第182話 回転寿司の五人伝説
都心の地下にあるお寿司屋さん。
メイユーとチェンファのホテルからちょっと歩いたところにあったので、パッと入った。
六人がけの席。
私、ビクトリア、もみじちゃん。
対面はメイユー、チェンファ。
私が回転するお寿司側なのは、すぐにお寿司をゲットするためだ。
で、私が一番奥なのでメイユーも奥になった。
通路側では、もみじちゃんとチェンファがむむむむっと火花を散らしている。
仲良きことは美しきかな。
「じゃあ色々頼んでいきましょー。ええと、あの、ここはこのパッドで注文をするとそれがカプセルに入って届くんで」
「日本の寿司もちょっと変わったのね。チェンファは何がいい?」
「あっ、じゃ、じゃあマグロ……ううん、チュウトロ」
メイユーの前ではチェンファも大人しい。
憧れの人なんだなあ。
私がによによしながら見ていると、チェンファが目を吊り上げて「何笑ってるか! 私はお前を信じたわけじゃないからな!」とキーキー言った。
かわいい。
「リーダーが大物みたいな感じになってる」
「はづき先輩、いわゆる普通のコミュニケーションみたいなのは苦手なんだけど、こういうアニメっぽいツンなやり取りは好きらしいんだよね」
「リーダーらしいなあ。私も分かる……」
うんうん。
生意気な後輩ちゃんにこうやって突っかかられるシチュエーション。
たまらんですね。
「あっ、私は卵としめ鯖ととろサーモンと炙りサーモン……」
「リーダーはサーモン派? 私ロールスシ! やっぱりサーモン!」
「はづき先輩の好みは割りと子ども寄りですよねー。うちはいくらで……」
ワイワイと騒ぐ。
回転寿司は一人で訪れ、個別カウンター席で孤独に静かに食べるものだと思っていたけど、仲のいい人たちと来るのも楽しいじゃない。
私は認識をちょっと改めるのだった。
ぼっちではない飯もいい。
「お前何を何もかも理解したみたいな顔してるの! 何もわからないのはこっちよ!」
「これほどリーダーに適確にツッコミを入れる人は初めてかも知れないね」
「何感心してるのビクトリアー! ちょっと! 先輩に失礼だよ!」
「チェンファ落ち着きなさい。彼女はたまたま大罪の力を克服して我が物とした配信者。世界に一人しかいないのだからわけが分からなくて当然よ」
最後にメイユーが説得したら、チェンファも不服そうだけど大人しくなった。
「メイユー流石ですねー。説得力あるー」
「わけがわからない呼ばわりを説得力あるって言ってる」
何か言いたげなもみじちゃん。
そこへ私たちがオーダーしたお寿司が到着です。
お醤油をつけて食べる。
美味しい美味しい。
私は卵のお寿司が一番好きなので、最初と締めに食べるのだ。
チェンファがわさびで鼻がツーンとしたらしく、涙目になって上がりを飲んでる。
もみじちゃんとはまた違う可愛さがある娘だなあ。
「でもハヅキ、あなたは自分の力の原理に興味はないの?」
メイユーが食事をしながらシリアスな話をしてきた。
「原理って、同接数ですか?」
「それもあるけど、あなたの場合はちょっと次元が違うでしょう? 先程の力は、明らかに大罪のそれだわ。国はあなたを放っておいているの?」
「迷宮省の人とは仲良しですけどー」
「信頼関係があるのね。なるほど……。あなたは人柄も折り紙付きだろうし、流星があなたを監視しているなら平気でしょうね」
風街さんの話が出てきた。
あの人は迷宮省に関係する配信者でトップらしい。
すごい人だった。
「我が国はあなたの力を知りたがっているわ。だけど絶対に来てはダメよ? 戦争になっちゃう」
「せ、せんそう!? 平和が一番です……」
「怠惰一人ですら持て余しているのに、大罪の力を持つ者が二人いたら大変なことよ。国はそれを分かってないの。でも、あなたも気をつけておいてね」
「ふぁい」
お寿司をもぐもぐしながら頷く私。
何の話だろう?
あっ、次はラーメンを頼もう……。
「ちょっと! ここの寿司はプリンを頼めるの!? 私プリンがいいわ!!」
「おこちゃま……」
「なっ、なによー!!」
おおー、チェンファともみじちゃんがやり合っている。
もみじちゃんはお寿司屋さんではちゃんとお寿司でやっていく本格派!
甘味はガリで十分らしい。
渋い。
「リーダー、ずっと食べてるけどフードの写真は撮らなくていいの?」
「あっ!!」
ビクトリアに言われて気づいた。
忘れてた!
私は! 配信者なのだった!!
慌ててお寿司とラーメンの写真を撮った。
ツブヤキックスとピックポックにアップする。
『友達配信者たちとお寿司屋さんなう』
すぐにコメントがたくさん付いた。
※『寿司屋って言いながらラーメンw』『奥に皿が積んである……』『かなり食べてから気づいたなw』『いっぱい食べてて偉い』
うんうん。
リスナーさんの反応が楽しい。
みんなに話題を提供してこその配信者……。
私もだんだんプロとしての心構えみたいなのが育ってきたな……。
ふんふん言ってたら、チェンファもプリンを撮影してアップしていた。
メイユーに聞いたら、彼女は『日本のプリン食べてるんだけどー。リスナーのお兄ちゃんたちお姉ちゃんたちはこんな美味しいものを食べられないのー? かわいそー! チェンファが食べちゃうとこ見て、味を想像だけしてたらー?』みたいな投稿をしてるらしい。
これが特殊な趣味のお兄様お姉様に大受け。
今はいつの間に仲直りしたのか、チェンファがプリンを食べる動画をもみじちゃんが撮影してあげている。
配信者どうし、配信に関わることならば手を取り合うのだ。
仲良きことは美しきかな……。
私はうんうん頷きながら、ラーメンをずずずーっとすするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます