第121話 朝食のステーキ伝説
おはようございます!
爽やかな目覚めと、寝起きのミルク!
そして朝からステーキなのだ。
「朝から重いものを食うなお前は……」
兄が顔をしかめながら、コーンフレークみたいなのに牛乳を掛けて食べている。
私は薄く焼いたモーニングステーキに、マッシュポテトと生野菜をオレンジジュースでいただく。
あとプレーンオムレツもある。
ゴキゲンな食卓~。
「一週間の流れについて会議をしてきた。やることは簡単だ。最終目的地はダウンタウンのナイトクラブ、エーミールだ。だが、ダウンタウンはまるごと地盤沈下し、ピットフォールと呼ばれる穴の底に存在している。そこに向かうまでの道のりは廃棄された地下鉄で、やはりダンジョン化している」
「ふぉむふぉむ」
私はモーニングステーキをむしゃむしゃやりながら話を聞く。
おおー、美味しい!
アメリカ、お肉がとにかく美味しいなあ。
ご飯代わりにマッシュポテトをもりもり食べる。
やっぱり白いお米が欲しくなる。
「クラブ・エーミールへ向かうため、お前は昨日見出した三人の色欲耐性保持者を鍛えねばならない。つまり、ダンジョンを毎日一つずつ攻略してく必要があるということだ。それも、色欲のマリリーヌの息が掛かった強力なやつをだ」
「なるほどー。でもあの人たち、Aフォンも持ってないのですっごく危ないんだけど」
「Aフォン、非公式でもかなりの値段がするからな。アメリカともなればそれは顕著だろう。特別な伝手でもない限りは手に入らない。だが今回はその特別な伝手がある」
横で食事を終えたスカーレットが、3つのAフォンをその場に並べてくれた。
「これで全員が正式な冒険配信者よ。任せたわハヅキ」
「ふぁい」
私はもぐもぐやりながら応えたのだった。
ホテルのコンビニでドリンクとサンドイッチを買って外に出ると、三人が待っていた。
カイワレとビクトリアは地元、インフェルノはわざわざホテルを取ってここに長期滞在しているらしい。
「待ってたぜリーダー! おっと、その手にしたイカしたスマホはなんだい?」
「フフフ……聞いてリーダー。たくさんメールをもらったわ。私ったらファンが増えちゃったみたい」
「全世界30億人の目に我輩の美が焼きつけられたようだ。さらに登録者が5名増えたぞ!」
「朝から元気だなー」
私はすっかり感心してしまった。
そして、三人に順番にAフォンを手渡す。
「はいこれ。これでバーチャライズできるからね。と言っても、今のままの姿をちょっとCGっぽくするだけだけど」
「おおーっ!! こ、こ、これが!! 僕がヒーローに至るための鍵!!」
「ふふふ……本格的に配信できちゃう……ふふふ、私ってばもっとファンがたくさん増えるかも……」
「我輩の美を360度方向から舐め回すように世界へ発信できるわけだな?」
喜んでもらえて嬉しい。
とりあえず、私とこの三人は色欲のマリリーヌ対策特別チーム、ラストバスターズと名付けられることになった……らしい。
リーダーが私。
私がリーダー!?
「えっと、じゃあ、最初はあの大きいビルを攻略します」
私はAフォンに入力しておいたカンペを読みながら、背後のビルを指さした。
「ワオ! 本当!? あれは色欲の手勢のインキュバスが支配するダークネスビルだよ! 州軍の攻撃を受けても傷ひとつつかなかったモンスタービルディングだ。あれをこの四人で……!? 普通なら無茶だって思うかも知れない。だけど僕らはヒーローだ。軍でもやれないことをするのがヒーローだよね!」
キャプテン・カイワレがすごくやる気だ!
