第118話 三人の配信者伝説

 お腹が膨れて満足した私。


「それじゃあ案内するわね。現地の配信者たちから話を聞かないといけないでしょ」


 そう言われ、なんか港沿いのおしゃれなところに連れてこられた。

 海が一望にできるビル。


 入り口でレモネードを売ってる子どもがいたので購入した。


「ありがと! お姉ちゃんイカしたかっこうだよ!」


 なんか褒められたぞ。


「この国は子どもでもお世辞言ってくるのか……。陽キャの王国だ……」


 私は戦慄した。

 そしてふと見回す。

 自販機が少ない気がする。

 これはお腹が減った時、よりどりみどりで選べないぞ。


 私は別の意味で戦慄した。

 恐るべしアメリカ……。


「一瞬でレモネード飲み干したわね」


「素朴な味でした」


「さっきハンバーガー二つにポテトにナゲットも食べたのに……。その小さい体のどこに食べ物が入るのかしら……」


 スカーレットに呆れられつつ、案内されたのはビルの最上階。

 なんか廊下にラッパーみたいな姿の人とか、カラフル全身タイツの人とか、テカテカレザーでボディラインすごく出てる女の人とかいるんだけど。


「みんなあなたの仲間の配信者よ」


「こ、こんな感じの仲間は知りません~!」


 アメリカの配信者のスタイルは、現実寄りのタイプが一番多くて自分の元々の職業とか、これで売っていきたい!というスタイルをコスチュームにするんだって。

 うーん、現実に足がついたタイプ……。

 陽キャ……!!


 次にアメコミとかのヒーロータイプ。

 全身タイツとかね。

 この人たちはいい大人からは白い目で見られてるとか?

 うーん親近感~。


 そして最後はミリタリータイプ……というか、政府所属の配信者。

 この人たちは割りといい銃を使えるらしくて、強い……らしい。

 だけど配信だとそこまで人気がないので弱い……らしい。


 どっちなんだ。


 ちなみに強さだと、ヒーロータイプはツボに入ると一番人気が出て強くて、お寒い感じだと泡沫で終わる……。

 厳しい世界だ。


 そんな混沌としたアメリカの配信者たちが待つ部屋に、私は恐る恐る入っていった。


 すると……。


 パァンパァン! 鳴り響くクラッカー!

 ヒューッ! なんか指笛!

 敬礼する軍人系配信者の人たち!

 駆け寄ってくるヒーローっぽい人たち!

 気安い感じで近寄ろうとする陽キャ!


 が私の近くで衝突して、「ウグワーッ!! 一気に動くなー!!」「お前が譲れーっ!!」「邪魔だぞナード野郎!!」「ジョックはみんな死んだだろうが! ジョックが死んでもお前はジョックになれねえんだよ!」「なにをーっ!!」「なんやーっ!!」「もがーっ!!」


「あひーっ」


 すっごく大変なことに!

 殴り合いだ殴り合いだ。


 そうしたら物陰から私の袖を引っ張る人がいる。

 ゴスロリ姿で、なんかそれっぽいお化粧をした女の人だ。


「ね? 生き残りは三流のアホどもばっかりになっちゃったのよ」


「あー」


「でもあなた、私たちの同類みたい。そんな人が日本の凄い配信者だって言うの、嬉しいなあ……あ、私はビクトリア」


「すごい高尚な名前……。あ、きら星はづきです」


「知ってる……ふふふふふふ」


 ビクトリアが含み笑いをした。

 うーん!

 圧倒的陰のオーラ。

 落ち着く……。


 殴り合いをしていた配信者の人たちが、ダブルノックダウンで部屋のあちこちに転がっている中、無事だった人たちが集まってきた。


 緑色の全身タイツのひょろっとした人。


「やあ、キャプテン・カイワレだ」


 ゴスロリ姿に武器はバールのようなもののビクトリア。


「ふふ……ふふふふふ……」


 軍人系っぽいけど、軍人は普通そのテカテカレザーで胸が半分見えてる軍服着ないし、下半身ハイレグで網タイツではないですよね?っていう……マッチョな男の人。


「カーネル・インフェルノだ!」


 生き残った(?)三人を見て、スカーレットが頭を抱えた。


「なんでこんな三人が残ってるの……」


 信用できそうな人たちだ!

 私は彼ら三人から話を聞くことにした。


「あのう、色欲のマリリーヌをやっつけに来たんですけど……」


「なるほど、つまり僕たちと同じ目的を持って集まったヒーローなんだな!」


 キャプテン・カイワレがサムズアップした。


「僕たちは実は色欲の迷宮に挑んだんだが、モンスターが強くて一時撤退したんだ」


「うむ。我らの力に恐れをなし、かの卑怯なるマリリーヌは兇猛なモンスターをけしかけたのだ! 我輩のムチが唸りをあげたが、卑怯なる二人組のゴブリンにタコ殴りにされて撤退したのだ」


「つまりぃ、私たち三人はそれぞれソロで色欲の迷宮に挑んで、弱っちかったので逃げ帰ったのね」


「ははぁ」


 私はぼんやりこの話を聞いていたけれど、スカーレットは驚いたみたいだった。


「待って。つまりあなた方には、色欲のマリリーヌの力が通じなかったということ!?」


 カイワレ、ビクトリア、インフェルノの三人がうなずく。


「僕はトイやフィギュアにしか欲情しない」


「私は活字にしか欲情しないわ」


「我輩は自分にしか欲情しない」


「おー! 完璧ですね。アメコミのリベンジャーズってやつみたいな感じ」


 私たち四人はなんか運命的な出会いかもしれない。

 全員から陰のオーラを感じる!

 私は大喜び、スカーレットはなんか嘆いてる。


 問題は、この人たちの登録者数が少ないことなんだけど。

 カイワレは登録者数4人、ビクトリアは430人、インフェルノは12人。


「ビクトリア多くない?」


「私の登録者……国内の人が少なくて……配信時間とリスナーの生活時間が合わないから弱いの……」


「なるほど……」


 スカーレットはこの場にいる三人を見渡した。


「ハヅキ、あなたはこの三人を率いて、色欲のマリリーヌを攻略することになるわ。正直……この国の配信者の底辺みたいな三人だけど」「なんだって!僕はまだ世界に見つかっていないだけさ!」「フヒヒ、サーセン」「我輩は我輩にだけ受ければいい」「て、底辺な三人だけど! どうにかプロデュースして戦えるようにして!」


「あ、はい。一週間でこの三人を……。えっ!? 一週間で!?」


「できるわよ!!」


 スカーレットが無責任に告げた。

 できるか!?


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