第25話 高度ウン千mでのお披露目伝説
パイプを超えて、レールの上を走り、飛びかかってくるゴブリンたちを突っ張り棒でなぎ倒す。
むふふ、私の動きも様になってきたんじゃない?
※『はづきっち、本当に武器を使うの上手くならないよな』『へにょへにょのスイングなのに、腕力が足りないからそれが不規則に揺れてて、避けづらそう』『でも当たったら一撃だろ? モンスターにとっちゃ恐怖だな』
あれえ!?
違う感想がたくさん流れてるんだけど。
まあいい。
今回の目的は、新衣装のお披露目。
こんな狭い空間だと映えないから、もっと広い広いところに移動中なのだ。
上へ上へとどんどん向かう。
途中で、飛び乗った台座がドローンになって、ぶいーんとめちゃくちゃ高いところまで連れて行ってくれた。
うわーっ、高い高い!
森林がずっと下の方に見える。
青いクリスタルみたいな山よりも高いところに来た気がする。
山の向こうに、さらに森や、槍のような形のとんでもなく大きな山脈が見えるし……!
よくできてるなあ。
なんだろう、この光景。
「おっと、なんか飛び移れそうなパイプが」
ここまで色々なルートを伝って駆け上がってきた私。
反射的にヒョイッと、パイプに向けてジャンプした。
ここがどこなのか、一瞬忘れてたね!
パイプに着地する時、ツルンと行った。
「あひっ!?」
慌ててパイプにしがみつく。
私の周りを飛ぶAフォンが、その光景をぐるりとめぐりながら映し出した。
※『こえー!!』『タマヒュン』『高所恐怖症なんだけど』『このダンジョン本当にダメ』
た、高いところはやばいよねえ!
私もちょっと下を見たら、くらっとした。
これは下を見たらいけないやつ……!
それにしても、なんでこのダンジョンは上に向かってひたすら伸びる形をしているんだろう?
「まるでこれ、一円玉とか割り箸とかを組み合わせて、妙に背の高いオブジェを作ってツブヤキッターにアップしてるひとの作ったやつみたいな……」
※『はづきっち解像度妙に高くない?』おこのみ『それよりお披露目はまだですかな!?』
「そうだった!」
私は気を取り直して、パイプの上をそろりそろりと歩いた。
そしてたどり着いたのは、空中に浮かんだ街。
太い道路が一本と、その周辺にビルやガソリンスタンドがある。
私はここでお披露目をすることに決めた。
「みんな、行くよー! バーチャルアップ! 新衣装!」
私の体を包むジャージが光り、前のジッパー部分が輝きながら展開した。
その下から、体操服風の新衣装が登場する。
胸のゼッケンには、きら星はづきのデザイン文字!
それが自ら光を発して、キラーンと輝いた。
※『うおおおおおおお』『おおおおおおおおお』『おぱ』
「センシティブな発言はコメントで流せー!!」
※『流せー!』『流せ流せ!』『っていうか本当にはずきっち、着痩せするんだな……!』『最初の切り抜き動画で言ってたの、本当だったのか……』『ガチ恋しそうだぜ』
おっ!
私にガチ恋……?
グフフフフ、冒険配信者に惚れてはいけないよ。
私も罪な女だなあ。
※『顔が緩んだ』『すげー。何考えてるのかすぐわかる』『どんなにかっこよくなってもはづきっちだねえ』
さて、広い場所でお披露目したはいいけど、広いということはモンスターもどんどん出てくるということだ。
だって、落っこちる心配もないし、細い道を一人ひとり順番に掛かってくる必要もないもんね。
ビルやガソリンスタンドから、次々にゴブリンが姿を現す。
……このダンジョン、モンスターがゴブリンしか出てこないんだけど?
あ、そっか。
大きすぎてもダンジョンを行き来できないもんね。
『ゴブ!』
『ゴブゴブ!!』
ゴブリンたちは、鉄パイプやスパナとかの武器を握りしめて、私を囲むように動く。
ここで私は、突っ張り棒を思いっきり伸ばした。
両手で棒をくるくる振り回す!
見よ、この隙のないアクション!
※『はづきっち、バトントワリングの動画見て勉強しよう!』『でもあのたどたどしい感じは可愛い』『可愛いからいいよな!』
おいぃ!!
評価が辛いなあ!
ちなみにこうして棒を振り回すと、マントみたいになったジャージが邪魔になるはずなんだけど。
私の動きに合わせて、ジャージが移動して動きやすくしてくれるのだ。
さらに、リュックは形を変えて、ウエストポーチになっている。
これもストレージ直結だから、色々なものを取り出せる。
『ゴブーッ!!』
ゴブリンたちが叫びながら襲いかかってくる。
これを、いっぱいに伸ばした突っ張り棒で「あちょーっ!!」と叩いてやっつけるのだ!
