第122話 ダークネスビルRTA伝説
「じゃあここでエレベーターを使ってショートカットしまーす。ビルは高いし、階段使うと一時間で終わらないんで」
※『はづきっちのRTAが始まったぞ』『エレベーターは止まるフラグじゃないのかw』もんじゃ『ジャンボジェットを武器に変えたあの力があればあるいは……』おこのみ『みんなではづきっちを応援するぞ!』『うおおおおお』
色々な意見があるみたい。
キャプテン・カイワレも「映画だと敵が潜んでたり止められて余計に時間が掛かったりするんだ! 僕は詳しいんだ!」とか言っていたので、
「では階段を使ってもいいですよ……」
「ひ、一人はちょっと」
ということでみんなで仲良くエレベーターで行くことになった。
私が乗り込んだら、なんかエレベーターがピンク色に光る。
なんだなんだ。
ジャンボジェットの時みたいじゃないか。
そしてエレベーターは何事もなく、スーッとすごく上の階まで到着したのだった。
「な、何もなかった。デーモンたち正気か!?」
「フフフ……正気みたい。だってほら、エレベーターから出てきた私たちを見て、みんな動揺してる……」
ビクトリアの言う通り、この階にはたくさんデーモンがいて、その人たちがざわついている。
そしてあちらさんは慌ててあちこちの壁に取りついた。
あっ、壁から銃が出てくるんだけど!
「こ、これがサバゲー」
※たこやき『アメリカだから実銃だと思うなあ。配信者の力が実銃にも通用するか分からないから気をつけて』
「はーい」
後ろの三人はかなり腰が引けている。
なるほど、銃は怖い……!
現地の人たちは詳しいんだなあ。
私が露骨によそ見をしていたら、デーモンたちは銃の装備が終わったみたい。
みんな一斉にバババババ、タタタタタ、と射撃してくる。
「あひー、なんかマシンガンみたいなやつなんだけど!」
「アサルトライフルだ!」
「我輩の肉体も銃には分が悪い」
「リーダー、隠れて、隠れて」
三人が柱の陰にいるので、私もちょこちょこ移動して柱の陰に向かった。
ついでに、飛んでくる銃弾をゴボウとバーチャルゴボウでパコンパコン打ち返しておく。
『ウグワーッ!?』『跳弾してきたらピンクに光って……ウグワーッ!?』『気をつけろ! 弾かれた弾丸はあいつのものになってる!』『ぼ、防弾ベストが効かねえ! ウグワーッ!!』『マジかあの女!! 秒間十発のフルオート射撃をまとめて弾きやがった!』『ば、化け物……』
ひどい言われようだ!
※たこやき『ゴボウが通じちゃった』もんじゃ『はづきっちが意図を持って弾いたものは彼女の武器になるようだな』『もう戦術兵器じゃん』いももち『いや、女神なのだ』『そうか! 女神なら仕方ない』
コメント欄が納得し始めている。
えーと、これは銃弾が降ってる中でもいけるっぽい?
