第164話 イカルガ考察動画、あるいはブッシュドノエルを作ろう!伝説
~冒険配信者うぉっちチャンネル~
─こんにちはなのだ!
─今日も冒険配信者うぉっちチャンネルをやっていくのだ!
おなじみの合成音声が流れる。
様々な冒険配信者を紹介し、彼らの来歴や、関わった人々からのインタビューを伝える、人気まとめチャンネル。
アワチューブにおいて、冒険配信者系まとめ動画のトップランクに君臨している。
最近はイカルガエンターテイメント公式のまとめ動画によって、その牙城を脅かされつつあるのだが。
─みんなは今、巷を騒がせるVバースのダンジョン化現象を知っているのだ?
─VR接続機器を使って、インターネット上で別の姿になって活動できる空間をVバースと呼んでいるのだ。
─なんと最近、ここで様々なゲームシステムにダンジョン化が発生するようになっているのだ。
※『見た見た。現実でもダンジョンができるのに、息抜きのVRまでダンジョン化が来るなんて洒落になってねえよなあ』『でもでも、VRだと配信してれば俺らでも割とモンスターと戦えるべ』
─原因は謎なのだけれど、最近SNSを通じてデーモン化する人が増えているようなのだ。
─敵がインターネットを使って侵略してきている、と言われているのだ!
─色々な手を思いつくものなのだ。
※『嫉妬勢だっけ』『そうそう! 最初はフランスで確認されたんだろ?』
─インターネットを侵略してきている大本は、嫉妬のレヴィアタンだと言われているのだ。
─インターネットには嫉妬がどろどろに渦巻いているのだ。
─自分よりも凄い人、幸せな人が一瞬で可視化されるし、その幸せが大嘘でも見抜けないのだ。
─嘘を嘘だと見抜けない人は(略)なのだ。
※『嫉妬を効率的に集めるなら確かにインターネットだもんなあ』『やべー奴がどんどんデーモン化していってるらしい』『やべー』
─さて、そんな状況に例のきら星はづきさんが飛び込んで行ったわけなのだ。
─彼女はVRで、一般陽キャな人と味のしない食べ物という洗礼を立て続けに浴び、テンションだだ下がりだったのだ。
※『そりゃあなw』『苦手なものが溢れてるでしょw』
─その後、彼女はちょこちょこダンジョン配信もしたりしたんだけど、最近はたまーにロビーにいるくらいになり、今はリアルを中心に活動しているのだ。
─この間の配信で、VRは食べ物が食べられ無いからいかんと言っていたのだ。
※『うーんこれは暴食!』『暴食攻略の鍵はインターネットにありましたねえ』『もう攻略終わってるけどなw』
─今は配信者の人たちが次々VRにやって来ていて、ダンジョン対策は大丈夫そうなのだ。
─みんなもVバースを訪れれば、どこかで有名配信者と遭遇できる機会があると思うのだ!
─けっして彼らの活動を邪魔してはいけないのだ。
※『今回の配信は常識的な内容だな』『大騒ぎも起こってないからなあ』『大罪勢出てきてから配信者がスキャンダル起こさなくなったもんな』『仕事が増えてそれどころじゃなくなってるよな』
※『おい! 今はづきっちともみじちゃんがコラボで配信始めたって! 二人でお菓子作ってる!』『なにぃ』『見逃せないかも!』『そっち行こうぜ!』
プレミアム動画の同接数がドッと減る。
この様子を見て、画面の前の管理者はショックを受けた。
「な、なんということだ……! くっそー、もっと貪欲に情報を集めて面白い動画を作らねばダメかあ。貪欲さが足りないなあ、貪欲貪欲……!!」
「本日も、
※『かいてーん』『かいてーん』『手をパチパチしててかわいい』『もみじちゃんの可愛さは寿命が伸びる……』『はづきっちとコラボかあ』『お料理するの? 楽しみ!』
むむむっ、もみじちゃんのチャンネルは治安がいいな……。
私の配信も、無法地帯ではないけどもっと濃いオタクが跳梁跋扈している気がする……。
ああ、ここにいると心が洗われるなあ……。
今回の配信は、もみじちゃんの家の工房で行われている。
眼の前には生地を作るための材料が。
今回の配信は生地の焼き時間も考えて、前後編なのだ。
「今日はねー、クリスマスと言えば! というお菓子を作ります! なんでしょうー? アンケート表示しておきますね」
おっ、もみじちゃんの作ったアンケートだ。
※御座候
※回転焼き
※大判焼き
※ブッシュドノエル
三つくらい同じものじゃない……?
受け狙いで、上の三つに割りと票が入ったけど……。
圧倒的勝利はブッシュドノエルのものだった。
リスナーさんがきちんとしているー。
うちのお前らだったら上の三つが激戦を繰り広げているところだ。
「正解は~! はい、お客さんたちだいせいかーい!! ブッシュドノエルでしたー! じゃじゃーん!」
※『かわいいかわいいかわいい』『圧倒的にかわいい』『ダンジョン配信でもダンジョン外でもかわいいが過ぎる』
みんなもみじちゃんの可愛さにメロメロになっている。
これがもみじちゃんのチャンネル、もみじパン工房の民度の高い理由……!!
「じゃあはづき先輩、やっていきましょうー」
「はあい。じゃあまず卵を割ってですねー」
※『手際ァ!』『二個いっぺんに高速で割ったぞ』『ハンドミキサー並の泡立て速度!』『はづきっちの腕の動きやばいだろw』
「すっご……。はづき先輩こういう時は無敵モードです。あ、もう解説する前に卵の泡立てが終わってる……」
私は料理手順をぶつぶつ言いながら、薄力粉やココアパウダーを振るってからゴムベラでもりもり混ぜる。
「えっと、うちは横でもっとわかりやすく作っていきますねー。はづき先輩のはもう熟練の技を流れるようにやってる感じなので」
「ハッ!」
い、いけないいけない。
無心になって作っていた。
これは配信だぞ……!!
「わ、わあー、いつの間にかあとは焼くだけになってるー」
※『はづきっち、突然洗脳から解放された人みたいになってるw』『お菓子作りマシーンとなってたからなw』
もみじちゃんがリスナーと仲良くお喋りしながら、ブッシュドノエルの生地を作っている。
正しい配信者の姿~。
私より配信歴短いのにとても凄い。
勉強になる~。
※『もみじちゃんの横ではづきっちが腕組みしながら嬉しそうにうんうん頷いてるなw』『喋れ喋れw』『表情だけで語ってるw』
こうして私たちの配信は、焼きに入り、その間はお喋りタイム。
出てきた生地をクリームを塗ってくるくる巻いて……。
※『一発で完璧なブッシュドノエルが二つできたんだが』『この二人、料理で失敗するという選択肢がない……w』『はづきちゃんがいるのに撮れ高が普通だと……!?』
注文が多いなあ……!
だが私は、食べ物では絶対に失敗しないことにしているのだ……!
完成したケーキは冷蔵庫で冷やして……。
家に持って帰って、ビクトリアに振る舞おう。
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