きましょ!」


「はーい!」


 お昼楽しみだなあ!


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