第49話 バラエティ?配信伝説
地上波だぞ!
テレビ局はろくでもないぞ!!
と兄に脅されて、戦々恐々としていた私。
実際にスタッフの人たちに挨拶したら、物凄く腰が低い人たちで、それどころかサインを求められたりした。
「わ、私のサイン!?」
「実は娘がファンで……。私もはづきさんの動画見てたらすっかりファンになって」
私のお父さんよりも年上っぽい人が!
あひー。
テンパりながらも、実はこの日のために特訓していたきら星はづきサインをした。
あの練習が生きるとは!
ちなみに今回のスタッフの人たちは、ネット放送班なんだそうだ。
地上波専門の人は年をとって次々引退してきてて、今後はネットで放送する方にも力を入れていくらしい。
「新しい世界に食い込むぞってなったら、我々は挑戦者ですからね。ノウハウもないのにふんぞり返る挑戦者なんて、見られたものじゃないでしょう。どうも、プロデューサーのナニガシです」
「あ、は、はい。きら星はづきです」
「もちろん! 存じ上げています!」
何か名乗られたと思うけど、緊張で忘れてしまった。
とりあえず、ずっと後ろで兄が般若のような形相をしていたのだけ覚えている。
なんでそんなにテレビが嫌いなのかなあ!
こうしてリハーサルを繰り返して、本番になった。
ダンジョンは今日で踏破予定。
そこまで大きくはないから、万一ダンジョンハザードになっても小規模で収まりそうだし。
小規模っていうのは、町内くらいの規模っていうことね。
「じゃ、じゃあ、お願いします!」
「よろしくお願いしますー!」
「お二人共、今日は本当にありがとうございます! よろしくお願いします」
私がめちゃくりゃ力んで挨拶して、ピョンパルさんは自然体で、アイドル声優の野中さとなさんは全身から感謝がにじみ出るような会釈だった。
はー、かわいい、推せる……。
「私、はづきさんとピョンパルさんが推しなんで、本当にお二人と番組作れるのが嬉しくて……」
「いやいやー! パルも光栄ピョンよー!」
「わ、わたわた、私もです!」
ということで、すっかり親しくなった私たち三人。
いよいよ本番に望むのだ。
ダンジョン自体は、奥さんの浮気が発覚して離婚沙汰になり、奥さんが親権を勝ち取ったら旦那さんが逆上して奥さんと子どもを殺して自殺した物件。
すっごくドロドロしてるんですけど……!!
当然みたいに、奥さんと旦那さんは怨霊になり、ダンジョン化したことでデーモンに進化し、今もダンジョン内で争い続けているのだとか。
「ひえー、こんなドロドロなダンジョンよく見つけてきたピョンねえ!」
「テレビ局の方でそういう伝手があったそうですよ」
「やっぱりテレビは凄いピョンな! それじゃあ行ってみるピョン!」
ピョンパルさんが先頭を切った。
後から、恐る恐る野中さん。
私はボーッとダンジョンになった家を見上げていたら、後ろからスタッフに「はづきさん! はづきさん! カメラ回ってます!」と声を掛けられた。
「あ、は、はい!」
慌てて動く私。
なお、今回の配信はもちろん生。
そうじゃないと、冒険配信者は力を発揮できないし。
テレビ局のチャンネルに用意されたコメント欄が、今回の同接になる。
なんだかめちゃくちゃに同接が増えてるみたいだ。
「プロデューサー、今回の同接ヤバいですよ。普段の二十倍以上です……!!」
「一流の冒険配信者と、今が旬な配信者を揃えた甲斐があった……!」
今回のこの配信は、冒険配信をよく知らずに暮らしている人たちに、冒険配信に興味を持ってもらうために行われるものだ。
実際、冒険配信が行われないとダンジョンハザードが止められないので、物凄く不味いことになる。
「他にも、男性アイドルの人が男性配信者に案内してもらう番組も準備してあるんですよ」
野中さんに聞いて、ほへーと感心する私だった。
みんな色々考えてるんだなあ。
確かにダンジョンハザードが起きたら、普通に生活するどころじゃなくなるもんね。
みんなが冒険配信を応援しないと、自分じゃなくてもどこかの誰かが死ぬかも知れない。
大変だあ。
「おっ、モンスターが出たピョンねー。さとなちゃんは下がってるピョン! 行くピョンよはづきちゃん!」
ピョンパルさん、プライベートでは私をさん付けで呼んで、配信ではちゃん付けにすることにしたそうだ。
キャラ付けだ!
