第52話 ゴボウ料理と今後の予定伝説

※『なんかパチパチ言う音がするんだけど』『あれっ。台所?』『はづきっちがエプロンしてる』


「お前らこんきらー。今日はですねー。今後の予定について相談しながらゴボウ料理を作っていこうと思います」


※『はづきっち料理できんの!?』『生活能力皆無系の冒険配信者じゃなかったんだ……!?』


「おい失礼だな!!」


 私がお前らにツッコミを入れるのを、後ろから母がニコニコしながら見守っている。

 バーチャライズされてない彼女は、仮のアバターみたいなもので変換されて映っている。

 エメラクさんが書いてくれた、はづきママのアバターだ。


※『後ろのママみあふれる美女は一体……?』


「うちのお母さんです」


※『はづきママ!!』『ひぇー慈母の微笑み!』


「おいお前ら落ち着け」


 騒ぎ出すリスナーを鎮め、私は料理に取り掛かった。

 ゴボウの皮を剥き、スライスし、まずはごぼうチップスにしていく。


※『めっちゃ手際良くて草』『自分のキャラを守れ』


「うるさいよ!? 配信でゴボウをたくさん使うでしょー? だからお母さんに教えてもらって、ゴボウ料理のレパートリー増やしたんだよね。揚げ物、煮物、焼き物、サラダや炊き込みご飯とかできる」


※『キュンときた』『冒険配信者界隈で一番ゴボウを料理できる女……』


「はづきちゃんは人気ねえ」


 母がニコニコしながら加わってきた。

 チャット欄がうおわーっと盛り上がる。


※『ママみあふれる優しい声!』『ママッ! ママーッ!!』『待て。はづきっちのママということは斑鳩のママでもある……』『そう聞くと恐れ多くなってくるな不思議』


 好き勝手言ってる。

 母にごぼうサラダを作ってもらいつつ、私はチップスの揚がり加減を確認する。


「今回はねえ、お料理しながら今後についてのお話なんだけど」


※『ふんふん』『どうした、改まって』


「期末テストが近くてね……」


※『あっ』『察し』『勉学を優先しろ』


「うん、赤点は避けたいので、テスト勉強のためにちょっと配信頻度が……。今月だけ勘弁して欲しいお前ら……。塾行ってないので独力なのだ……!」


※『(´;ω;`)ウッ…ぼっち……』『先輩から教わるしかねえ』『伝手を頼るんだ』


 その手があったか……!

 と思ったら、コメント欄に見知った人が現れた。


※カンナ『なるほど話は聞かせてもらった!!』『カンナちゃんだ!』『現役女子大生配信者のカンナちゃんだ!』


「カンナちゃん!?」


※カンナ『期末テスト……そこは既に私が通過した場所……。あとミナに桜もその辺はそつなくやってるから、三人で交代交代で教えに行ってあげる』


「ほ、ほ、本当ですか!? ありがたい……ありがてえ……」


※『トライシグナルとの友情、あったけえなあ……』『満開のユリの花が咲きました』


「あ、ゴボウ揚がってる。ちょっと待ってね」


※『いきなり料理人の目になった』『意外過ぎる特技……』


「お弁当の一部も私が作ってるし。料理は孤独にやれるから向いてる気がする……」


※『こんなところでぼっち特性が発揮されるとは』『仕事になるとチームワークが必要になるぞ』


「ひぇっ、料理を仕事にするのやめます」


※『草』『草』『草』


 おいお前らー!?


 私が談笑している間に、横で母がトントンと包丁を動かしている。

 ゴボウと人参の千切りをサッと茹でて、水に晒してキュウリの千切りを加えて醤油とマヨネーズで和えてごまを散らし……。


「こっちはできたわよー」


「はあい」


※『親子の会話和む』『はづきっちも人の子なんだなって』


「ちゃんと人から産まれてます!」


「はづきの母です」


※『はづきっちのママ肝が据わってる』『デビュー三ヶ月目で母親が登場する配信者初めてだな……』


「皆さんはいつも、うちのはづきとどういう話をされているんですか? 私、聞いてみたいなあ」


※『アッハイ』『健全な……至って健全な……』おこのみ『ともにいい関係を築かせてもらっております』


 おこのみ!!

 猫を被ったなこいつ!


 うちのリスナーが、みんな大人しく常識的になってしまった。

 恐るべし、母の威力。


※カンナ『はづきさんのお母様、今度お伺いさせていただきます。早ければ明日にでも……』


「あらまあカンナさん! お話は聞いてます。ぜひぜひいらして!」


※『コメント欄できら星家とトライシグナルの関係が出来上がっていく……』『このライブ感、たまんねえな』


 私が喋るとツッコミやいじりが殺到し、母が喋るとみんな借りてきた猫みたいになる。

 これは……人間力の違いとでも言うのか……!


 お前らの意外な一面を見てしまった。


「そう言えば、前に兄から、私の料理を抽選で何名に当たるようにしないかっていう提案があったんだけど」


※『ヌッ!!』『なにっ!!』『ガタッ!!』


「食品をそうやるのはちょっと怖いので、その、なんか、今度、とんでもないことに……あの、わ、私とコンセプト系のカフェレストランがコラボして……」


※『カフェとコラボ!?』『デカい話になってきたぞ……!!』


「ゴボウフェアがやってもらえることに」


※『うおおおおおおおおお』『ゴボウフェアうおおおおおおお』


「大変恐れ多いんですけど、わ、私が料理のプロデュースをすることに……」


※『食べ尽くします』『絶対通う!』『お通じよくなりそう』


 兄が持ってきた、超大型コラボ企画だ。

 私プロデュースのゴボウ料理フェアは8月から。


 思ったよりみんなに喜んでもらえて、ニヤニヤしてしまう私なのだった。


※『はづきっちがニヤニヤしとる』『かわいい』


 なんだかんだ、お前らはあったかいなあ。

 期末テストが終わったら、お前らのためにもまたダンジョン配信していくぞ!


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