私は柱からひょこっと出てきて、ゴボウで弾をぺちぺち防ぎながら小走りで走っていった。
『ウワーッ!! 銃撃の中を信じられない速度で小走りしてくる!』『止まらねえ! むしろ撃ってる側が動きを制限されて近寄られ……』
「あちょっ」
ぺちっ。
『ウグワーッ!?』『制圧射撃のど真ん中をぶち破られたぞ!!』『何が制圧射撃だよ! 制圧できてねえじゃん!!』『正面突破とかありえねえ!!』
なんかデーモンの人たちが、ゆっくり逃げながら射撃してくる。
私は弾丸をぺちぺちしながらまた近づいて行って、ノロノロ移動をしている人たちをぺちぺち叩いていった。
『ウグワーッ!!』『染み付いた癖がウグワーッ!!』『くそっ、これでも喰らえ!!』
なんか丸いものが投げつけられてきた。
私はこれを、ゴボウでぺちんと打ち返す。
すると丸いものがピンクに光り……。
『手榴弾が戻ってきた!!』『やべえ!』
逃げ惑うデーモンたちの真ん中に落っこちた丸いのが、すぽーんっとカワイイ音を立てて爆発した。
ピンクの光と煙が溢れて、巻き込まれたデーモンたちが『ウグワーッ!?』と粉砕されていく。
静かになってしまった。
「みんなー、後は大丈夫だから行こう行こう」
「お、おう……! 今日日、ヒーローだって銃弾は回避するぞ……!!」
「銃信仰を真っ向からへし折ってきたわねリーダー」
「美も極めれば銃に勝るのか! おみそれした!」
三人がちょこちょこ近づいてくる。
さあ、ここからは特別なエレベーターだ。
ええと、なんかこの上の階が本来は会社の役員の人たち専用のフロアで、この専用エレベーターが必要なのだ。
カードキーとか顔認証みたいなのがある。
『顔認証を行います』
「あ、はい。私です」
「またリーダーが無防備に施設を利用してるぞ!」
カイワレは何気に心配性だなあ。
『登録なし』
※おこのみ『まさかこいつ、ご存知ないのか』『ご存知ないのですか!』『ご存知ないのですか!』『ご存知ないのですか!』
うわーっ、例のセリフがコメント欄をガーッと流れた!
そうすると、顔認証がピカピカ光った。
『ピガーッ!? か、彼女こそアメリカを救うために降り立った新世紀ヒロイン、きら星はづき……! 認証しました! お通りください!』
※もんじゃ『システムをジャックした!? いや、同接の力がシステムの認識を改変させたのか!?』
「なんか通れるみたいなんで行こう行こう」
私は焦っていた。
もう40分が経過しているからだ。
このままでは、お前らの睡眠時間が危ない。
三人を専用エレベーターに詰め込み、ついに最上階へ到着。
そこは全面ガラス張りで、サンフランシスコを見渡せるようになっていた。
中心に机があって、腰掛けている人がいる。
翼が生えていて、スーツの上からでも分かるムキムキだ。
『馬鹿な。誰にも攻略できなかった我がダークネスビルがたった45分で……』
「もう45分経ったんです!? あひー! やばい! みんな、スパチャ読みはホテルに帰ったらやるのでちゃっちゃと片付けますね!」
※『ボスのセリフをキャンセル!』『RTAだなあ……』
『貴様、この私を愚弄……』
「あちょー!」
私がムキムキの人に突撃していったので、残る三人も慌てて突撃してきた。
『は、話を』
「あちょっ」
『ウグワーッ!!』
ゴボウでペチペチする。
横からカイワレがキックして、ビクトリアがバールで叩いて、インフェルノがムチの柄で殴った。
『レ、レディから預かっ、我が力っ、こんなバカなっ、デタラメっ、ウグワワーッ!!』
粉砕されてしまった。
※『全てのセリフとイベントを飛ばした感があったな』『口上中に総攻撃すると動く前に倒せます』『こんな身も蓋もない決着ありかw』『あっ、ダンジョン化してたビルが普通のビルに戻っていく……』『本当にボスモンスターだったんだなあれ』『46分で攻略してしまった』『ボス1分は無情過ぎるw』
ラストバスターズの三人は、肩で息をしている。
だけど、顔を見合わせてだんだん笑顔になってきた。
「やった……! 僕たち、やったんだな!!」
「わ、私、ダンジョン初めてクリアしたかも!」
「うむ、我輩の筋肉が躍動し喜んでいる」
インフェルノ自分の話しかしないね!
こうして私たちは勝利し、色欲のマリリーヌの支配する地域がぐーっと縮小した。
私はエレベーターに乗り込みながら、お前らにオヤスミの挨拶をするのだった。
「またねお前ら! おつきらー! いい夢見てね、寝る前にちゃんと歯磨きしてね。それじゃあスパチャ読みはお前ら起きる辺りで……」
「リーダー、攻略を喜ぶ気配すらない……!」
「プロね……!」
「他人のことをああも考えられるとは……」
なんか三人からキラキラした眼差しを感じるんだけど。
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