第184話 女三人ぶらり散歩伝説
メイユーがこっちにいると、彼女の朋友であるあの人もまた動き出す。
そう、なうファンタジーの頂点、風紀委員長風花雷火だ。
『我々はいつもダンジョン配信をしています……。ここは気分を変えてぶらり街歩き動画でも撮りませんか』
独特な感じのお誘いが来たので、また私はこの大型コラボに参加することになった。
委員長、メイユー、私。
うちの学校に来た時以来のメンツだなあ。
待ち合わせ場所にやや早めに来たら、既に遠くに委員長の姿が見えた。
他人みたいなふりをして、周囲をうろうろしている。
何気に凄く早く待ち合わせについちゃう人だな……!?
私に気付くと、彼女は「今来たとこ」みたいな顔をして近寄ってきた。
「おや、はづきさん、奇遇ですね。わたくしも今来たところなんですよ」
「あ、はい。その、ずっとうろうろしてるので迷ってるのかと思いました」
「うっ!! そ、それはですね。周辺の下見をしていたんですよ、ハハハ」
この期に及んで誤魔化そうとするとは!
なうファンタジートップは伊達ではない。
色々変わった人なのだ。
しばらく彼女と談笑などする。
「せっかくなのでインタビューなんですけど、最近どうですか? ……という曖昧な質問をされると、わたくしたちコミュ障に類する者たちは返答に窮しますよね」
「困りますねー」
「具体的に行きましょう。今は飛ぶ鳥を落とす勢いで登録者数を伸ばしているきら星はづきさんですが、最近何か変わったことはありましたか?」
「えーと……フィギュアが出るくらいですね」
「一年足らずの活動期間でそれはすごい。大物ですねえ」
大変感心されてしまった。
その後、ちょうどやっていたもみじちゃんとチェンファのコラボ配信などを一緒に視聴することにする。
もみじちゃんの家に招待されたチェンファが、工房で饅頭(マントウ)を作る配信だ。
どうやらチェンファ、自宅では全く料理とかしないタイプだったらしい。
もみじちゃんに指導を受けながら、ひいひい言いつつお料理をしている。
これは分からせというやつでは?
すっかり仲良くなってしまったな。
小さい二人が画面の中でちょこまか動き回っているので、リスナーたちがかわいいかわいい言いながら楽しげに視聴しているのが分かる。
日本と中国両方のリスナーがいるなあ……。
チェンファとしてはプレーンな饅頭を作りたかったらしいけど、これを作った後におかずを用意するのも大変なので、和式の肉まんに近い形に纏まったようだ。
手際よく肉餡を作るもみじちゃんに、感心するチェンファ。
交代でやってみたら、餡を焦がし始めた。
大騒ぎだ。
これは楽しい。
「斑鳩さんのとこの新人さんも伸びてますよね。よくぞあんないい人材を見つけたものです」
「実は同級生で……」
「同じクラスの!? わ、若い……」
おののく委員長。
うちで最年長は18歳のビクトリアだもんね。
あれっ!? 委員長、設定では16歳だったはず……。
「イカルガエンターテイメントは今ではすっかりうちのライバルですからね。あの日なうファンタジーを出ていった斑鳩さんがすっかり大きくなったものです」
「そういえばお兄ちゃんの先輩でした……」
「フフフ、つまりわたくしははづきちゃんのお姉ちゃんのような存在です」
「なるほどぉー」
「不思議な会話をしてるわね」
ここでメイユーが合流です。
三人で街中をぶらぶら歩き始める。
委員長はよく散歩をするタイプらしいし、メイユーも体を鍛えていて、私は長時間移動が苦にならないタイプ。
「とりあえず行き当たりばったりで散歩しましょう」
という委員長の提案に、誰も文句を言わずにあてもなく歩いていくのだ。
都心の町並みはなんだかんだで個性的で、狭い路地があちこち入り組んでいる。
観光地でもないので、休日ともなればそんなに人がいないのだ。
「住宅地でもないですからね。ですけど大体こういうビルはオーナーが最上階に住んでいます」
「うちの国もこんな感じよね。だけど日本の方がちょっと綺麗な感じはするわ」
テナントが空いた個人所有のビルなんかがたくさんあって、こういうビルは一見するとダンジョン発生がしやすそうに見えるけど……。
テナントが空いてるからダンジョンにはならないのだ。
「ダンジョンってもしかして、大きい建物の方がなりやすいんですか?」
私の質問に、ベテランである二人が頷く。
「そうですね。それだけたくさんのテナントが入っていればお客も多いでしょう? そうすると人間の感情が溜まりやすくなりますから」
「むしろ1フロアに専門店が一つしか無いような小さいビルは、客層もそこにマッチしたものしか来ないわ。そういう場は諍いや感情の滞留が起こりづらいの。愛着なんかはダンジョン化しづらい感情だと言われているから」
色々面白い話を聞けてしまう。
勉強になるなあ!
そして三人で、雑居ビル一階にあるラーメン屋でご飯を食べます。
まだサラリーマンの人たちがお昼に出てくる時間ではないので、空いている。
私のトッピングが一番多かった。
二人とも、「若いねー」って感じで笑うのだ。
食事を終えてお散歩を再開する。
オフィス街の合間にある神社にやって来て、お参りをした。
ちょうどそこで、お昼時になったらしい。
あちこちの会社から、わらわらとサラリーマン風の人たちが溢れ出してきた。
「人混みが少なくなるまで、ここで時間を潰しますか」
「ですねー」
人が多いのが得意ではない、委員長と私はそう決定したのだった。
「あなたたち、まるで人付き合いが苦手みたいなムーブをちょこちょこするけれど、本当に? 日本トップの配信者二人が?」
「そういうものです」
委員長が遠い目をした。
現ファンが株式会社化する以前から、一番初期のバーチャライズする配信者として活動してきた人だ。
場数が違う……。それだけ場数を踏んでも人見知りは治らないのだ……!
「というか私たち、バーチャライズする配信者って、2024年になってもまだ7年とかしか歴史がないんですね。意外……」
私の感想に、メイユーが頷いた。
「そうなのよ。最も活発化したのが日本。そこから輸出される形で、各国でバーチャライズが普及したわ。アニメやゲーム文化みたいなものね。そうしたら、今まで少し分が悪かったダンジョン攻略がやりやすくなったわけ。バーチャライズは人類が手に入れたダンジョンと戦うための武器だと言えるわ」
つまり、ゲーム感覚で配信を見られるのと、公式なAフォンならば配信者の命の保険にもなってるということで、ダンジョン配信がエンタメ化できやすくなったということなのだ。
それで視聴者が増えて、配信者の強さが上がった。
バーチャライズは革命だった……!
「そしてついにバーチャライズ文化は、きら星はづきというリーサルウェポンを生み出したわけですね……と」
「あひ、私はそこまでのものでは……」
「ジャパニーズ謙遜ね」
メイユーが笑う。
ここで委員長、スマホをいじりながらお目当ての場所を発見したようだ。
「近くに銭湯がありますね。どうです? ずっと外を歩いてまた冷えてきましたし……」
「日本の大きなお風呂は好きよ? ハヅキはどう?」
「お風呂上がりに何か飲むの大好きです」
ということで。
ぶらぶら散歩のついでに銭湯へ向かう私たちなのだった。
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