第116話 本場ハンバーガーへの道伝説

 飛行機が空港に降り立つ……と思ったら、なんか空港がダンジョンハザードみたいになってるんですけど。

 どんどんモンスターが溢れてくる。

 なんだかみんな焦ってる誰かに押されて、無理やり飛び出してきたみたいな。


「いける! 今の俺たちならいけるよ!」


「ゴーゴーゴー! 俺たちには女神様がついてるんだ!」


 操縦士の人たちが変なテンションになってる!


「あひー、お、穏便に……」


 私がなだめると、もう怒涛のように流れ続けてるコメント欄がさらに加速する。

 なんだこれ!

 コメントを読めないくらい速いんだけど。


 オーケーみんな、そう興奮するもんじゃない。

 落ち着け落ち着け。


 私がコメント欄と格闘している間に、飛行機は着陸態勢に入った。

 興奮してても操作は冷静な操縦士の人たち。


 ランディングギアを出し、モンスターの只中に降り立つ……。

 そうしたら、なんか触れたモンスターがブワッと膨れ上がり……。


『ウグワーッ!?』×たくさん


 飛行機周辺に波紋ができるように、モンスターが連鎖的に弾け飛んだ。

 なんかもう粉々だ。


 こっちのモンスターは光になって消えない系?

 うわー、やだなあー。

 スプラッタ映画みたいじゃん!


「アメリカに出現したモンスターは、倒した瞬間はスプラッタだが、その時点ですでに実体を失っている。このまま着陸して問題ないだろう」


 兄がなんか解説してきた。

 詳しい。

 ずっと調べてたんだな。


 ドスンと衝撃があって、飛行機が滑走路に到着。

 そうしたら、さらにものすごく大きな、ピンク色の光の波紋が広がっていった。

 それは空港を埋め尽くすほどだったモンスターを一瞬で総なめにすると、まとめて『ウグワーッ!?』と粉々にしたのだった。


 遠くに見える、空港の管制室で沢山の人が立ち上がり、飛び上がって喜んでいるのが見える。

 なんだなんだ。

 お祭りか。


「すげえ! ダンジョンハザードを一発でやっつけやがった!」


「ブラボー! 俺たちの女神は最高だぜ!!」


 軍人の人たちが大喜びだ!


「そ、そのう、女神とかなんとか、むずむずする呼び方はちょっと……」


「聞いたかこの奥ゆかしさ」


「本物のヤマトナデシコじゃねえか」


「推せる」


 さらに盛り上がってしまった。

 どうしたらいいんだー。

 助けてえー。


 そうしたら、助けの手は外からやって来た。

 タラップのついた車がガーッと走ってきて、飛行機にガツーンとくっついてきた。

 扉が開く。


「英雄の凱旋ですよ、さあどうぞ女神様!」


 操縦士さんがなんかすっごくいい笑顔で告げる。

 な、何が起こっているんだー!!


「は、はあ」


 それでも私は基本的に押しに弱いので、曖昧な笑みで頷くと、タラップへとちょこちょこ歩きながら向かった。

 そーっと外に顔を出すと、いつの間にか集まってきていた人たちが、うわあああああーっ!!と盛り上がる。


「あひー」


「隠れるな隠れるな。お前を歓迎してくれているんだ。それだけのことをしているし、これからやるんだ。堂々と胸を張って行け。なに、この人数は無理だと? じゃあこれから食べるアメリカの料理のことを考えていけ」


「なるほど」


 兄のナイスアイデアで、私は正気になった。

 さっきの飛行機大立ち回りで、軍人さんにサーブしてもらった機内食を食べたあとでもお腹がすいてきている。

 これは本場のハンバーガーでも食べないと落ち着かない。


「ようこそ! よくぞ来てくれた、ミス・ハヅキ!」


 ビシーっとスーツを着込んだ白い髪をオールバックにしたイケメンおじいちゃんみたいな人が、手を差し出してきた。

 握手だ!


「へへへ、ど、どうも……」


 私は手を握り返して、ペコペコする。


「オー」「あれだけの偉業をなしたのに」「謙虚だ」「ザッツヤマトナデシコ」「オー」


 妙に感心されている。

 なにかする度に、居心地の悪い全肯定が返ってくるぞ。


「凄まじい力だった。我が国を苦しめる悪魔を、真っ向から粉砕する姿。胸がすく思いだったよ! だがあれほどの力、代償は大きいのではないかね?」


「……? ええと、その、お腹が割りと減ります」


 質問の意味がよく分からなかったので、いま感じている欠落感についてお話した。

 そう。

 頑張るとお腹が減るのである!


「なにっ、あれだけのことをしても、代償が一切ない……? まるで無敵のヒーローじゃないか!」


 ここで兄が解説をしてくれる。


「純粋に、増加した同接数の力を使って相手を殴りつけただけですよ。冒険配信者の最も基本的な能力。それを極めるとここまでのことができるわけです」


「なるほど! 素晴らしい! さあミス・ハヅキ! 一緒に来てくれ! 君に会いたいという者はいくらでもいるんだ! 我が国最高のごちそうで君をもてなそう!」


「あひー」


 ごちそうは嬉しいんですけど!

 味が分からなくなるような環境に放り込まれるんじゃないかこれ!?


 ここで再び、兄が割り込んだ。


「申し出は嬉しいのですが、まだ戦いは始まったばかり。色欲のマリリーヌを倒すまでは勝利の凱歌を上げるべきではない……と彼女は考えています。これからすぐに、我々はマリリーヌ対策のための会議に入ります。よろしいですか?」


「なんと……!! 素晴らしい! 日本の配信者は勤勉なのだな! 分かった。我々もできうる限りのサポートを行おう。何か必要なものがあったら言ってくれ!」


 おっと、嬉しい言葉をもらってしまった。

 ならば、と私は手を上げた。


「あのう……」


「早速! なんだね?」


「この辺で一番美味しいハンバーガーのお店を教えてください」


 本場のハンバーガーが食べたくて仕方ない私なのだった。


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