第26話 復活のチャラウェイ伝説(ただし雑談)
チャラウェイさんが復活したらしい!
でも、ダンジョンに行く前にお世話になった人たちを呼んで料理を振る舞いたいそうだ。
「……コラボ雑談配信……?」
理解不能だ。
兄に聞いたら、
『チャラウェイは信頼できる男だが、やつの交友関係までそうであるとは限らない』
とか脅すような返事が来たんだけど。
おいおいおい。
どういうことだ。
『じゃあついてきてよ』
『三人娘のお披露目配信の打ち合わせがある。忙しい』
こ、この兄はーっ!
過保護なのか放任主義なのか……!!
よし、こうなったら。
集合知に相談だ。
『お前らー! こんきらー! これから突発で、相談配信をやります! お前らの集合知を貸してくれーっ!!』
そうして配信開始。
「お前らこんきら! 私だ!」
※『挨拶短くなってて草』『雑談配信、実家に帰ってきたかのような安心感』『親の挨拶より聞いた挨拶』『もっと親の挨拶聞け』
いつも通りだなあリスナー!
この安心感。
「あのね、実は相談があって……」
※『俺たちお前らに相談事をすると!?』『チャットだけの無責任な存在に頼ってくれるとは』『我ら社会不適合者の集まりぞ』『だが頼られたら頑張るしかないね』『森羅万象なんでも聞いてくれ』『知ってることから知らないことまで答えるよ!』
「知らないことは答えられないでしょ!?」
※『草』
草じゃねえ!
ということで。
相談開始だ。
「あのね、チャラウェイさんが復活したでしょ。復活記念のコラボ雑談配信に呼ばれるんだけど……。私が知らない配信者も他に来るらしくて……。詳しくは概要欄にツブヤキのアドレス貼ってるから」
※『はづきっちもアワチューブの機能を使いこなしてきたなあ』『感慨深い』
親目線だこの人たち。
※『見た見た』『確認してきた』『八咫烏いるじゃん』『あと一人は熾天使バトラかあ』
「八咫烏さんは名前だけ知ってる。熾天使バトラさんって?」
※八咫烏『知ってる? そりゃ嬉しい』『エッッッッッ!?』『本人!?』『辺境へようこそ』『八咫烏おったわ』『よう見とる』
「えっ、御本人!? あ、ど、ど、どうもよろしくお願いします!!」
※『声裏返ってて草』『めっちゃ緊張してるやん』『はづきっち、八咫烏と双璧だった男の妹じゃん』『微妙に関係性遠くて草』
「いや、一応大先輩だし」
※八咫烏『一応wwwwそうですww私がwww一応大先輩ですwww』『抜かしおるwww』『八咫烏爆笑www』
うわーっ!
わ、悪いのはこの口か!
この口かーっ!!
※『はづきっち、自分の顔ビンタやめよう』『無言でやるな怖い』『共感性羞恥を覚える子だなあ!』
リスナーになだめられたのでやめたぞ!
ちなみに熾天使バトラさんは、蛾の天使という設定で、黒と黄色と赤の攻撃的カラーをモチーフにした女性配信者らしい。
ダンジョン内ASMRというジャンルの雄で、その界隈ではとても有名なんだとか。
「えっ、どれどれ、ちょっと聞いてみるね」
※『同時視聴配信になってて草』『気をつけろ! 甘い囁きで耳と脳を溶かされるぞ!』
「ははは、またまた」
私は笑いながら、熾天使バトラさんのダンジョン内ASMRのアーカイブを開いた。
「う、うわーっ! 甘い囁きで耳が、脳が溶けるぅ……! なんでこんな囁き声出せるの……!!」
※『俺も耳が溶けました』『女性配信者グループ、ジェーン・ドゥのトップだぞ』
そうだったのか……。
冒険配信者グループもたくさんあるもんね。
なうファンタジーの他に、それに匹敵するか凌駕する国内最大勢力のグループ、ライブダンジョン。そしてジェーン・ドゥと続くらしい。
「まあ、個人勢の私には関係ないということで……」
※『これから絶対関わりができるから』『登録者数見ろ』『この登録者数で無関係は無理でしょ』
登録者数って、そんな、幾ら120.000人いるとは言え……。
「オギャーッ!? じゅっ、153.258人!!」
三日で三万人増えるとかある!?
※『この間のお披露目配信バズったからな』『ダンジョンの中にある異世界って話題だぞ』『取材とか来てないの?』
「そういうのはお兄ちゃんの担当なんで」
ああ、それであの人、忙しくて参加できないのか!
でも、これで恐怖心みたいなのは和らいだ。
恐怖というのは、相手が何者なのか分からないから出てくるものなのだ。
正体がわかってしまえば怖くない。
なうファンタジー男性配信者のトップ、八咫烏。
ジェーン・ドゥのトップ配信者、熾天使バトラ。
……大物ばっかりじゃん!
こえー。
※『またはづきっちが震え上がっておられるぞ!』
うるさい!
そして、Xデーがやって来た。
私はガチガチに緊張しながら玄関を出る。
何故か兄は送り迎えもできないっぽいので、タクシーで向かった。
スパチャをたくさんもらって、かなり財政には余裕があるんだけど……。
私は貧乏性なので、何を買う、みたいなのが全く思い浮かばない。
途中、八百屋でちょっといいゴボウを買っていった。
あの後、八咫烏さんやバトラさん以外にも参加する配信者が発表されて、総勢はチャラウェイさん入れて八人。
基本は食事会で、未成年の私がいるからお酒はNGということになった。
チャラウェイ邸……。
なんかいい感じのタワーマンションなんですけど!
「あの、チャラウェイさん、私ですけど」
『おおーっ!! ようこそはづきちゃん! ちょりーっす! 入ってよ!』
お招きにあずかり、いつかの怪奇スポットマンションとは大違いの最新式エレベーターで昇っていく。
はえー。
一瞬で16階に到着したし。
チャラウェイ宅の扉の前。
呼び鈴も押せず、じっと佇む私なのである。
ええい、思い出したけど私はコミュ障だぞ!
いきなり他人の家の呼び鈴なんか押せるかー!!
このまま何時間も待ち続けそうな予感がする……!
頼むチャラウェイさん、気付いてくれー!!
私は祈った。
その祈りは、即座に聞き届けられたらしい。ただし、相手はチャラウェイさんじゃなかったけど。
「あら、可愛いお嬢さんがいるわね? もしかしてあなたが、きら星はづきさん?」
甘くとろけるような、女の人の声が後ろからしてきたのだ。
きれいな指先が、呼び鈴を押した。
「あっは、は、はい!」
女の人は、インターフォンでウェイウェイ言うチャラウェイさんと喋った後、私に向き直った。
すらっとした感じの、めっちゃくちゃ色っぽいお姉さんだ!
黒いドレスが似合う。
「はじめまして。熾天使バトラです。お会いできて嬉しいわ、はづきさん。今日はたっぷりお話しましょ? 聞きたいこともたくさんあるの。この業界、みんなあなたに注目してるのよ?」
ひ、ひ、ひえーっ!
動画通りの声で耳と脳を溶かされながら、告げられる情報の重さに、私は今からぶっ倒れそうなのだった。
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