第119話 スパルタ式はづき塾伝説
ひょろっとした緑の全身タイツ、キャプテン・カイワレ。
ゴスロリ姿のボソボソ喋るバールのようなものを持った人、ビクトリア。
軍人っぽいけど明らかに露出過多のマッチョな人、カーネル・インフェルノ。
この三人を連れて、近場のダンジョンに潜ることにした。
「えっ!? 今日の今日で!? あれだけの戦場をくぐり抜けてやっとカリフォルニアに来たばかりじゃない」
スカーレットが驚いているが、私はフットワークが軽いのだ。
「ハンバーガーとフライドポテトとコーラとレモネードでエネルギー補給したのでいけますいけます」
「この辺りのダンジョンはどれも、発生して時間が経過すると色欲の支配下に置かれるわ! 危険極まりないのよ!?」
「この三人は色欲の攻撃が通じないみたいなので……」
「で、でも底辺配信者ばかり……」
「私もスタートは同接三人でしたし」
「ううっ」
よし、説得した。
実際はたどたどしい言い方だったんだけど、翻訳してくれるAフォンが凛々しく改変してくれるんだよね。
うほー、私を美化してくれるいい子だ~。
「僕らのリーダーは流石だな。さしづめ僕らは配信者のドリームチーム、リベンジャーズだ!」
「フフフ……。お姉様ができるかも知れないわね……。私、日本の百合小説も好きで……」
「ふむ! 我輩の美しさを世界に知らしめようという活動、実にありがたい!」
おおー、自分の話しかしない人たちー!
なんとなく心が穏やかになる。
こうして、凄い面々でダンジョンに潜る……というところで変な人たちに遭遇した。
「ダンジョンは神の試練!」「ダンジョンを通じて我々は高次の生命へ進化するのだ!」「ダンジョンは福音だ!」「ダンジョン攻略反対!」「配信者を許すな!」「ダンジョン配信を娯楽で消費させるな!」
うわーっ、プラカードを持ったそこそこの人数の人たちだ!
すると、どこかに隠れていたらしい黒スーツにサングラスの人たちがワーッと駆け寄ってきて、プラカードの人たちを棒で叩いた。
「ウグワーッ!!」「暴力反対ウグワーッ!!」「そっちが棒ならこっちは銃で……」
銃を取り出したプラカードの人が、棒で集中攻撃される。「ウグワー!!」
あー、ぶっ倒れた。
スカーレットがこれを見て、
「危ないところだったわ。活動家がこうしてあちこちにいるから、気を抜けないの。正直、この国はカオス状態よ。色欲が好き勝手したせいで、みんなおかしくなってきている」
「なるほどー。じゃあ、早くなんとかしないとですね!」
私はやるぞ、という決意を新たにし、近くのダンジョンに潜った。
そこは廃棄されたマンション。
一言で言うなら臭い。
「お年寄りが汁になってたダンジョンみたいな臭いがするー」
「ダウンタウンのダンジョンなんてみんなこんなものさ! これをエンタメに変えるのが僕らヒーローの役割だ! 先に行くよリーダー!」
あっ、キャプテン・カイワレが先走った。
そして何かに殴られて「ウグワーッ」と落ちてくる。
伏線回収が早いなあ。
これをインフェルノがキャッチした。
「あ、配信してなかった。ちょっと待ってね。お前ら、こんきらー。今回は現地の配信者の人たちとコラボでーす。国際コラボ第二弾!」
※『こんきらー』『あれだけの凄まじい配信をした後に随分こじんまりした配信をw』たこやき『現地配信者、どなた?』
「あっはい、じゃあ三人とも自己紹介して。みんなのチャンネルのアドレス表示しとくね」
「キャプテン・カイワレだ! カイワレパンチとカイワレスティックでヴィランを叩くぞ!!」
※『ヒーロー系配信者だ!』『ひょろいなー』『全身タイツなだけじゃないか?』『ヒェッ、登録者数4人!! それではづきっちに同行するとか死ぬぞw!!』『前回のコラボのメイユーと100万人以上の登録者数差があるな』
「くふふふふ……ビクトリアです。ハイスクールでは色々割りを食ってるので、一発逆転のために配信者してます。ただ……生命の危険的な一発逆転されそうな日々です」
※『陰キャ系配信者!』『カワイイ!』『日本の方が受けるかも知れないな……』『武器バールなんだ!? ゴスロリ系怖い武器配信者、イイ!』
案の定、ビクトリアはうちのリスナーに人気だ。
うんうん、絶対受けると思うんだよね。
ちなみに彼女は高校三年生になったばかりらしい。卯月さんと同い年だー。
「キャプテン・インフェルノだ! 我輩の美を世界に知らしめるために~」
※『うおーっ』『いい筋肉だな』『格好がマニアック過ぎるw』『登録者数が12人!!』『死ゾw』
インフェルノに対する反応も想像通りだった!