ただまあ、彼がいっちばん弱いので私が色々手助けしてあげないと……。
こうして、三人を引き連れてダークネスビルに到着。
周囲は州軍によってバリケードが築かれ、侵入できなくなっている。
私が到着したら、みんな目を丸くした後、笑顔になった。
「ピンクのジャージの女神様がご到着だ!」
「俺たちに自由をもたらすディーヴァがお通りだぞ! 道を開けろ!」
「N.Y.じゃなくシスコに来る当たり、女神様は分かってるよな!」
「うへへ、どうもどうも……」
私はペコペコしながら、彼らが開けてくれたゲートを抜けていった。
その後、私に続く不思議なかっこうの三人を見て、州軍の人たちが首を傾げた。
三人は堂々と誇らしげに歩いていく。
あの自己肯定感は見習いたい!
そびえるダークネスビル!
真っ黒だ。
「流石は色欲最強の部下が支配する地上の拠点。恐ろしいほどの威圧感だな」
インフェルノが唸る。
「あ、そ、そう言えばなんですけど」
「なんだリーダー」
インフェルノ、色々詳しそうなのとこの中で一番大人なので、事情を聞いてみることにする。
「なんでみんな、カリフォルニアにマリリーヌがいるのに逃げないんですか?」
「どこに逃げても同じだからだろう。あの女の手は全米に広がっている。それに生まれ故郷を捨てて逃げ出すなどモンスターに負けたようなものではないか。まあ我輩はカナダ人なんだが」
最後の一言で台無しだよ!?
ということで、配信開始のとつげーき。
「お前ら、こんきらー。時差で深夜の配信になってると思うけど、こっちは爽やかな朝でーす」
※『こんきらー!』『珍しく深夜配信だと思ったら、そうだアメリカ行ってたんだった』『今朝の世界を巻き込んだ馬鹿騒ぎ最高だった』
そっか、昨日の空港での大騒ぎはあっちだと今朝なんだっけ。
「じゃあお前らの睡眠時間を守るために一時間で配信終えますね」
※『優しい』『気遣いができる子はづきっち』『えっ、このビルを一時間で!?』
「できらあ!」
私のやり取りを見たラストバスターズの面々、目を剥いている。
「リ、リーダー正気かい!? このビルを一時間で!?」
「あっはい。リスナーのみんなは明日も学校や仕事があるから……」
「そ、そうじゃなくて! 難攻不落の要塞であるダークネスビルは、未だに三階以上は攻略されていないんだ! それほど高難易度のダンジョンなんだぞ! それを一時間で!? ……ワオ、イカすぜ! まるでヒーローだ!!」
あっ、キャプテン・カイワレが自己解決した。
※『昨日のゴスロリちゃんもいる!』『俺割りとこの子好きなんだよな』おこのみ『アメリカンなゴスもよろしい……』『わかる』
ビクトリアが自分が話題にされていると気付いて、笑顔で手を振った。
うちのコメントがウワーッと流れる。
「ビクトリア日本語読めるの?」
「ええ、もちろん。日本のアニメだって原語で聞いてるから日本語も実は話せるわ」
「凄い」
オタク女子だった。
その後、ビクトリアとリスナーサービスな感じで最近のアニメの話なんかを日本語でした。
本当に日本語上手い。語彙がラノベとアニメだけど。
もちろん、お前ら大喜び。ビクトリアの登録者数がまたもりもり伸びたらしい。
こうして私たちは、ダークネスビルに突入……。
『この扉は通行止めだ! 我らストーンジャイアント軍団を突破せねばこの先には』
「あっあっ、ちょっとどいてください、通りまーす」
『ウグワーッ!!』
「すっげえ!! ストーンジャイアントの集団が風に吹かれた枯れ葉みたいに吹っ飛んでいくぜ!」
※『そこのかいわれ大根みたいなやつがアメリカンに解説してくれるな』『ナレーションやガヤの才能がある』
まずは開始二分で扉に到着。
自動ドアをくぐって、奥からパラパラと出てくるモンスターをゴボウで叩いて消滅させて……。
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』
「あ、みんな適当に戦っておいてください」
※『指示が雑ぅ!』『他のやつははづきっちじゃないんだから無理するなよ!』
リスナー優しい~。
攻略作戦スタート。
なお、一階も二分で制圧した。
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