不思議と、私が振り回す棒はなんか避けたりされない。
というか、棒の長さを持て余して、ちょっとふらっとした所にゴブリンがすっと入ってきて、棒に当たるのだ。
『ウグワーッ!!』
※『出た!! 不規則な動きでたまたま避けた相手の所に武器が置いてある状態になるやつ!』『モンスターからしたら理不尽そのものだぜ!』
な、なんだとーっ!!
不規則な動きとは失敬な。
これは私の計算され尽くした動きで……はあ、はあ、そろそろちょっと疲れてきたなあ。
私はポーチからペットボトルを取り出した。
「お、お水飲みます」
※『戦闘中に!』『あ、寄りかかった突っ張り棒が倒れた!』『飛びかかったゴブリンが倒れた突っ張り棒につまずいた!』『あー、消滅した』『絶対読めねえよあの動き』
お水うめー。
私はやる気を取り戻し、しゃがんで突っ張り棒を拾い上げた。
その時、Aフォンから連絡が入る。
『分析終了だ! ダンジョンの怨霊の居場所がわかったぞ!』
※『斑鳩の声じゃね!?』『キター!!』『はづきっちのお兄さんなんだっけ!』『今は多分マネージャーやってるな?』
盛り上がるチャット欄。
兄としては、声を出して介入するのは不本意なんだと思う。
だけど、こうして割り込んできたというのは……。
『このままだと、戻る時に大変だろう。お前、高所恐怖症気味だから』
「う、うん。戻ることは考えないようにしてた……!!」
※『やっぱり』『無茶しやがって』
『いいか。このダンジョンは大きいようで面積が小さい。縦に伸びているだけだ。つまり、ダンジョン中心の直上を突けば、怨霊に当たる。突っ張り棒を伸ばせ!』
「もういっぱいなんだけど!?」
私は突っ張り棒をくるくる回してみせた。
……あれ?
回転が止まらない。
そして突っ張り棒がどんどん、どんどんと伸びていく。
どういうこと?
気づくと、同接数が25.000人になっていた。
始めた時よりもずっと多い。
もしかして、同接数が増えたから、突っ張り棒の伸びる割合も増えてるってこと……!?
『多くの者の目を通じ、彼らの中で物語となった物品は、伝説性を帯びる。お前がその棒の性質を決めろ。告げろ。その言葉を聞くものが多ければ、それが伝説になる!』
「よくわかんないけど! えーと! この突っ張り棒、世界の果てまで伸びます! どんどん伸ばしまーす!!」
※『本当にござるかあ?』『もりもり伸びてるね』『どんだけ伸びるのよ』『伸ばせ伸ばせ!』
突っ張り棒はどんどん伸びる。
その長さは、私の身長を優に超え、その二倍、三倍、四倍……。
ついには近くにあるビルと同じ高さにまでなってしまった。
「あれっ? これ、今まで昇ってきたのと同じ高さまで伸ばせば、降りられるようになるんじゃない?」
ここで気付く私。
※『そうはならんやろ』『なっとるやろがい!』『はづきっち頭いいナー』
「あーっ、みんなが信じてくれないからちょっと短くなった!」
※『うおおおお』『伸びろ伸びろ』『天を衝く突っ張り棒だ!!』『天元突破突っ張り棒!』
いいぞいいぞ!
いきなり伸びが加速した!
ビルの上からは、さらに鉄骨や家具などが積み重なって、どんどん上まで伸びていた。
だけど、突っ張り棒はそれすら超えてどんどん伸びる。
ついに先端が見えなくなり……。
『ウグワーッ! なんじゃこれーっ!!』
空で何かの声がした。
私は突っ張り棒を、ちょいっと動かす。
『ウグワーッ!? ま、まだ一万メートルまで積み上げられてないのに……! こんな高さでーっ!!』
なんか断末魔っぽい……?
上の方過ぎて姿も見えない。
だけど……。
「ダンジョンが消えていく……!」
※『怨霊に届くまで突っ張り棒が伸びたんだ』『俺ダンジョン配信でこんな光景初めて見るよ』『はづきっちの配信はいつもそんなもんだろ』『確かに』
常に新しい刺激を提供しているつもりはないんだけどなあ……。
足元の感覚もなくなり、とうとうダンジョンは消滅してしまったようだ。
周囲に見えていた、ファンタジー世界みたいな風景は完全に消える。
そこは、天井が抜けたマンションの中。
まあ、瓦礫の中だよね。
ちょっとした高さに私がいて、すとんっと着地した。
※おこのみ『揺れた!!』
おこのみ!!
一貫してそう言うところだけ反応するなーこいつは。
「はいはい! 体操服だと下が見づらいから、ジャージに着替えて押さえつけるね」
私は元の姿に戻る。
ふう、この姿なら足元が見える。
※『えっ、それって……』『大きくて下が見えないってコト……!?』『わ、わぁぁぁ』
妙な反応で爆速でコメント流すのやめろ!?
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