第117話 今度こそ本場ハンバーガー伝説

 レセプションにご参加くださいとか、最高のごちそうを用意していますとかいう誘惑を全てはねのけて、私はその場から脱出した。

 兄は偉い人たちと会議するらしい。

 大変過ぎる。あの立場には絶対立ちたくない。


 そして私を案内してくれるのが、軍の女性将校だって言う人で、赤毛のスラッとした背の高い美人さん。

 任務上本名は明かせないので、スカーレットさんと名乗った。


「なるほど、ハヅキはサンフランシスコならではのものを食べたいわけね?」


「そうなります。大仕事をしたのでとてもお腹がすいていて……」


「あれだけのことをしておいて、空腹で済むなんて……代償としては一番軽い類のものね。本当に規格外だわ。ところでオススメは中華なのだけれど」


「ノー! 中華ノー! 好きですけどそれは地元でも食べられるから……!!」


「なるほど。アメリカンな食事がお好みというわけね。理解したわ。ついてきて」


 スカーレットに連れられて、私はタクシーに乗り込む。

 おおーっ、アメリカのタクシー。

 スカーレットが告げると、運転手さんが走り出した。


 海が見えるところまでやってくる。

 こ、ここは……。


「アマミバーガーよ。ソースにショーユを使っているから和風だわ。ハンバーガーオブ・ザ・イヤーを取ったほどの味よ」


「ア、アメリカの和風ハンバーガー!!」


 私の脳内を駆け巡る、フジヤマ、スシ、ゲイシャ。

 あまりにも興味を惹かれたので、スカーレットに案内されるままふらふらと店内に入った。


 ……と思ったら。


『キシャーッ!!』


「!? どういうこと!?」


「あっあっ、ゴブリン! これはダンジョン化してますね。多分ついさっきダンジョンになったんだと思います」


 私は手早く配信を開始する。

 すると、解散していたリスナーたちがちらほらと戻ってきた。


※『なんだなんだ』『What?』『会再次分发吗?』


「こ、国際的コメント欄~!!」


「あなた、さっきの一件で世界的に名前が知れ渡ったもの。私もファンになってしまったくらいだわ。でも、すぐさま配信を始めるなんてやっぱりプロなのね。日本のカワイイハイスクールガールだと思っていたけれど、認識を改めねばならないわ」


 ちなみにスカーレットは対人で私を護衛する役割の人なんだそうで、モンスターには無力らしい。

 これからカリフォルニアのグルメを案内してくれる人……守護らねば。


「えっと、じゃあお前らー。こんきらー。これから本場でハンバーガーを食べるんだけど、そしたらたまたまお店がダンジョン化してたんでサクッと撃破して、ハンバーガーセットを食べ終わるところまで配信します」


※『うおー!』『持ってるなあ』『アマミバーガー、閉鎖近いです。スタッフ恨みあるです。空港モンスター出ました。余波でダンジョンかした』


 おお、翻訳ソフトを使ってコメントしてくれてる人もいる!

 ありがたいなあ。

 そうか、ハンバーガーショップにも歴史あり!


「んじゃ、バーチャルゴボウで素早くクリアします! あと、デーモンは優しく撫でるくらいにして人間に戻しますね」


 私はスカーレットを伴って、バーガーショップ内に侵入する。

 座席から立ち上がり、襲いかかってくるゴブリンたち。

 あ、途中からオーガになった。だけどペチッと叩くと『ウグワーッ』と消滅する。


 カウンターの中からは、肉きり包丁を持った半分腐ったみたいな3mくらいある太っちょさんが飛び出してきた。


「ブッチャーよ! 気をつけて!」


「アッハイ」


『フレッシュミーッ!!』


 新鮮なお肉、と叫んでいるようです。

 私も新鮮なお肉大好き。

 熟成肉も好き。


 振り回される肉切り包丁をゴボウで受け止めると、包丁の刃が欠けた。

 他のモンスターは、もう片手に握ったバーチャルゴボウでお相手する。


 これ、優れもののアイテムで、手元のボタンを押すとゴボウが伸びるの。

 ニューっと1mくらいまで伸びたゴボウが、並み居るモンスターを雑に粉砕していく。


※『右手でブッチャーと鍔迫り合い、左手でモンスターたちを次々倒す!』『剣豪みたいなことし始めたな……』『Wow!! HADUKI・SAMURAI!!』


 なんか盛り上がってる盛り上がってる。


『ウォォォォォォォォーッ!! フレッシュミーッ!! アイウォントゥトゥイーッ!!』


「お肉食べたいよねえ。私も空腹なのでさっさと片付けるね……」


 私はゴボウをぐっと押し込んで肉切り包丁を折り、


『アーウチ!!』


 ブッチャーのお腹をブニュッとゴボウで押した。


『ウグワーッ!!』


 叫びながら光になるブッチャー。

 その姿が、太っちょの店員さんに戻った。

 店長さん?


「おお……。俺はなんてことをしていたんだ……!」


 ブッチャーが店長さんに戻ったら、お店のダンジョン化が溶けていく。

 すると、モンスターたちも消えるダンジョンに巻き込まれていなくなるのだ。


 不思議……。


「思ったよりも小規模なダンジョンだったわね。恐らく……色欲のマリリーヌがハヅキを迎撃するため、子飼いの戦力を総動員してダンジョンハザードを空港に発生させていたのね。これを真っ向から粉砕したあなたは本当に凄いのだけど。ここに割けるモンスターの戦力がなかったみたいね」


「お腹が減りすぎて言葉が耳に入ってきません……」


「彼女にハンバーガーを! 最高のアマミバーガーを!」


 私が席に座ると、ちっちゃいバケツみたいなコーラが出てきた。

 あひー、本場のコーラ!!


 ごくごく飲む。


「んほー、染み渡る~」


※『んほーやめろw』『キマっちゃったなはづきっち……!』『労働の後の甘いコーラは最高だもんな……』


「その小さな体のどこにコーラが入っていくのかしら……」


「一応日本だと標準的な身長です……!」


 そしてついに運ばれてくる、山盛りの揚げたてフライドポテトとアマミバーガー!!

 ホクホク、サクサクのポテトは塩加減抜群で最高に美味しい。

 美味しいものを食べると、唾液腺が刺激されてギュッと痛くなる。


 たまらん~。


 そしてそしてそして!

 アマミバーガーは大きなビーフパティに特製ソースとトマトの輪切り、レタスにピクルスがついてきて……。


「んほー、昇天する~」


※『はづきっちの昇天顔だ!』『現役女子高生がやっていい顔ではないw』『本当に美味そうに物を食うよなあ……』


 結果的に食レポみたいになった私の配信は、大好評だったみたいだ。

 アマミバーガーサンフランシスコ店は、この後大量のお客さんが詰めかけ、大繁盛。

 閉店を免れたということだった。


 良かった良かった……。 


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