第340話 異世界の進路事情伝説

「へえ、ゴボウアースでは随分長い間勉強ができるところがあるんだねえ」


 トリットさんが大変感心している。

 ここはイカルガエンタビル。

 イカルガ大感謝祭の準備が始まっていて、三棋将の人たちは歌とダンスをしたりするので、練習に集まっているのだ。


 私は色々な下準備とか、メインの出し物に協力するためにいるよ。

 で、進路相談が始まったという話をしたら、バードマンの知識人であるトリットさんが話に加わってきたと。


「そうそう。大学は四年で、大学院行けばさらに五年とか」


「いいなあ~。僕らの世界、ファールディアでは全部含めてせいぜい三年だよ。まあ、世界に余裕がないからねえ。魔王と戦ってる最中だったし。でも、こっちの世界に来たら人間基準に合わせるからたっぷり勉強できるね! 僕も学校入ろうかな」


「いいと思うー! 勉強協力するよ」


「ホント? 助かるなあ!」


 おっと、トリットさんの進学の話になってしまった。

 彼はこの世界の知識などを学ぶため、通信制の高校を利用することを考えてるらしい。


 異世界人向けの日本語学校みたいなところは、一瞬で卒業してしまったんですと。

 優秀なお人だ。


「はづきも優秀な人でしょ? 僕は分かるなあ。だけどこう、不思議と交尾したいなーという気にはならない……。カマキリとか蜘蛛みたいに取り込まれそう」


「失敬なー」


「交尾ですって!? はづきちゃんにそんなエロスな話をしないように!!」


 どこで聞きつけたのかぼたんちゃんがやって来て、後ろから私をギューッとした。


「あっ、前よりもちょっとシュッとしてる」


「ははあ、私をハグし慣れたぼたんちゃんは分かりますか」


「慣れるっていうほどしてないわ! 一ヶ月に一回くらいどさくさに紛れてしてるだけで……」


「彼女もリビドーのモンスターでは?」


 トリットさんが突っ込んだら、ぼたんちゃんがムキーっと怒った。

 飛んで逃げていくトリットさん。

 高校頑張ってほしいな~。


 ちなみにあっちの世界の人間……ヒューマンは全滅してて、なぜかと言うと内部に入りこまれて人間同士で争いあって滅びたというのはあるらしいんだけど。


「地面に大きな都市を築いてどこにでもいたから、あっという間に利用されて尖兵になったり、都市は兵士量産工場になったよね。まあ、ゴボウアースに派遣してどんどん兵士は目減りしてるみたいだけど。こっちの世界ってさ、妙に強くなったらしいんだよ」


 トリットさんのダンスを見に行ったらそんな事を教えてくれた。

 彼は三棋将で一番ダンスが上手い。


 次は意外にもバングラッド氏で、カモちゃんは努力の人。

 苦手なダンスもきっちり当日までに仕上げる。


『おおなんだ! ファールディアの話をしておるのか!? 我もあの世界には一年以上帰っておらんなあ。こちらは娯楽に溢れている故な』


「バングラッドー、今ははづきの進学の話をしてるんだよ」


『ほう、きら星はづきが進学? 進学というのはより上位の学府に行くということであったな。いいのではないか? お前ほど強大な戦士が前線を退くというのはゴボウアースにとって大きな痛手であろうが、なに。戦士もまた永遠に戦えるわけではない。弟子を取り、育てれば良い。その点、きら星はづきには弟子がおるからな』


「やっぱこの人、戦い方面でしか話ができないよ」


 トリットさんが肩をすくめた。

 うんうん、バングラッド氏らしいー。


「なるほどねえ、参考になりますー。ありがとー」


 異世界の二人にお礼を言って、持ち場に戻る私なのだった。


 別の小さいスタジオでは、兄がファティマさんに技を教えていた。

 模擬戦用の双剣で、兄の二丁拳銃とやりあう練習。


 兄はなんかよく分からない異常な技のキレで、これを捌く。


「あーっ、だめです、届きません!」


 技をいなされて、体力も尽きたかその場でへたり込むファティマさん。

 兄も座って、


「動きは良くなってきている。向こうではダンスをしていたのだろう? それがいい方向に働いている。だが、一朝一夕で俺に及べるはずもない。俺の技を盗め。そして己の力とするのだ」


「はい、社長!」


 あれっ。

 なんかファティマさんが兄を見つめる視線がうるうるしてませんか。

 そして入り口付近、私より先に受付さんが来ていて、ハラハラしながら状況を見つめている。


「きょ、強力なライバル出現……!!」


「あー、トライアングラー」


「ひぇっ! はづきちゃん!? いつの間に」


「本能的に忍び足で歩くのが私ですので」


 私が思うに、受付さんは兄と婚約するとこまで進んでると思ったんだけど。

 どうも寸前で今は足踏み状態らしい。

 何をぐずぐずしているのだー。


「最近はづきちゃん関連で斑鳩さんが忙しくて」


「あーそれはすみません」


 私が原因だった。

 まあ、物凄いイベントばかり立て続けですからね。

 兄も弟子が増えたりしてて、ぼたんちゃん、ファティマさん、トリットさんにツインアームの技を伝授したりしてるし。

 さらに社長業もやってるし。


「兄に進路相談をしようと思ってですねー」


「あー、はづきちゃんってまだ高校生だったもんね……。あまりに凄まじい活躍を続けてるからすっかり忘れてたわ。そう言えば、斑鳩さんのお弟子の一人のぼたんちゃんも高校生か。あの娘はなんかわきまえてくれて、あくまで師弟関係でいてくれるんだよねえ」


「そんなドロドロしたことになっていたんですねえー。もっと詳しく」


「あれっ、はづきちゃんが興奮してきた」


「そう言うお話結構大好物なんですが、受付さんが困ってると思うので今日は控えておきます……」


「い、いや。ここではづきちゃんを味方につけておきたい! お隣の国出身の私が、遠い国から来たエキゾチック美女に好きにはさせんぞー! 질 수 없어(負けられない)!!」


 おおー!

 気合~。


 頑張ってほしい。

 私としては受付さんもファティマさんも好きなので、どっちも応援する。


「ちなみに受付さん、大学は」


「あー、私はね、活動しながら向こうの大学行ってたの。で、引退して大学も卒業したところで斑鳩さんに声を掛けられてね」


「新卒だったー」


「実はね」


 受付さん曰く、はづきちゃんは優秀過ぎるしあまりにも例外過ぎるので、アドバイスが難しいとのこと。

 残念……!


 じゃあ兄はどうかな?


「お兄ちゃーん」


「おおー。悩み事だな。相談に乗るぞ」


 私の声がしたら、兄がサッと立ち上がって振り返った。

 反応が早い。


「ううっ、やはりシスコン」


「はづきさんが強すぎる」


 受付さんとファティマさんが何か言ってたような。


「話は聞いている。進路相談のことだろう? その話は社長室でやろう」


「昨日の今日の話なのになんで知ってるんだろう……」


「「そりゃあね……」」


 受付さんとファティマさんが異口同音に呟くのだった。


 ちなみに兄からは、留学も国内進学もいいが、まだまだ進路はたくさんある。

 私の獲得を狙っているところは山ほどあるから、今は曖昧にしつつ年明けまでじっくり考えるといいぞ、みたいな話をもらったのだった。


 私の獲得を狙っている……?

 どういうことだろう……?


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