第88話 世界に轟くゴボウ無双伝説

※『水着はづきっち、また見られるとは……』『ありがてえ……ありがてえ……』


【¥50,000 いももち『はーっ、誕生日にもファンサービスを忘れないはづきちゃん、ごちそうさまです! 天然なところとかどんな窮地でもいつも通りなところとか、よそ見したりしたら勝利確定なところとか大好きだよー! 私もこれからはづきちゃんの声真似に精進します! これで美味しいもの食べて下さい』】


※『愛のこもった長文だ!』『重い~』『声真似?』『あれ、これって……』おこのみ『詮索するな! そんなことよりはづきっちを讃えよ! うおおおお空港で! 水着!』


 降り注ぐスパチャ!

 赤スパも混じってる!

 ひえええ、コメントも流れが早すぎて見てられないよ!


 何が起こっているのだ。

 いや、私が間違えて水着になったから、みんな驚きからの大興奮をしているのだ。


 モンスターがこっちに駆け寄ってくるけど……。


『な、なんだこれウグワーッ!?』


『赤とかオレンジ色のモノが殴りつけてきてウグワーッ!!』


 スパチャが入る度に、スパチャアイコンが彼らに炸裂してる!

 そしてコメントが高速で流れるたびに、私の水着と手にしたゴボウが、キラキラ輝いていくような。

 なんだなんだ。


「何が起こってるんです……!?」


 私はゴボウをぶんぶん振ってみた。

 すると、そこからゴボウの形をした光る残像がたくさん放たれた。


 周囲のモンスターたちが、光るゴボウの残像に当たって『ウグワーッ』と溶け消えていく。


※『質量を持ったゴボウの残像だと!?』『また良くわからん事が起きてる!』


 私が立っているところから、空港のダンジョン化が解けて行っているようにも見える……。

 なんだこれ、なんだこれ。


※たこやき『SNSのトレンドに乗り、さらには海の向こうから初見さんがやって来ているぞ。同接数50万人……! あまり見たことがない規模だ』もんじゃ『個人でこの規模は初めてだ。そこそこの宗教団体の構成員の数に匹敵する同接数。これならば、小神と言えるほどの力を発揮してもおかしくはない!』


「そ、そうなの!? あ、じゃあ動きまーす」


 私は宣言して、小走りで空港の中を走り回った。

 自然と、握りしめたゴボウを振ることになるんだけど。

 そこから生まれる光のゴボウが、近寄るモンスターたちを次々に光に変えていく。


※『ゲーム、終わっちまったな……』『私達ははづきっちの可愛い水着姿を堪能してればいいってことね』『プロモーション動画だったのか……』『アーカイブも百回見返すわ』


 いつものお前らがワイワイと騒いでいる。

 あと、私のコメント欄はチャンネル登録してから24時間経過しないとコメントできないようになっているから、初見さんたちのチャットは流れない。

 だけど動画を見た人たちが、SNSで呟いたりスクショを流してるみたい。


 うわーっ、同接数がどんどん増える……。


「なに!? 何がおきているの!?」


 下からメイユーの声が聞こえる。


『馬鹿な! 俺が怠惰のカンルーから預かった戦力が削られていく! っていうか八割くらいもういねえ!! なんだよこれー!! アイヤー!』


 あっ、デーモンの声もした!


「メイユーさん、上、上! デーモン上にいます!!」


※『はづきっちの大きい声!!』『ボイトレ行ってきた成果だね!』『声を張っても可愛いー』『声質そのものが可愛い』


「ほ、褒めるなよお前らー」


※『もじもじした!』『かわいい』『もじもじしながらも、近寄ってきた巨大な岩のモンスターをゴボウで粉砕したな』『気もそぞろなはづきっちは鉄壁だからな』


 すぐに後ろから、メイユーがやって来た。

 なんか背中からクリアレッドの翼を展開して、バーニヤみたいなところから火を吹いて飛び上がってくる。

 すげー。かっけー。


 サイバーなサイボーグ美女とゴボウ持った水着の私。

 相変わらず凄い絵面だ。


「なるほど……それが貴女の勝負フォームっていうわけね。この凄まじい同接数。想定を遥かに上回るわ。恐ろしい人……!!」


「あ、いえ、水着は設定ミスで……」


 まるで空港で水着を着ることを想定してたみたいな言い方やめてえ。

 私は人前であんまりお肌を晒さないタイプです。

 恥ずかしいので……!


 だが、私に言い訳のチャンスは与えられなかった!

