受けてる私の拡大編

第51話 体育祭伝説

 6月になった。

 三ヶ月目にして、配信生活はなかなか……というか異常なほどに充実している私。

 だがリアルではスッカスカな人生を送っていた!


 友達がいないからね!


 今日も私は、教室の真ん中にほど近い席で気配を消していた。

 隅ではない。


 マンガやアニメみたいに陰キャがそんなに都合よく、教室の隅の席につけるわけがないのだ!


 周囲で陽のオーラを放つ女子たちがきゃいきゃいと騒いでいる。

 以前は恐ろしい場所に放り込まれた、と戦々恐々としていた私だけど、今は違う。


 配信者たちのよくわからない物凄いエネルギーを浴び続けているので、陽キャオーラでは動じないくらいハートが強くなったのだ。


「体育祭がさ……」


 ハッ!

 も、もうすぐ体育祭だった……。


 この高校では6月後半に体育祭があり、終わると期末テスト、そして夏休みになる。

 そうか、体育祭か……。


 小中学時代、私は当たり前のように運動ができなかったので、運動会は地獄の象徴だったし、体育の授業を親の仇のように憎んでいた。

 親は健在だけど。

 ため息が出てくるな……。


 雨が降って中止になれば……いやいや、その場合は屋内競技を優先して行い、日をずらして外の競技をやるので、無駄に長く体育祭が行われることになってしまう!

 地獄だ。


 さっさと終われ!

 さっさとー!


 そう願っていたら……。


「私たちにとって初めての体育祭は、この日です! 全員がなにかの競技に参加する必要がありますから、好きな競技を聞いていきますね」


 学級委員長がそんな事を言った。

 どこかの風花雷火さんと違って、ごく真面目な普通の委員長だ。


 な、なにぃーっ! 全員参加ーっ!?

 いや、知ってたけど。

 玉入れとか大玉転がしとか無いんだろうなあ……。


 無かった。


 短距離走……は圧倒的ビリになって死ぬ。

 障害物競争……はハードルに引っかかって死ぬ。

 リレー……は迷惑をかけてしまって死ぬ。


 幅跳び……は果てしなくゼロに近い記録を出して死ぬ。

 高跳びはバーに突撃して死ぬ。


 球技はチームワークができなくて死ぬ。

 剣道、フェンシングも選べるけど、自己流でゴボウを振り回しているだけの女に出番はない……。


 うががががが、体育祭は死に満ちている!

 どれをやっても社会的な死!


 まあ、もう半分死んでいるような友達ゼロの私だが……。


 そこで私はハッとした。

 一つだけ、遅くてもいい競技があるじゃないか!

 嫌う人が多く、一人でやれる競技……。


 持久走だ。

 周囲で他の競技が行われる中、ひたすら走り続ける異色の競技。

 まあ、中学までの体力の無い私なら、途中でバテてぶっ倒れるだろう。


 万一走りきれても、ビリになった私をみんなが生暖かい声援で後押しする展開になる。

 迷惑をかけて冷たい視線を向けられるよりは、生暖かい声援のほうがずっとましである。


 私は配信者生活で学んだ!


 ということで。

 練習などが始まる。


 そして私は気づいた。


 ……持久走、全然疲れなくない……?

 1500m走なんだけど、私は普通に流して最初からラストまで走り切ってしまえたのだ。


「おかしい……。体力がついた……? まさか、配信者生活で? ……ありうる」


 陸上部の女子たちでも汗ばみ、肩で息をしてたりする。

 私は汗一つかかず、ぼんやりと立っているのだ。


 一般女子たちが気持ち悪いものを見るような目を向けてきた。

 や、やめてえ。


 しかし、思わぬ特技が身についていたなあ。

 体力が無限に増えてた。

 この様子を見て、体育教師の女ゴリラと呼ばれている人が駆け寄ってきた。


「凄いじゃないか!! フォームがひどいのに、速度はそこそこ、それを一切落とさずに走り切るなんて……! どうだ、陸上に青春を賭けてみないか!? お前ならインターハイに出られる! 多分!」


「あひー」


 恐ろしいプレッシャーに私は思わず悲鳴をあげた。

 これを聞いて、陸上女子たちがハッと振り返る。


「今、はづきっちの悲鳴が聞こえたような……」


「凄く馴染んだ悲鳴が……」


 いかーん!!

 うちの高校のみんな、私のリスナーになってるの忘れてた!!

 ある意味絶対的なアウェイであり、絶対的なホームグラウンドでもある。


 周囲には常に身バレの危険が潜んでいるのだ……!


 競技で結果を出すと、注目されてしまう。

 だからここはほどほどの力で挑み、目立たないようにするべきなのだが……。

 私は今までの運動会において、常に全力で挑んで惨憺たる結果を残し続けてきたのだ!


 手の抜き方を知らない。

 配信も気付くといつも全力だし。


 そういうことで、体育祭本番も同じように1500mを走った。

 環境は炎天下。

 体力を削られる……!


 だが、まあダンジョン配信に比べるとそよ風みたいなものなので、私はマイペースで走る。


「はぁっはぁっはぁっ……!? ふっ、ふっ、ふっ……!!」


 なんか隣を走ってる陸上部の人がペースを上げた。

 なんでだろう。

 前には彼女しかいないのに、焦る必要は無いと思うんだが。


 私はマイペースで追いかける。

 すると、陸上部の人が体力を使いすぎて遅くなってきた。


 また横に並ぶ。

 彼女は横目で私を見て、なんだか愕然としたようだ。

 なんで!?


 必死に何度も私を抜こうとして、勝手に体力を使ってペースが乱れ、ついに同時のゴールイン。


 女ゴリラが走ってきた。


「うおおお、やはり才能がある! どうだ、一緒に陸上部に……!」


「む、胸の差で負けた……。胸の差で……!!」


 陸上部女子が自分の胸をぺしぺし叩きながら崩れ落ちている。


 な、何が……?


「はい、じゃあ第四走一位はあなたね」


 私はフラッグを手渡された。

 一位!?

 私が!?


 なんで!?

 あ、そう言えば前に人がいなかった……。


「陸上に! 陸上に!」


「や、やりません!」 


 こ、これは、配信の雑談枠でネタになるけど、うちの高校の生徒の大半がリスナーである以上身バレするからネタにできないやつ!!

 やっぱり体育祭は地獄だ……!


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