第472話 その頃、日本でイカルガエンタは?伝説
『なんだ? お前たちは……』
「あたしたち、イカルガエンターテイメントでーす」
大魔将ジーヤ・セブンは戦いの傷を癒やすため、永田町の地下にあるダンジョンに身を潜めていた。
そこに入り込んできた者たちがいる。
角をはやした長身の女と、蝶の羽を身につけた女。
たった二人。
『ふん、お前ら二人がわし相手に何をやろうと言うのだ?』
「今配信中なのだけど、うちの陰陽師とドラゴンがあなたの居場所を明らかにしたわけ。なので、退治させてもらうわね」
※『うおおおおぼたんちゃーん!』『クール!!』『口上をしながらダンジョン内に鱗粉をばらまいてるぞ!』『あとはさっき謎のピンクオーラでテイムしたモンスターと、途中の雑魚魔将をコピーしたやつを……』『お嬢の戦い方が敵のボスキャラなんだよなあw』
※『うおお行けはぎゅたーん!!』『はぎゅ牛~!!』『突撃一本で全ての相手を下してきた技を見せろー!!』
「あたしだけ芸がないみたいな言われ方なんだけど!?」
「はぎゅうは搦め手一切なしでやれるじゃない。それって凄いんだから。私は搦め手一本だし」
「もみじは?」
「あの娘はちょっと意味不明かも」
『わしを前に雑談とはいい度胸だ』
顔が半分焼け焦げた、老爺の姿の大魔将ジーヤ・セブン。
不敵な配信者たちに鉄槌を下すべく、その力を発揮した。
彼の能力は、かつて世界を侵食しようとした四つの大魔将の縮小コピーだ。
ダンジョン一つ、都市一つを制圧するならこれで足りる。
炎が降り注ぎ、風が巻き起こり、石の礫が横殴りに吹き荒れる。
だが……既にそこは、蝶路ぼたんの鱗粉に満ちている。
鱗粉が魔力に反応して爆発を起こした。
『ぬおおっ!!』
「粉塵爆発。何かやる度にあんたの周りだけ爆発するから。オタクくんってこういうトラップ使い好きでしょ?」
※『大好きー!』『すきすき』『分からせられちゃう~』
「次は行きなさい、あなたたち! 大魔将が作り出したモンスターで、大魔将を蹂躙する。それって最高じゃない?」
『わしの手勢を支配したと言うのか!? なんだその力は!! なにっ!? 複製体もいるだと!? 貴様そのものがまるで上位の魔将のような……ええい!!』
ジーヤ・セブンが能力を振るう。
モンスターや複製大魔将では、彼に届かない。
だが、力を振るう度に発生する爆発が、確実に大魔将にダメージを与えていく。
そしてこの様子を腕組みしながらじーっと眺めているはぎゅう。
※『はぎゅたん動かんのか』『素人は黙っとれみたいな顔してる』『あれ、多分タイミングが取れなくて困ってるんだぞ』
「困ってまーせーんー! 機会をみてたんですー! そこ! 図星じゃないですー!」
※『草』『くさ』『wwwww』『はよいけwww』
「仕方ないなあ」
はぎゅうが戦場に踏み込んでいった。
ピンクにも似た赤紫の甲冑と、それを纏う黒にパープルのラインが入ったボディスーツ。
戦場においてとても目立つ。
「そんじゃ、いきまーす!! うおおおおおおおおお!!」
咆哮とともに、彼女が走り出した。
進行方向にいた魔将コピーやモンスターは、彼女に触れるなり跳ね飛ばされて粉砕、消滅する。
さらに、降り注ぐ炎も、風も礫も、何もかもが彼女に踏み潰され、跳ね飛ばされ、一切の効果を発揮せず一方的に消える。
『そ、その力は……! 分かった、分かったぞ! お前たちは、マロン様が廃棄なさったはずの大罪……!!』
ジーヤが嵐を起こし、あるいは大地を噴火させ、津波が渦潮を呼び出してはぎゅうにぶつける。
その全てを正面から破砕し、彼女が突き進んだ。
ダメージがないわけではない。
だが、攻撃を一瞬で打ち消せば、ダメージは少ないのだ。
彼女の突進を止めるには、ダンジョンはあまりにも狭すぎた。
勢いが死なぬまま、はぎゅうの被るヘッドギアから生えた角……いや、牙がジーヤに突き刺さった。
「どっせーいっ!!」
『ウグワーッ!!』
ジーヤが勝ち上げられ、伸びた牙によって天井に叩きつけられた。
さらに振り回され、壁にねじ込まれる。
そこへ突進するはぎゅう。
『マロン様! こやつらは……こやつらは危険すぎます!! この国は危険だ! ここに最も危険な者たちが集まっている……!! ウグワーッ!!』
断末魔とともに、周囲のダンジョンは消滅していった。
そこには、旧大戦期に作られた地下道だけが広がっている。
「ふう、というわけで、ボスデーモンをやっつけました」
※『はぎゅたん、急にチルになるからなw』『瞬間湯沸かし器だけど冷めるのも一瞬なのよw』『今日もスカッとした……』『今のやつ、デーモンだったの? 勇者パーティと戦ってなかった?』『ひょろっとしたカイワレ大根みたいなやつに攻撃みんな止められてたからきっと雑魚だゾ』
「あらはぎゅう! ちょうどはづきちゃんも中国を解放したって。魔王とやり合ったみたい」
「マジ? 師匠やるなあー。あー、あたしらも大物と戦いたいなー」
「今の、かなりの大物よ? ダメージ受けまくってたから私達で倒せたけど」
「マジぃ~? それじゃああたしらもかなりビッグになったってことじゃん」
「何もかもリスナーの皆さんのお陰でございます」
「何お行儀よくしてんのよ」
二人がどつき合いながら退場し、配信が終わる。
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