第120話 キングサイズベッドダイブ伝説
嵐のような一日を終え、兄も合流したところでホテルの豪華なディナーを食べた。
コース料理はあまり好きじゃないので、中華にした!
もりもり食べていると、兄が今回のお仕事について色々話してくれるのだ。
「空港到着までに片付けたモンスターの数が、近年最大規模のダンジョンハザード級だったらしい。おそらく、色欲は手持ちのモンスターの大多数を失ったのだろう。急激にサンフランシスコのダンジョンの危険性が落ちているそうだ」
「ほへー」
「モンスターの数も有限ということだな。あるいは無限だとしても、戦力を揃えるには時間が掛かる。それまでに色欲を叩く必要があるということだ」
「ふんふん」
スピード勝負ということか。
私はあまりスピードに自信が無いんだけど、まあなんとかなるんじゃないだろうか。
たくさんのモンスターを退治したので、この街の夜はかなり安全になったらしい。
お陰でホテルでぐっすり眠れる。
部屋に戻ったら、テレビで『久しぶりに静かな夜が戻ってきました』とか話していた。
よかったよかった。
イメージだとアメリカは賑やかな感じだったけど、実際は違うのかも知れない。
私の護衛だというスカーレットも同じ部屋に宿泊するので、色々聞いてみる。
「それはもう、日本と比べてこの国の夜は危険だったわ。だけど、ダンジョンからモンスターが出てくるようになって、ある意味では安全になってしまったわけね」
危険な夜の住人が、もっと危険な住人であるモンスターたちに一掃されてしまったらしい。
モンスターはなぜか、家の中で寝ている人には危害を加えない。
だから夜になるとみんなすぐに寝てしまうようになった。
たまに外に出る用事がある時、命がけになるわけだ。
「なんで寝てると安全なんです?」
「色欲のマリリーヌだからでしょ。人から欲のエネルギーを吸い取っているらしいの。寝ているとそういうエネルギーの発散が抑えられるから、手出しをしてこないというわけね。奴にとって、ここは人間牧場みたいなものなんじゃないかしら」
人間、管理されてた!
「その管理を根幹から誰かさんがぶち壊したので、危険な住人が一層されただけの歴史上最も安全な夜がこの街にやって来たというわけよ。夜の散歩に出る?」
「ちょ、ちょっとだけ……!」
こうして、スカーレットに連れられて夜のサンフランシスコをぶらつくことになった。
びっくりするくらい静か。
行き交う車も無くて、街全体が寝ているみたいだ。
「あなたが」
スカーレットが振り返る。
「あなたが色欲のマリリーヌを倒してくれれば、この安全な夜は永遠になる。まあ、すぐにろくでもない連中が戻ってきて危険な夜になってしまうかも知れないけど。それでも、夜を人間の手に取り戻せるわ」
「あひっ、そ、そんななんか映画みたいなセリフを私に!!」
衝撃を受けてしまった。
そう言えばこの国、ハリウッドがあったりするんだったな……。
夜のお散歩は、ちょっと歩いてすぐに終わった。
お店は全部閉まっているし、安全な代わりに歩き回る以外のことが何もできないから。
ホテルに戻って、シャワーを浴びて、バスタブにお湯をためてからバスジェルを泡立てて……。
「うほー! 泡のお風呂ー!」
この泡、お湯を冷まさないためにあるらしい。
異文化ー。
ほこほこになってお風呂から出てくる私。
髪の毛はタオルでぐるぐるに巻いて水気を吸わせている。
割りと強靭な私の髪だけど、お手入れはやってあげないとね……!
「テレビも22時で終わりよ。見て。夜景なんか何も見えない」
ホテルの割と高い階に宿泊してるけど、ここから見渡すサンフランシスコにはほとんど灯りがなかった。
オフィスはみんな、夜になる前に帰ってしまっているのだ。
夜通し働いていた会社はみんなモンスターに襲われて無くなってしまったから。
「本当に寝るしか無いって感じですねー」
「寝るしか無いのよ。ということで、私は隣の部屋の補助ベッドで寝るわ。最高級ベッドでの一夜をお楽しみください、お嬢さん。グッナイ」
なんかかっこいいことを言いながら、スカーレットが出ていった。
私は……。
キングサイズのベッドに突撃した。
「あちょー!」
ジャンプ!
そして飛び込む。
柔らかいベッドか、スプリングが効いたベッドか!
バウーンと弾んだ。
すごくスプリングが効いてる方だ!
私は確かにこっちの方が好きかも。
しばらくぼよんぼよん弾んで遊び、それからツブヤキックスをチェックしてみた。
エゴサ、エゴサ……。
「おほー! なんか私の話がたくさんツブヤキされてるー!」
機内での寝ぼけ半分の大立ち回りとか、操縦士さんとお話をしてるところだとか、そういうのがバズってるらしい。
なんか飛行機が空港に着陸した時に生まれた、あのピンク色の波紋みたいなのがもう動画になってる。
ゴキゲンな音楽に乗って、ピンクの波紋がモンスターを吹っ飛ばす動画は凄い再生数だ。
あ、たこやきが作ってるじゃん!
それにいつの間にか、イカルガエンターテイメント公式所属になってる。
たこやき、就職したのか、うちに……!
それから、考察厨たちが私のアメリカ遠征を考察してる。
その中で、『あのビクトリアというゴスロリは新しい仲間に違いないぞ。俺は詳しいんだ』みたいな考察があった。
残念……!! 彼女は現地人です。
そうか、あの三人を連れて明日もダンジョンを潜ったりしなくちゃなあ。
難しいところや細かいところは兄がやってくれるから、私は体を動かす仕事の方を頑張るのだ。
明日はどうしよう……。
とりあえず近場で一番大きいダンジョンに潜って……と考えていたら。
意識が遠ざかっていったのだった。
パチっと時限式で照明のスイッチが落ちた。
寝心地は最高だった。
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