第185話 銭湯ゆるり長風呂伝説
以前は他の人とお風呂に入ることに大変な抵抗があった私だが……。
まあ配信者などしているとちょっとやそっとのことでは動じなくなる。
ビクトリアとは週一くらいで一緒にお風呂してるしね。
我が家のお風呂拡張計画もあると父が話していた。
ということで……。
都会の銭湯です。
「ふむ! では参りましょうか!」
スパーンと服を脱ぎ捨てた風花委員長、男らしく体を隠す素振りもなく、タオルを肩にかけて仁王立ち。
比較的小柄でスレンダーな人なんだけど、こう言う時は妙に大きく見えるな……。
人間の器の大きさが可視化されてるのかな……?
「向こうだとなかなか、こういう広い湯船はないもの。楽しみね!」
メイユーも、郷に入らば郷に従えということで裸になっていらっしゃる。
うーん、大人の女性の体つきですなあ。
全体的に筋肉質で、アスリート体型かも知れない。
私?
ははは、あちこちぷにぷにですよ。
「はづきさんは現役JKとは思えぬほど柔らかそうな肢体ですねえ……」
「い、委員長も設定では女子高生では……?」
そんなやり取りをしつつ、銭湯の扉をくぐる。
かけ湯をしてから、私は浴槽を吟味した。
普通の、ジェットバス、電気風呂、水風呂、サウナ、露天……。
「じゃあ私は電気風呂に行ってきます……」
「はづきさん初っ端からハードに攻めますねえ……!」
「電気風呂は家じゃできないので……」
「それじゃあ私もそうしようかしら」
「ではわたくしも」
三人で、肌にピリピリくる電気風呂に入った。
おおーっ、なんかこの刺激が体の疲れをほぐしていく気がする~。
まあ私は一晩寝ると疲れが取れるんですが。
この話をしたら、委員長とメイユーから「若い……」としみじみ言われてしまった。
その後、お湯に浮いている私の胸元を二人がまじまじと見て、
「本当に浮かぶんですね……。いや、うちの会社にも大きい人は何人もいますが、お風呂に誘う関係ではありませんし、わたくしこう見えて人見知りしますからね」
「雷火に誘われたら、後輩は恐縮しちゃったりするわね」
けらけら笑うメイユー。
ちなみに彼女の国でもスーパー銭湯みたいなのがあり、割りと人気らしい。
ただし、絶対に入湯料が高いところに行かなければダメ! だそうだ。
主に衛生面の問題があるので……。
「日本はこういうところが本当に優秀よね。こんなに安い入湯料なのに清潔だし……」
「あひー、メイユーさん、お喋りしながらつついてこないで下さい~。セクハラです~」
「つい……。若い子ってやっぱり張りが違うわ。じゃあハヅキ、つついていい?」
「ま、まあ許可します」
「ありがとう! 雷火、許可が出たわよ。凄い張りだわ。柔らかいだけじゃない!」
「本当ですか!? どれどれ……? うおおおおおおお! うおおおおおお!!」
「あひー」
先輩二人がつついてくるので、大変くすぐったい。
私は避難した。
サウナへゴーだ。
おばちゃんや、仕事途中の営業ウーマンみたいな人がいて、テレビを見ている。
あ、このテレビ、アワチューブの配信だ!
しかももみじちゃんのパン工房じゃん。
私はじわじわ汗をかきながら、もみじちゃんの勇姿を見守った。
なんだかお腹が減ってきますねえ……。
二人は完成したマントウを美味しそうに食べている。よだれが出てくる~。
流石に暑くなってきたので外に出て、しばらく洗い場でゆったりした。
水風呂に入って整うのは苦手なので。
委員長が隣にやって来て、頭を洗い始めた。
この人、見た目は繊細な感じの大和撫子なんだけど、仕草がちょいちょい豪快なんだよね。
「いやあ、のびのびしますね。ときに斑鳩さんはお元気ですか? どんどん事業を拡大されているようですが」
「あ、はい。兄は仕事であちこち飛び回っていますね。近く営業の人を雇うそうです」
「順調なようで何よりですね! 彼が八咫烏さんとコンビで、ディバインバードというユニットをやっていた頃を見ていますが……まさか会社の経営者になられるとは思ってもいませんでした」
「ですねー。気難しくてプライドが高い感じの人だったんですけど、今は社員の人にも気を遣ったりしてますし、前より丸くなった気がしますー」
「守りたいものがあるからでしょうねえ。彼は自分のためではなく、誰かのために頑張れる人なのだと思いますよ」
「誰かのためですか。ははあ」
私はほわんほわんほわん、と誰かを思い浮かべる。
兄包囲網を完成させつつある受付さんだろうか。
いや、兄は彼女に対してのみ雑な対応をしているな。違う気がする。
まあ雑に扱われている受付さんが「私だけこの扱い、明らかにこれは特別視されてるわよ」ってめちゃくちゃ嬉しそうなんだけど。
「うーむ」
「鈍感力~」
なんか言われてしまった!
メイユーの姿が無いので探すと露天にいた。
この寒空の下、露天風呂とは!
私も外に出てみた。
周囲を高い壁で覆われていて、あちこちに植物が植えられている。
頭上だけが空いているので、確かに露天……露天と言えないこともない……。
「おお、さむいさむい……」
私は慌てて近くのお湯に入った。
メイユーもいる。
「いらっしゃい。この国は平和ね。どこにいてものんびりできるわ。私の国だと、配信者は責任と義務を負っているから気が休まらなくて」
権利と報酬もたっぷりもらえるそうだけど、その分だけ求められるものも大きいらしい。
リアルタイムで大罪勢と戦ってますもんね。
大変だなあ。
「ハヅキが他人事みたいな顔してる! あなた、世界中から期待されているし、あなたの一挙手一挙動に世界が注目しているのよ? そんな中で大々的にフィギュア発売を宣伝したのだからそれはもう大騒ぎよ。世界中が欲しがっているわ」
「あっ! あの頭おかしい量の予約は世界規模だった……?」
「あなたのグッズが簡易的な魔除けになっているんだから当たり前じゃない。国同士の往来が自由なら、直接買い付けにみんな来日しているわよ」
「そこまで」
私のグッズが売れる、バンダースナッチさんが儲かる、権利料でイカルガが儲かる、我が家にお金が入る、お風呂が無事に拡張される、ビクトリアと二人でゆっくりお風呂に入れる。
なるほど、いいかも知れない。
「お風呂のためにも売れて欲しいですねえ」
「なんでお風呂!? ハヅキの余裕を私も見習いたいものだわ。……今回の滞在で、かなりエネルギーを補充できたし。私もまた頑張るか……!」
大きく伸びをするメイユー。
私もならって伸びをした。
おお、腕と胸元が冷たい空気に当たる~。
だけど、お湯でほこほこに温まっていると平気だ。
二人で並んで伸びていたら、委員長もやって来た。
「さむっ! さっむ!! わたくし肉と脂肪があまりないから骨に直接寒さが来るんですけど!! まあこれが骨身にしみるってやつですかね!」
あの言語センスは私も欲しいなあ……!
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