この人、あんまり他人の反応とか気にしてないっぽいし、いいんじゃないかな!
※『あれっ!? この人、ボディビルの大会で見たことが……』
えっ!?
もしかしてインフェルノ、バーチャライズしないで素のままの姿……。
というか!
三人を見渡して気づいた。
だ、誰もバーチャライズしてない!!
確認したら、Aフォンも持ってないらしい。
自前のスマホで撮影しながら配信してたのね。
うん、間違いなく最底辺配信者……!!
私がスタートした時はもっと恵まれてたもん。
よく今まで死ななかったなあ……。
彼らを率いながら、私はダンジョンをとことこ進んでいった。
幅の狭い階段と廊下がたくさんあって、ちょこちょこと錆びた扉がある。
扉を開けると、『ウボアー』と襲ってくるモンスターがいるので、これをバーチャルゴボウで叩く。
『ウグワーッ!』
モンスターが消滅した。
「す、すごい!! 一撃でモンスターを!? 僕のカイワレスティックは二撃目でスティックの方が折れるのに!」
「私はカイワレさんがその状態で今まで生き残ってるのが凄いと思う」
※『はづきっちに戦慄させる男』『だけど行き過ぎはむしろリスナー引いちゃうんだよなあ』『活動二年目で登録者数4人ってマ!?』
「では我輩も行くぞ! ふんぬあーっ!!」
インフェルノが行った!
そしてモンスターに叩かれて「ウグワーッ!!」と階段を転げ落ちてきた。
お約束を忘れない人たちだなあ。
「ぬおおお、やはり我輩の力が通用しない……!」
降りてきたのはオーガだ。
オーガに殴られてよく無事だったね……!!
素のフィジカルで生き残ってた人だ。
※『どれだけ生命があっても足りない配信スタイル』『奇跡を積み重ねて生き残ってたんだな。だが登録者数12人!!』
奇跡の生存能力があっても、それが世間に認められるとは限らないのだ!
私は運が良かったなあ……。
なお、人気があったのはビクトリアだった。
というか配信中に、彼女の登録者数がもりっと増えた。
「ヒッ!?」
スマホを確認していたビクトリアが絞め殺されそうな悲鳴をあげたので、私とカイワレとインフェルノがビクッとした。
「ど、どうしたの」
「と、と、登録者数が1000人超えてる……超えて、る……!!」
「うちのリスナーがなだれ込んだんだと思うなあ」
目に見えて、ビクトリアの強さが上がった気がする!
バールのようなものを振り回すと、ゴブリンレベルなら一発だし、オーガも何回か殴ると倒せる。
ちなみに男性陣は全然強くならなかったが……。
「おい見てくれ! 僕の登録者が7人になった! イヤッホーッ!! 凄い! 凄い成果だぞ!」
「我輩も登録者数が18人になったぞ! 世界が我輩を認めた……!」
三人は私に向けて、なんか目をキラキラさせるのだ。
おお……リスペクトの気配を感じる……。
※『はづきっちが完全にメンターになっちまったな……』『この中で一番配信歴浅いだろw』『くぐった修羅場の数ではトップだけだどな……!』
※斑鳩『ふむ……ビクトリアか』
兄が目をつけたぞ!
でもでも、とりあえず今回の配信は成功。
ダンジョン奥にいた色欲勢のデーモンを倒し、この人たちが本当に色欲攻撃っぽいの強いことを確認した。
で、戦闘力が低いこの人たちをどうしよう?
まあなんとかなるかなあ。
夕食終えたら考えよう!
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