それくらい、仕事とプライベートで区切りを付けてるんだなあ。
プロだ。
「あ、は、はい。じゃあこのゴボウで……」
もたもたーっと取り出すゴボウ。
その間にピョンパルさんは、専用のグローブとブーツに仕込まれた刃で、襲ってくるモンスターを次々に倒している。
今回の相手は、ラットマンというネズミ人間。
凄くすばしっこくて、鋭い前歯や手にしたナイフで襲いかかってくる。
だけど相手はウサギっぽいピョンパルさんなのだ!
壁を蹴って飛び上がったり、相手の勢いを利用して頭を踏みつけたり。
アクロバティックアクション!
「きゃあっ!」
野中さんのすぐ近くまでラットマンが!
そこに、もたもた引き抜いた私のゴボウがちょうどあった。
※『ジャストタイミングはづきっち!!』『俺たちの姫は持ってる!!』
テレビ局のチャンネルに押しかけた、うちのリスナーっぽい人たちが大歓声をあげた。
加速するコメント!
輝くゴボウ!
ゴボウの発する光に触れただけで、ラットマンは『ウグワーッ!!』と粉々に分解されてしまった。
そしてゴボウを振った勢いでちょっとよろける私。
よろけた先に、不意打ちしようと頭上から降りてくるラットマンがいた。
ちょうどいい感じでゴボウの輝きが迎撃してしまう。
『ウグワーッ!?』
「あひー! の、野中さんしゃがんでー!」
「は、は、はい!!」
彼女が慌ててしゃがみ、頭を抱えた。
私はしゃがんだ彼女を掴まり台にして体勢を整える。
ふう、落ち着いた……。
※『アイドル声優に寄りかかって立ち上がったぞ!』『すげえ、有名人の権威をものともしねえ!』『というかよくあの不意打ちに対抗できたな!?』『はづきっちならいつものことだからな……』
「ひええええ、ダンジョンって恐ろしいところなんですね……! そこで命を掛けて配信してらっしゃる皆さんは、やっぱり凄いです!」
「あ、はい! なんかいっつもこんな感じで……。でも今回はちょっと楽で……」
「これでですか!? はわー、私たちの安全は、皆さんに支えられているんですねえ……」
野中さん、ここで脚本通りの発言をした!
なるほどー。
そういう意図の番組なんだ。
ちなみに野中さんには、脱出機能だけを持った簡易Aフォンが手渡されている。
命だけは助かるわけだ。
「ごめーん! こいつらすっごくすばしっこいピョン! それにダンジョンが狭いから、あいつらあちこち駆け回って止めきれなかったピョン! はづきちゃんサンキュー!」
「い、いえいえー!」
こうして私たちはダンジョンの奥へと向かうのだ。
広さは、3LDKの一軒家をそのまま拡張したような感じ。
小さい体育館くらいの広さはあるかもだけど、ダンジョンとしては確かに狭い。
特徴的なのは……。
『あんたがあんたがあんたが悪いのよ!! 寂しくさせたあんたが悪いのよあたしより稼ぎも少ないし甲斐性が無いんだから黙って言うこと聞け!!』
『この売女売女売女!! 俺も子どもも裏切って親権まで持って男のところに行くのか許せねえこのクソ女!!』
「あひー!!」
「生々しい戦いの声が聞こえてくるピョンねー。あまりに聞き苦しいのでさっさと終わらせるピョン!」
「そ、そうですね!」
このデーモンたちの声、テレビ局配信に耐えられないひどさでしょ……!
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