第24話 ギリギリ! クライミング伝説
カンナちゃんたちのお披露目イベントまではまだまだあるから、私は私のお披露目をやっちゃおうということになった。
今回訪れるダンジョンは、一人暮らしのおじさんが孤独死したワンルームマンションの一室。
おじさんは恨みを抱いていたのか怨霊になって、マンションそのものをダンジョン化してしまったらしい。
生前は、色々なものを積み上げた写真をツブヤキッターに投稿してたひとだったらしいけど。
こうやって、ちょこちょこダンジョンが新しく生まれるから、私たち配信者の仕事は無くならないんだよね。
放っておくとどれもこれも、ダンジョンハザードを引き起こすし。
「衣装、よーし。バーチャルアップ前のジャージ! 見た目同じだけど、実はバーチャルアップで新衣装に変形するから、実質新衣装!」
この間の突発配信の切り抜き動画は、もう二十万再生を数えていた。
沢山の人が見てくれたと思うけど、生配信だと初めてって人が多いと思う。
その人たちのために、今日はビシッと決めてやるぞー!
「行くぞーっ! おーっ!!」
一人で叫んで一人で気合を入れる。
「よし、いつでも始めてくれ」
兄は外から、車に積んだ機材でバックアップだ。
荒らしが発生しないように、通信が途絶しないようにフォローに回ってくれる。
Aフォンは極めて特殊な回線を使ってるから、まず通信途絶はありえないらしいんだけど。
「それじゃ、いってきまーす!」
いつものリュックを背負い、私は移動した。
そうそう。
ダンジョンコアを使って、このリュックも強化してもらったんだ。
一見して普通のリュックに見えるけど、これはAフォンに設けられたストレージに繋がってる。
このストレージに、色々なアイテムをしまっておけるようになるってわけ。
ただ、リュックはジャージと並んで、私のトレードマークみたいなもの。
だから見た目だけ残してあるのだ。
ダンジョンに一歩踏み込む。
外から見たら、普通の二階建ての小さなマンションなんだけど……。
中に入ったら、いきなり異空間になった。
天井がない。
そこは空だった。
一見して狭い空間に、ハシゴがあって、それが高く伸びた先に、パイプや木材や鉄道のレールがめちゃくちゃに組み合わさりながら、どこまでもどこまでも空高く続いていた。
「な、な、なんだこれえ」
このきら星はづき、あっけにとられて挨拶を忘れた!
※『なんじゃこりゃースタート?』『こんきらー』『こんきらー』『こんきらー』
いっけない!
「ご、ごめんね! こんきらー! 新人冒険配信者のきら星はづきです~! 今日は、改めてちゃんと、新衣装のお披露目をするね! 楽しみにしてて!」
※『楽しみ!』『衣替えするところ、ちゃんと見たい!』『切り抜き可愛かった』
「ありがとうありがとう!」
チャット欄に向かって手を振る私。
向こうからも、手を振る絵文字がたくさん返ってきた。
そんな私の横に……。
※もんじゃ『上から来るぞ!!』
「えっ!? あぶなっ!」
何かが降ってくるのを教えてもらって、私は慌てて横に避けた。
『ウグワーッ!』
あっ、ゴブリンが落ちてきて、すぐにべしゃっと潰れた。
光になって消えてしまう。
……上からゴブリンが?
ここ、やっぱり上に上に伸びているダンジョンなんだなあ……。
※『的確指示ニキじゃん……』『やるね』『はづきっちは救われた』
ありがとうもんじゃ!
それにしても私、高いところ、ちょっと苦手なんだけど……!!
私はまず、ハシゴを上ってみることにした。
これだけでもかなりの距離があって、登り切ったら太いパイプの上だ。
パイプの上に立ったら、いきなり世界が広がった。
ワンルームの一室みたいだったスタート地点が、無限に広がるような世界になったのだ。
まず、遠くにすごく大きな山が連なってる。
うちの近くにあんな山なんかない。
真っ青で、クリスタルみたいで、山の周りを、ここからでも見える巨大で翼を持った生き物が飛び回っていた。
ドラゴンっぽいなー。
そして森。
鬱蒼とした森があちこちにあって、森の間を飛び回る光り輝く生き物がいる。
これも、ここから見える大きさだと大型のバスくらいの大きさがありそうな……。
さらに向こうに、なんとなーく見えるのは、多分街。
赤い屋根で、あまり背の高い建物が存在しない、中世風テーマパークみたいな町並み……。
これが画面に映し出されて、チャット欄も騒がしくなってきた。
※『なんだあれ』『ダンジョンの中に世界がある!』『昔はやったファンタジーの世界みたいだな』
ふむふむ、ファンタジーの世界っぽいんだ。
確かに古いゲームだと、こういう世界で遊ぶのがあった気がする。
兄が詳しいはずだ。
でも今はそんなことより!
「じゃあみんな、ここから攻略しつつ、新衣装お披露目やっていきます! 実はね、色々パワーアップしたんだけど……」
※たこやき『はづきっちも配信者生活一ヶ月とちょっとになって、随分喋りが上手くなってきたなあ』もんじゃ『喋りとコメントへの反応とダンジョン攻略を同時にできないものは配信者として残れない。才能があったんだなあ』おこのみ『新衣装おっぱい凄いってマ?』
「センシティブなこと言うのやめてください! っていうかこの間の突発も、みんなでそれっぽいこと言ってたでしょー! そういうのやめてねー!!」
※『ハイ』『ウイ』『ラジャー』
素直なコメント欄だ。
私は機嫌を良くして、パイプの上をトコトコと歩き……。
ツルッと滑った。
「あひーっ!?」
※『鳴いた!』『助かる』
助かるなーっ!?
危ない!
このダンジョン、歩くだけで危ない!
ようやく体勢を立て直した私目掛けて、上からゴブリンたちが降りてくる。
『ゴブゴブ!!』
『ゴブーッ!!』
ツルリンッ。
『ウグワーッ!!』
あっ、降りてきたゴブリンの一匹が、パイプで滑って落ちて潰れた。
残るゴブリン、そーっと下を見て、ブルブルっと震えた。
チャンス!
私はリュックに手を伸ばす。
ストレージにしまってあった武器を取り出すのだ!
今回の武器は、室内用の物干しハンガーを取り付けておける、突っ張り棒!
ゴボウを持ってくると、話題がそっちにさらわれてしまうので、今回はこういう地味な武器で行くのだ。
※『まーたはづきっちが武器とは到底思えないものを持ってきたぞ!』『お披露目配信の時でもチャレンジ精神を忘れない!』『見上げた配信者根性だなあ』
あれえ?
目立たない武器を持ってきたはずなのに!
だけど、突っ張り棒にはこんな使い方もある。
くるくる回してぐんと伸ばして……。
『ゴブーッ!』
「あちょっ!」
私はゴブリンの膝のあたりをビシッと叩いた。
大量の同接数のパワーを受けて、軽く叩いただけでも、まるで達人が棒を薙ぎ払ったみたいな威力になる。
『ウグワーッ!?』
ゴブリンは弾き飛ばされて、地面に向かって真っ逆さま。
ペチャッと潰れた。
「ふう……恐ろしいダンジョン……!」
※『今のところ、ダンジョンのモンスターが一番被害受けてるよな』『ダンジョンは味方……?』『ダンジョンは友達怖くない』
味方でも友達でもない!
こうして、突っ張り棒を片手に、おそるおそるパイプの上を進む私なのだった。
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