第89話 ハッピーバースデーはづき伝説
終わった!
ダンジョンクリア!
ということで、私はいそいそと元のジャージに戻った。
コメント欄はがっかりするかと思ったら。
※『これはこれで』『実家に帰ってきたかのような安心感』『やっぱ芋ジャージよ』
好評なのだ!
※たこやき『通常衣装、スーパーモードの新衣装、ハイパーモードの水着衣装。はづきっちは衣装を変える度にパワーアップしていくな』『そんな効果が衣装に!?』『俺らが反応するだけではないか』
横ではメイユーもサイバーな装備を格納して、配信用の美人なお姉さん姿になっていた。
リアルの姿とそんなに変わらない気がする……!
髪の毛の裏側が蛍光グリーンなので、ここが明確に違う。
「お疲れ様、ハヅキ。貴女の強さを存分に見せてもらったわ。みんな、これがシン・シリーズを打ち倒す希望よ。さっきの裏切り者があれだけ強大な力を得ても、ハヅキは一蹴したわ。つまり、私たちは勝てる!」
メイユーの画面にワーッとコメントが流れてる。
中国はアワチューブじゃなく、バリバリ動画だもんね。
日本のネチョネチョ動画にインスパイヤされたやつ。
空港のダンジョン化が解けたのが分かったらしくて、あちこちの部屋に隠れてた人たちがワーッと溢れてきた。
またたくさんの人になる~。
彼らは私たちを見つけると、ありがとうありがとうとコールしてきた。
いえいえ、どういたしまして。
ちなみにもっと早くやれよとか、先回りして起こらないようにしろよとか悪態をつく人もいるけど、こういうのは袋叩きになるのだ。
なんか、配信者のモチベーションが社会の安全に密接に関わるから、ネガティブワードを叫ぶ人は袋叩きにしても良い法律があるとか……?
外に出た私たち。
既に兄が新しいタクシーを呼んでいた。
「メイユーの歓迎会、そして祝勝会だ。メインは誕生会だが」
「誕生会……? ハヅキの?」
メイユーがキョトンとしたのだった。
私の誕生会となると、形式張った懐石料理のお店……になるはずもなく。
本格的なハンバーガーを出す、バーガーショップの個室を借りきったのだ。
「じゃあ、はづきちゃんのお誕生日を祝しまして……かんぱーい!!」
受付さんが音頭を取って、手にしたジョッキビールを掲げる。
一人だけお酒飲んでる!
「かんぱーい!」
私も大ジョッキのコーラを掲げて、ジョッキ同士を打ち合わせた。
メイユーは烏龍茶。
兄はメロンソーダ。
「さっき食べたばかりじゃない? よく食べられるわね」
「で、でも三時間前くらいのことですし」
ダンジョンは二時間でクリアしたけど、その間にすごく動いた。
つまりエネルギーを使ったのでお腹が減ったということ。
メイユーはフライドポテトをつまみながら、まったりすることにしたらしい。
「ともかく、今日はありがとう。貴女が一体何をしたのか、全く分からないけれど、今頃我が国では貴女のことを全力で解析しているころよ」
「あひー、わ、私を解析!」
「だって今一番明確な、シン・シリーズに対抗する手段だもの。貴女の戦い方を学び、我が国はさらに強くなるわ。ちょっと犠牲者の数が洒落にならなくてね」
向こうは向こうで大変らしい。
人口も多いから、広い国土のあちこちにダンジョンが出現するもんね。
ダンジョンは人の恨みや強い思い残しに反応して現れるから、人が多いほど危険も多くなる。
日本でも都会はダンジョンがとにかく多い。
大事になっちゃうのは地方が多いらしいけど。
地方だと人が減ってきているから、ダンジョンが発生しても気付かれにくくて対処もしづらいんだって。
「おお、難しいことを考えたらお腹が……」
「はづきちゃんは燃費が悪いわねえ! でも、それだけ食べるからあんなにたくさん仕事をやれるんだろうけど。夏休みの間、数日リフレッシュ休暇しただけであとはずーっと仕事してたもんね」
受付さんがなんかリスペクトしてくれる。
えへへ、それほどでも……。
「良くやってくれている。俺の想定以上だ。できれば休みをやりたいところだが……そうはいかないようだ」
兄がなんか渋い顔をしながらメロンソーダを飲み干し、おかわりを注文した。
この人は甘いソーダ系のが好きなのだ。
「そ、そうはいかないといいますと」
いやーな予感を覚えて私が聞いてみると。
「なうファンタジーENからな。お前に対して打診が来ている。色欲のマリリーヌに対抗するため、力を貸して欲しいだと。つまり太平洋を渡ることになる」
「ア、ア、アメリカ!? あひー」
くらくらした。
これはいけない、急性のストレス症状だ。
ハンバーガー食べよう。
ロコモコバーガーというのをもりもり食べる。
美味しい美味しい。
私の中のストレスがスーッと消えていく。
「実際は、結界化した飛行機を向こうが用意するためにしばらく時間が掛かるだろう。実行可能な時期は秋の終わりになる。気にしないでいい。いざとなれば俺も同行する」
「社長が同行したらだめじゃないですか!? じゃあ私も行きます……」
「会社が空になるのはダメだろう!」
兄と受付さんがわあわあ言い合っている。
私はこれを眺めながら、ポテトをむしゃむしゃ食べた。
カリカリほくほくで美味しい。
少ししたら、特別予約されていたバースデーケーキがやって来た。
店員さんが揃ってハッピーバースデーを歌うので、兄も受付さんもメイユーも一緒に合唱してくれた。
この瞬間だけは世界が平和だ……!!
十六本のろうそくを吹き消す私。
「一息!? 肺活量~」
受付さんが変な感想を呟いた。
「さて、私の目的はこれで果たされてしまったわけだけど……」
店員さんたちが帰ってから、メイユーはポテトをつまみつつ呟く。
「このまま帰るのももったいないわよね。三泊くらいしていくから、ハヅキ、日本を案内してくれない?」
「ええっ、わ、私が!?」
「ああ、大丈夫。ハヅキだけに負担は掛けないわ。ちゃんともう一人の友達にも声を掛けてるから」
「あ、そ、そうですか……」
「ライカの風雷ラジオにも出る予定だから、彼女もガイドしてくれるわ」
「あひー!? い、委員長が!?」
夏休み最終日近し!
なのに私の毎日はまだまだ大変そうなのだった。
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