 すぐにダンジョンボスのデーモンが出てきてしまったからだ。


『おのれ冒険配信者め! 大陸に覇を唱える怠惰のカンルー様の邪魔をするとは許せぬ! 寝そべり族から勤勉に働くことに目覚めたこの俺がお前らを仕留めてくれよう!!』


 叫びながら現れたのは、空港の天井に付きそうなくらい大きな、機械のサソリだった。

 サソリの頭の上に、やっぱり機械化された人みたいなのが刺さってる。


 メイユーと同じスタイル?


※もんじゃ『中国はサイバー勢とエンジェルっぽい勢みたいなのがいて、どちらもちょっと機械っぽいんだ。現地人からデーモン化した者もその影響を受けていておかしくはない』『有識者~』


「ハヅキ、あいつは結構な強敵よ。だけど、これを想定して水着をセットしてきた貴女となら勝てると思うわ! 水着キュートよ、似合ってる」


「あの、ちが、水着、間違って」


「行くわよハヅキ!!」


「は、話聞いてー!?」


 真っ先に飛び込んでいくメイユー。

 弁明の機会がー!!


 私も慌てて、てこてこ後ろを追いかけた。

 メイユーは空に浮かびながら、全身から火器を展開する。

 バリバリ音を立てて放たれるガトリングガンとマシンガン。


 デーモンはこれを装甲で弾きながら、大きなハサミを振り回す。

 あ、尻尾からレーザーみたいなのが出た。


 周囲を薙ぎ払う!

 メイユーが巻き込まれて、「うわーっ!!」と叫びながらふっとばされてきた。


「あ、あぶなーい!」


 私は横のコメント欄を持ち上げて、そこにメイユーを引っ掛けた。

 ゴボウは水着のリボンに挟んだ。


※『お、俺たちのコメントを使って!』『そういう使い方があったかぁ~』『まあ俺らのコメント欄で怨霊倒してたしな』『この応用力よ』


 落ちてくるメイユーをキャッチする私。

 迫るレーザー。

 両手が塞がっているので慌てる私。


「あひー」


※『はづきっちがちょこまか動きながらレーザーを完全回避しとる』『不規則な動きにデーモンがついていけないんだな……!!』『というかメイユー一人抱きかかえて動けるのか』『普段めちゃくちゃ飯食ってるから、パワーが違うんだな俺たちの姫は!』


 いやいや、全然余裕なんかなくて必死なんですけど!


『馬鹿な!? 行動は予測しているはずだ! なのになぜ予知がぶれる!? 次の行動を予知しても8つの方向にあの女がいる!! こんなん予知じゃないだろ!? わかんねえよ!!』


 デーモンがなんかキレながら、ハサミからもミサイルみたいなのを撃ってきたんですけど!


「あひー」


※『テンパったはづきっちがデーモンに駆け寄っていく!』『そうはならんやろ』『あ、ミサイルをお尻で横に弾いた』『そうはなら……なっとる!!』『今のはづきっちは全身が同接数パワーを受けた武器みたいなもんだからな』


「え、えい!」


 デーモンの人の眼の前まで来てしまったので、とりあえずつま先でハサミを蹴っておいた。


『ウグワーッ!?』


 デーモンの巨体が跳ね上がったんですけど!?

 いや、私はそんな異常なパワーはない。

 普通の女子高校生です……!!


「ありがとうハヅキ! ここがチャンスよ! 太極ソード!!」


 メイユーが私の腕から飛び降りながら、剣を抜いた。

 それで、デーモンの本体目掛けて飛びかかっていく!

 かっこいー。


「わ、私も……」


 水着のリボンに挟んでいたゴボウ二本を抜こうとする。

 あれ、思ったよりしっかりハマってて抜けないな。


「え、えいっ!」


 力を込めたら、ゴボウは凄い勢いですっぽ抜けた。

 それがビューンと飛んでいって、サソリデーモンのお腹に突き刺さる。


『ウ、ウグワーッ!!』


 なんか、メイユーが本体を切ったのと同じタイミングだったみたい。


『日本には恐ろしい化け物がいます! カンルー! 気をつけて下さい! この地は危険です!! ウグワーッ!!』


 デーモンはなにか叫びながら、光になって消えていったのだった。

 うーん!

 すっぽ抜けゴボウで終わってしまうとは……。


※『一撃必殺ゴボウ投擲』『決まったな新技』


「そ、そ、そうです。実は秘密の技で」


※『本当にござるかあ?』『はづきっちは嘘をつくとコメント欄に目を合わせなくなる』


「持ち上げてから落とすのやめて下さい!?」


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