第153話 迫る暗雲、雑に叩き潰せ伝説

 残留思念が怨霊化してダンジョンを作るパターンもあるから、そんな噂のなかった廃病院がダンジョン化したりもするんだろうなー、なんて思う私。

 画面に映らないようにしながら、もみじちゃんとビクトリアの後をのんびりついていくのだ。


 おほー、人に先導してもらうの楽ちん!

 思えば私、自ら率先して道を切り開いてばかりだったような気がする……。


 時々、壁からにじみ出してくる3mくらいあるデーモンをゴボウでペチペチ叩いてお掃除しながら……。


『ウグワーッ!? ば、馬鹿な! ネットの海を泳いで誰も侵入してないダンジョンを根城にして侵略を開始せよとのレヴィアタン様の仰せだったのに!』


※『なんか画面外から人間のものとは思えない声で説明セリフが!!』『さらっと重要な話が出てこなかったか?』『まーたはづきっちが話を聞かずにやっつけたんやろw』


 私、ぺちぺちお掃除しながらどんどん突き進む。

 二人の後ろは私が守る……。


「あー、配信しなくていいのは楽だなあ」


※『声拾ってるwww』『自重しろはづきっちw』『だらけた発言で全部持っていくなw』


「あ、すみませんすみません」


※『声ーっw!』『声入ってるって!』


「うーん、さすが先輩……。話題をさらっていってしまったー」


「リーダーはキャラが強いもんねえ」


「うんうん。だけど頼りになるの。うちいっつも助けてもらってるしー」


「私も助けてもらった。リーダーがいると安心できる」


「二人とも、配信配信」


「「あっ」」


※『かわいい』『かわいいが過ぎる』『はづきっちが言える立場じゃねえだろw』『あの先輩にしてこの後輩あり!』『確実にイカルガの遺伝子が受け継がれたなw』


 二人はちょっとたどたどしく談笑しながら、ダンジョンを進んでいく。

 すっかり場馴れしてきているもみじちゃん、バーチャル惣菜パンをホットドッグにして、射つとマスタード&ケチャップ型のワイヤーで戻ってくるソーセージで堅実な遠距離戦を展開する。

 ビクトリアも荒事なら慣れっこなので、モンスターの中に飛び込んでいっておもちゃのチェンソーで大暴れする。


 うんうん、頼もしいなあ。

 二人の活躍を見ながら、イカルガエンターテイメントの未来は安泰だなあと思う私なのだった。


 おっと、ここでタイムテーブルではゲストの出演です。

 私はAフォンに指示を出す。


 私のAフォンはすっかり賢くなったので、指示を出すと色々やってくれるのだ。

 ある意味ペットとか私のマネさんみたいなものかも知れない。


 画面に突然、ワイプが出現した。

 そう!

 海を超えてのビッグゲストがワイプで参加するのが今回のイベントなのだ!


『ハロー!! ビクトーリアー!!』


「オー! カイワレ!?」


『イエス! 僕さ! キャプテンカイワレさ! まさかビクトリア、ジャパンでリーダーと一緒に配信者をやるなんてね!』


「カイワレだ。元気そうだなあ」


『リーダーの声が……。オー! 画面外にいるよ!』


『カイワレ、今回はリーダーはサポートに徹しているのだろう。リーダー、コミックの内容に関しては後ほど』


 インフェルノは業務連絡だ!

 ということで、アメリカで一緒に戦った三人が揃ってしまったのだ。

 ラストバスターズ、懐かしい~。


 ネットだと私の非公式wikiで、コラボしたチーム名にラストバスターズがある。

 当時は弱小だった三人も、今やそれなりの配信者だ。


 ビクトリアはイカルガデビュー前で登録者数10万人に手が届きそうだし、カイワレは登録者数2800人、インフェルノは3万人。

 育ったなあ。


 二人はビクトリアと楽しげに会話し、もみじちゃんにも話を振る。

 もみじちゃんは陰キャではないので、礼儀正しい感じでちゃんと応対してる。

 えらいなあ。


※『もみじちゃん偉いなあ』『ちゃんとしたお嬢さんだ……』『かわいい』


 おお、高評価。

 礼儀正しい女の子は受けがいい。


 そんなことをしていたら、また壁からデーモンがにじみ出してきた。


『むっ、出たなデーモン!! 僕が相手だ! うおおーっ!!』


「あっ、カイワレがワイプ状態で飛びかかった! 器用だなあ……」


 ワイプ映像にあんな力があったとは。


※『なんでワイプが勝手に動いてるのw』『こんなことできないでしょw』『やっぱはづきっち関係者はおかしいな、いい意味で』


『な、なんじゃこりゃーっ!?』


 なお、デーモンもこれには動揺したらしく、慌ててカイワレを振り払った。


『ウグワーッ! くっそー! まだまだぁ!』


『あれは何をどうやっているんだ? 我輩にはできんのだが』


 普通はできないみたいね。

 振り払われても振り払われても襲いかかるカイワレ! ……のワイプ。

 防戦一方のデーモン。


 ワイプだから攻撃が通じない……いや、カイワレだからどっちにしても通じないか。


 で、ビクトリアがその間にラーフを構えて、スポンジの弾丸をガンガン打ち込んだ。


「ゴートゥーヘル!! ウフフ! ウフフフフフフ!!」


『ウグワーッ!!』


 全身にスポンジ弾を喰らい、怯んだデーモン。

 そこにもみじちゃんからの射出ソーセージを打ち込まれて消滅した。


 ナイスなチームプレー!


「ブラボー!」


※『はづきっち声でけえってw』『しかし確かに息が合ってるな』『遠距離でもこれなら、近距離も凄そう!』


 評判もなかなか。

 うんうん、将来有望だ……。


「はづき先輩が腕組みしてうんうん頷いてますねー。あ、じゃあモンスターが片付いたので、ここからは私のカラオケを……。僭越ながら一曲歌わせていただきます」


※『デビューイベントでカラオケ歌枠!』『やったー!』『かわいい』


 Aフォンから流れ始めるカラオケ楽曲。

 配信画面には、歌詞も流れていると思う。


 もみじちゃんはとにかくカラオケが得意なので、ビシーっと歌詞に合わせて歌う。

 しかも原曲と同じイントネーションなので不自然なところがない。

 彼女、めちゃくちゃ歌を聴き込んで歌うのだ。カラオケガチ勢。


※『歌ウマ!!』『うっま!』『はづきっちの後輩にしてこれ!?』『かわいい』『ダンスもキレッキレだ』『はづきっちの後輩がこの動き!?』


 ちょいちょい失礼なコメントが流れるね!?

 いや、確かに彼女は上手いけど……。


 こうして、もみじちゃんの歌とダンスも大好評。

 レッスンに通った甲斐があったね!


 二人のデビュー配信は大成功のうちに幕を閉じたのだった。

 なお、途中でにじみ出してきたデーモン関係で、迷宮省からめちゃくちゃ連絡をもらったりした。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る