第48話 アイドル声優とご一緒伝説
ピョンパルさんとこそっと現場を確認に行く。
おー、進入禁止テープが貼られてる!
ロケのために、ダンジョンを保全してるみたい。
ちなみに昔テレビ局は、ダンジョン配信を地上波放送しようとして場所を確保して、ドタキャンして小規模なダンジョンハザードを起こしたりしてる。
当時は国から物凄いペナルティが来たらしくて、その番組プロデューサーはその後どこでも見かけることがなくなったとか。
ひええ、芸能界の闇~。
「はづきさん、何を百面相してるの?」
「なんか頭の中でぐるぐると」
「あー、分かる分かるー。基本、パルたち配信者って根が陰キャだから一人反省会やるピョンなー……」
「ピョンパルさんも……!」
なんだかシンパシーを感じてしまう。
お互いで分かるーって話をしていたら、すぐ横で現場を覗き込んでいる人がいた。
なんか、チラチラ私たちを見てくる。
サングラスにマスクをした女性で、いかにも怪しい……。
「あの、もしかして……」
「はっ」
「しまった、身バレピョン……!」
「きら星はづきちゃんと、ピョンパルちゃん……!?」
「うわーっお、終わりだー」
「な、なんのことピョン!? パルは何もわからないピョンなー」
ピョンパルさん、口調口調!!
いや、私もいきなり絶望しちゃったけど!!
「やっぱり! 私、お二人の配信の大ファンで……! いっつも仕事終わりに見てるんです!」
「あの、その、わ、私たちは違くてー」
「ピョン!? そ、その声……。もしやアイドル声優の……」
「あ、はい!」
彼女はサングラスを外し、マスクを外してみせた。
……誰だ……!?
「はづきさんが分かってないピョン」
「すみません、三次元の人の顔の区別あんまりつかなくて……」
「いいんです、私も顔じゃなくて声の仕事が多いですから! 私、野中さとなです!」
その名前を見た瞬間、私の脳内を色々なアニメーションのエンディング曲が流れた。
同時にキャストの名前も流れていく。
その中に必ず、重要な役割で野中さとな、の名前があった。
「あー! あーあーあー!」
「はづきさんがやっと理解したピョン」
「エンディングのキャストで名前流れているの見ました。……ということは、もしかして芸能人って……」
「はい、私です!」
「おー!」
「おー!」
盛り上がる私たち。
配信者は基本的にみんなオタクなので、アニメとかに詳しい。
野中さとなさんは結構有名なアイドル声優で、毎期メインキャラクターの役でアニメに出ている人なのだ。
私のやってたゲームにも出てた……。
そんな凄い人が……私の配信を……!?
なんか心臓がバクバクしてきたぞ……?
「いやー、いけ好かない芸能人じゃなくて、さとなちゃんで良かったー」
ピョンパルさんは心底安堵したようだ。
三人でお喋りをし、ダンジョンでのキャリーは任せてねという話になり……なんとザッコで繋がってしまった。
有名声優と私が!!
これはとんでもないことですよ。
兄に自慢したら、『なにっ!!』とだけ返事があった。
しばらく反応がなかったので、これはショックを受けてるな。
羨ましがってるかもしれない……。
今度サインもらっておこう。
こうして、テンションが上がる要素があったため、私とピョンパルさんは、そして野中さんはザッコで頻繁にお喋りし、打ち合わせにもどんどん参加した。
表向きは企画の話ができないので、配信ではかなりのポーカーフェイスで隠してたんだけど……。
※『はづきっち何か隠しているな……?』
「な、なんで!? 何も隠してないよ……!」
※『分かりやすい』『案件だな』『秘密で進めてるんだろう。察さないでおこう』『俺たちの空気を読む力を見せる時だ!』
いつものメンツは分かってるんだけど。
流石に登録者が60万人を超えると、私も制御しきれなくなるのだ。
SNSで、『はづきっち、また大型コラボ案件が!?』『シークレット企画進行中か……』『楽しみ!』『またすっごいことしてくれるかも!』
そんなのがちょこちょこ見られるようになった。
うおおお、胃が……!
期待しないでー!
それに今回の案件は、ある意味ライブダンジョンさんとのコラボでもある。
学校内にいる先輩の卯月さんにも相談できないわけで……。
黙秘する日々は苦しい……!
ずっとぼっちだった時は、沈黙が日常だったので全然耐えられたんだけど。
今は配信でめちゃくちゃ喋ってるし、それを通じて物凄く沢山の人と繋がったもんね。
私の人間強度が落ちているのかも知れない……。
あ、なんか誰とも喋らなくても平気な強度はよく考えたら全然いらない!
そもそもそれを返上するために配信始めたんだった。
では、万々歳では……!?
「まーたはづきさんが百面相してる」
「今はお仕事仲間ですけど、お友達みたいなものなんですから。色々話してくれていいんですよ!」
ピョンパルさん、野中さん……!
あったけえなあ!
思っていた以上にみんな優しいのである。
これ、兄が言うには。
『父や母の時代にはもっと偏見があっただろうな。だが俺たちの世代は子どもの頃から、そういうエンターテイメントを摂取して育ってきている。偏見を持っている者の方がむしろ少ないだろう』
ということらしい。
そ、そうだったのかー!
そう言えば、学校の陽キャたちも普通に冒険配信見てるもんね。
案外みんな、分かり合えるのかもしれない。
分かり合える……のか……?
いや、まだ陽キャは怖いので、アプローチはもっと自信をつけてからにしよう……。
そう決める私なのだった。
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