第165話 クリスマス間近の自宅ゲーム伝説

 VRに発生するダンジョン、それそのものに命の危険が無いことがわかったらしい。

 まあ放置しとくと、入り込んだ一般人とかを洗脳してツブヤキックスで怪しい勧誘する人にしちゃったりするそうだけど。

 特に嫉妬のパワーが強い人が危ないのだとか……。


 現代のSNS利用者だと大多数では……?

 まあ私は、食べ物がない時点でVRに行くモチベーション低いんだけどね!


「リーダー、今日は家でVR配信しよう」


「えぇ……。VRぅ?」


「すっごく嫌そうな顔する!」


「だってFPSとかよくわかんないし、ご飯食べられないし、何が楽しいの……?」


「すっかり興味を失ってる。ふーむ……。じゃあリーダーが遊んでる間、私がスナックを口に運んであげるわ」


「だったらやるぅ」


 ビクトリアに誘われて、おうち配信をすることになった。

 私の部屋に集まって、二人でバーチャライズしてからご挨拶だ。


「こんきらー。今日はうちで配信です。ビクトリアに誘われてVRゲームを……」


「フフフフフ……今日も地獄に付き合ってもらうわ……。ビクトリアです。リーダーと遊びます。このゲームです」


 ビクトリアがテキパキと進めていく!


※『突発コラボじゃん!』『イカルガは予告なしでこういうのよくやるからな……。全く先が読めん……』『はづきっちVR嫌いじゃなかったっけ』


「好きではない……」


※『苦虫を噛み潰したような顔とはまさにこのこと』『はづきっちにも嫌いなものがあったかあ』『今週はVRに全くいなかったもんなあ』


 VR、私と物凄く相性が悪い気がする……。

 ロビーの注目度は、たこやきが作ってくれた偽装アバターでなんとか切り抜けられるようになった。


 まあ配信するとそのアバターもバレるので時間の問題なんですけど!

 新型アバターももらったけど、これはもうアバターというかなんというか。なんだろう?


 自分視点のゲームはなんか動きづらくて苦手だし、唯一楽しかったのはこの間の人生ゲームダンジョン……!

 トライシグナルのみんなと攻略しつつ、人生ゲームを進めていく、実に三時間に及ぶ配信だった。


 いつもは一時間くらいでダンジョンをクリアして配信終えているので、私にしてはかなり長かった方では。


「では私がまずやるのでリーダーは見てて。ゴートゥーヘール!!」


 あっ、ビクトリアのプレイが始まっている。

 彼女が買ったゲームを遊ぶので、ロビーに行く必要はない。

 私はAフォンで彼女の視界を共有しつつ、お菓子をつまんでビクトリアの口に入れる。


「もご」


※『あっ、あーんしてる!』『ビクトリアの喋りが止まったじゃんw』『てぇてぇなあ……』


「VRで物が食べられないなら、他の人が食べさせてあげればいいじゃないか理論です。ビクトリアが考えました」


※『やはり天才』『なるほど合法的にあーんができるのか』『はづきっち争奪戦でちょっと抜きん出たな』


 そんなやりとりをしていたら、ビクトリアのプレイが終わった。

 やっぱりFPSが上手い。

 彼女に言わせると、まだまだだそうだけど。


「では次は私が……。あ、ビクトリアビクトリア」


「オーケー」


 彼女がビスケットを私の口に放り込んだ。

 そして牛乳の入ったグラスにストローを差してくれる。


 至れり尽くせり……!!


「うーん極楽極楽……」


※『はづきっちが遮蔽に隠れたまま動かないぞw!』『食べる方に集中してやがるw』『やっぱりVRとの両立はダメだったかw』


 ふふふ、結論が出たようだね。

 私は咀嚼が終わったところでのっそりと遮蔽から出てきて、そのまま撃ち抜かれて倒れた。


「リーダー……!! 本当にFPS苦手なのね。トコトコ無防備に遮蔽を出ていくと思わなかった」


「普段はあれでいけるので……」


「オー、変な癖がついちゃってる。でもそうだよね。リーダーは現実の方がイージーだもんねえ」


 それはそれで語弊があるような……!

 リアルはイージではないわよ。

 陽キャとかが、わさわさいるし。


 何度か交代で遊びつつ、ビクトリアとの軽妙なトークが大いに受けた。

 私の時はすぐに死ぬので、しばらく物陰に隠れてビクトリアにあーんしてもらい、この姿をリスナーが眺めるという配信に……。


 何配信だっけこれ?

 だけど妙にリスナーの受けがいいし、これでいいか……。

 外は寒いし、屋内でぬくぬくしながらお菓子の食べさせあいっこする配信者がいてもいいのだ。


※『あっ、はづきっち、なんかフリースペースで大規模ダンジョン発生だって』『うわ、マジだ』『これはでかいやつ』


「ほーん」


※『や、やる気がない!』


「他の配信者の人もたくさんいるので……。私が出張ってもお邪魔でしょう」


※『言い訳が上手くなってるぞw』『動けはづきっちw』おこのみ『せっかくアバター作ってロビーにいるのに!』たこやき『とりあえず満足するまで食べたら向かうのは?』


「あ、そうか。事前に食べておけばいいんだ! なるほどー」


「私、リーダーが食べるもの持ってくる! 全部食べさせてあげる」


※『あーん配信継続!!』『助かる~』もんじゃ『実際、はづきっちが出張った方が安心だろう。インターネットの侵略はウェブマネーや機密情報の漏洩につながる。別の意味で危険だからな』


「私のやる気にこの国の経済が掛かってる……!?」


※『ある意味掛かってる』『全てはビクトリアのあーんに託された』


「リーダー、あーん」


「あーん」


 おほー、口を開けているだけでビクトリアが食べ物を詰め込んでくれる。

 ありがたい~。

 これはレンチンしたフライドポテトだね。大好き!


「リーダーが食べきったら、私もVRに行く! 今度はちゃんとコラボだね」


「うんうん。普通のダンジョンなら気分も楽だし。行こう行こう」


 フライドポテトの小山を食べきり、満足した私。

 気持ちも新たに、VRダンジョンへ向かうことにするのだった。

 そのためには、設備が整ったイカルガビルに行かないとだなー。


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