第90話 訪問、きら星はづきの学校伝説

「ねえ! ハヅキの学校が見たいわ!!」


 翌日。

 ホテルから、私の最寄りの駅前までやって来たメイユーがとんでもないことを言い出した。


「ヒェッ、な、なんでですかー」


 駅に呼び出され、朝食の直後でまったりしていた私の頭が一気に覚醒してしまった。


「あの学校、ハヅキが世に知られることになった大きなきっかけでしょう? あそこから世界の配信者は貴女に注目したのよ。そのモニュメントとなる場所を見ておきたいじゃない」


「いやー、ふ、普通の高校なんで面白くないですよ……」


「面白いかどうかは私が決めるわ! あ、ライカはもうすぐ来るから」


「お待たせしました」


「既にいた!!」


「わたくし、小心者なので基本的に時間の30分前には現地にいます。そこでコーヒーを飲んでました」


 駅ナカのコーヒーショップにいたのね委員長……。

 ということで、大物配信者二人を連れて、なぜかうちの高校を見せに行くことになってしまった。


 なんでだー。


 渋々案内を開始する私。

 メイユーは風花委員長との会話もそこそこに、街をきょろきょろ見回すので忙しいらしい。


「古いものがたくさん残っているのね。私のところはもう、新しいビルに建て替わっているわ。古いものがある場所は古いものしかない。だけど、ここは新しいものと古いものが混ざっている……。楽しいわねえ」


 中国の方だと、古いところから発生するダンジョンは妖怪みたいなのがたくさん出て、新しい場所から発生するダンジョンには人間が変じたモンスターが多く出るらしい。

 なので、どの地域で活動するかで配信スタイルが変わってくるんだって。


 もちろん、メイユーは都会派。

 ビルが変化するダンジョンを専門で対応している人だ。


「ハヅキは旧市街担当なんだとばかり思っていたわ。だってそういう配信ばかりなんだもの」


「うちから自転車で行ける範囲で活動してるので……」


 学校が我が家から徒歩圏内なので、通学定期券なんて持ってないのだ。

 貧乏性の私はダンジョン探索のために毎回電車を使うなんてできず、結果的に市内のダンジョンに行くだけになっている。


 すぐ帰れるし、門限もあるからこれでいいのだ……!


「日本はメイユーの言う通り、新しいものと古いものがごちゃごちゃに混ざっていますからね。全部スクラップアンドビルドできる国とはまた違った趣があるんです。散歩が楽しいですよ」


 委員長がなんか達観したことを言った。


「ワビサビね」


 メイユーもなんか分かった風なことを言ってる!


「あー、そ、そですね。そうですねー」


 私はなんか適当にもちゃもちゃ合わせつつ、もごもご言いつつ、二人を連れて坂道を登っていくのだった。


「ここ! ハヅキが自転車で下ってきて、デーモンをジェノサイドしたところよね!」


「表現~っ」


「はづきさんがツッコミに回るのは珍しいですねえ! これは愉快」


「愉快がらないでください!」


 業界の大物は変な人ばかりだ!

 あとに出てくる新人さんたちは大変だなあ……。

 しみじみ思いながら、高校に到着です。


 夏休みだと言うのに、生徒の声が聞こえる。


「今日は学校やってるんだ」


「休みです」


「え? だって声が……。ああ、ブカツ! ブカツね! アニメで見たわ」


 部活動って海外には無いらしい……!


「まあ、私は帰宅部なんですが……」


「奇遇ですね。わたくしもそうでしたよ」


「……でした……?」


「キャラ設定上は風紀委員会現役ですが」


 そんなやり取りをしつつ、入り口で守衛さんに挨拶する。

 人見知りだった私だけど、配信者生活で、ちゃんと人に挨拶したりできるようになったのだ!

 うーん、成長している。


 メイユーと委員長は私の友達ということにして、入校許可をもらった。


「ちゃんと学生証持ち歩いてて偉いですね」


「お父さんが身分証は持ち歩くべきだって言ってるので……!」


「いいお父さんじゃない。でも身バレには気をつけるのよ?」


 そんな会話をしつつ、学校内を練り歩き、私の教室まで案内した。

 特に目新しいものは無いと思うんですが……。

 こんなので観光になる……?


「新鮮……!! アニメで見ていた光景は、実際に歩いてみるとこうなっているのねえ! ちょっと感動だわ……」


 メイユーが目をうるませてる。

 受けてる受けてる!

 なぜだ、わからん……。


「懐かしいですねえ……。わたくしが通っていたころを思い出します」


 学生という設定の委員長が、ポロッとそういう発言を漏らした。

 そして三人で、私の教室からグラウンドを見下ろす。


「あれはクリケット部ですね」


 私が説明すると、メイユーが頷き、委員長が首を傾げた。


「クリケット部ね」


「クリケット部……!? 珍しい……。そう言えばクリケット部全国大会出場!という垂れ幕があったような」


「うちのクリケット部、強豪なんですよ……」


 しばらく、クリケット部の練習を見下ろした。

 それにしても、冷房が切られた校舎内は暑い。


 すぐに外に出て、近くの喫茶店で涼もうという話になった。

 校門から外に出ようとすると、なんか学校の写真を撮ってる人たちが守衛さんに注意されている。


「ああ、聖地だものね。その気持ち、よく分かるわ」


 メイユーが彼らを、なんだか生暖かい感じの目で見守っているのだった。


 何が聖地なのだ……?


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