第50話 教育に悪い怨霊伝説

『ああもう最悪! 最悪最悪最悪! なんであんたみたいなのと結婚したの!!』


『なんだと!? 不倫したのはお前だろうが! 親権まで取りやがってこのクソ女!』


『なんですって!! ムキー!!』


『この野郎!! モガー!!』


 こ れ は ひ ど い


 私の隣で、野中さとなさんも絶句していた。


「これは……この配信、教育に悪いですね……!」


「ですよね……。声にピー音かけられますか?」


「あ、はい。スタッフさんにお願いしてみます。あ、もうかけてる? かけてるそうです!」


 有能~!!


「とにかく聞くに堪えないピョン! さっさと粉砕するピョン!」


 堂々と入っていくピョンパルさん!

 すると、喧嘩していた夫婦の怨霊が振り返った。


『誰! あの女!』


『知らん! 俺は何も知らんぞ!! えっ!? ライブダンジョンのピョンパルちゃん……!?』


『きいーっ! 泥棒猫!』


「ウサギだピョン!?」


 いけない!

 変な化学反応が起き始めてる!


「こ、ここは私が……」


 いやだなー、修羅場に突っ込みたくないなー、と思いながら出ていく私。

 野中さんは私を送り出しつつ……そーっと部屋の隅に移動していった。


 そしてそこから、


「あひー! こ、このきら星はづきが相手になってやりますー!」


「うわーっ、部屋の隅から私の声がした!!」


 野中さんの声真似!?

 さ、さすが声優……。

 めちゃくちゃ特徴捉えてた。


※『絶対はづきっちのリスナーだろ』『すげえ精度だった』『一瞬はづきっちが分身したかと思ったわ』『いつ分身してもおかしくないけどな』


 怨霊たちも、左右から似た感じの声がしたのでビクッとした。

 ちゃ、チャーンス!!


「あちょーっ! あっ」


 私は駆け出そうとして、ベッドにつまずいて転んだ。

 旦那さんの怨霊が振り返り、デーモン化して野中さんの方に向かおうとしていたんだけど……。


 私の手からゴボウがすっぽ抜けた!

 光り輝くゴボウが空を裂き、旦那さんのお尻に突き刺さる!


『ウグワーッ!? な、な、なんじゃこりゃあああああああああっ!?』


『ひぃ! お尻からゴボウが!!』


 震え上がる奥さんの後ろで、ピョンパルさんが跳躍する。


「首狩り兎の技、お見せするピョン!」


 スパパパパッと音がして、奥さんがゆで卵がマシンで多段スライスされたみたいになった。


『『ウグワーッ!!』』


 二人の怨霊が消滅する。

 その途端に、ダンジョンは静かになった。


 どうやらこの二人がボスモンスターだったみたい。


「ふいーっ、怖かったーっ」


 野中さんが部屋の隅から立ち上がった。


「び、び、び、びっくりしました! いきなり動画で聞く私の声がしたから……」


「えへへ、実は練習してたんです。ピョンパルさんは声質が違うから、あんまり上手くできないんですけど……」


「えっ、パルのマネもできるピョン!? やってやって!!」


「んっ、ゴホン! う、うわーっ、お前らやめるピョン~ッ!!」


「あっはっはっはっは! かなり特徴捉えてるピョン! ……それ、ライブダンジョンのイベントでパルがはめられたり、月の民(ピョンパルのリスナー)からいじられてる時の発言ピョン……?」


「ええ、はい……ピョン虐です……」


 うーん、さすが声優さん……。

 私はすっかり感心してしまった。


「そう言えば子どもの怨霊はいませんでしたねえ……」


「なんかこういうのは想像したくないピョンねえ……」


 深く考えると後味が悪いダンジョンだった!

 なので私は考えるのをやめた!


 ダンジョンから出てくると、外で機材を広げていたスタッフたちが、やんややんやと大喝采で迎えてくれた。


「素晴らしい! 素晴らしい配信でした! 怨霊が思った以上に生々しくて教育に悪かったですけど……そこはバッチリ音声を隠しておきましたから!」


 プロデューサー、仕事ができる。

 そして兄は、何か深く考え込んでいる目で野中さんを見ている。


 もしかして……。

 私の声真似できる彼女に何か仕事を持ちかけようとしてる……?


 まさかね……。


「いやー、お疲れ様でしたピョン! じゃあパルは次の仕事が待ってるので、これで失礼しますピョン!」


 ピョンパルさんがバーチャライズを解き、道路に向かっていく。

 そこには既に、ライブダンジョンの車がつけられていた。

 

 彼女は私に手を振りながら、


「はづきさん! 今度は別のイベントでコラボしましょう! それじゃあ皆さん、お疲れ様でした! 今日はありがとうございましたー!」


 去って行ってしまった。

 大人の女性って感じだなあ……。

 実は今まで会った人の中で一番常識人かも知れない……。


 こうして、私の大イベントである地上波デビューは終わった。

 テレビ局さんの配信は、結構な再生数を記録するようになったらしい。


 好評だったということで、この後も冒険配信者とコラボした番組が、ちょこちょこ生まれるようになった。

 それから……。


 私のツブヤキッターアカウントを、里中さんとピョンパルさんがフォローしてくれた!

 とんでもないことだ……。


 いや、気づいたら私のフォロワーも凄い増えてるんだけど……。

 何、この48万フォロワーって……。


 しばらく見てなかったら異次元の数字になってる……。


『こんにちは、はづきさん。例の件がまとまりました』


「あれ? 知らない人からザッコが来てる……。KAZAHANA……? 風花雷火委員長……!?」


『やりますよ、はづきさん争奪、ダンジョン早押しクイズ大会!! 企画書は通りました! これから調整を掛けていきますから乞うご期待です!』


「う、うわーっ!! あの人本気だったのかーっ!!」


 私にはまだまだ安寧の時は訪れないみたいなのだった!


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