第125話 地下鉄からピットフォールへ伝説

 アメリカの地下鉄は大変治安が悪いと聞いたことがある。

 だけど、今は安心。

 だってダンジョンになったから。


 治安が悪いどころじゃなくなったのだ。


「はいはい、進みまーす。お前らこんきらー。今日はアメリカさんの地下鉄ダンジョンを突き進んで、色欲のマリリーヌの本拠地に突っ込みます」


※『こんきらー』『最終決戦がんばれー』『明日は国が有給推奨の日にしてくれたから、一晩中応援できるぞ』『明日の日本は社会が麻痺してそうだけどなw』


「話分かるー。みんなの応援を期待してます!」


 時差を超えて、日本のお前らが私を応援してくれる環境というわけだ。

 後で聞いたら、風街さんも東奔西走して、私の配信にリスナーが集中するようにしてくれたらしい。

 ありがたや~。


 おかげで今日はゴボウのキレが凄い。

 ぶんと振るとモンスターたちがまとめて粉砕される。


「あちょっ」


『ウグワーッ!!』×何十体か


「リーダーやるね! だけど僕も強くなってるよ! うおおーっ! ラストバスターズ、アッセンボウ!」


 カイワレが行った!

 そしてオーガとぺちぺち殴り合ってる。

 拮抗してる拮抗してる!

 強くなったなあ。


 彼の登録者数はついに85人に達した。

 同接も常に14人くらいいるらしいので、これは弱めのオーガとどうにか互角になるくらい。


「左翼は我輩に任せろ! ぬおおーっ!!」


 インフェルノがモンスターたちを、ムチを握った拳で殴る!

 この人のムチ、スタイルだけであんまり当たらないんだよね。

 殴ったほうが早いのは確か。


 マッチョな彼の攻撃で、ゴブリンたちがふっ飛ばされていく。


 彼の登録者数は222人になっていて、これはゴブリンの程々の数の群れ相手なら無双できるくらい。

 相手がレッドキャップとかで、数も十体を超えると厳しいかも。


 うんうん、みんな強くなってる!

 なお、ビクトリアは登録者数が46453人になっているのでもっともっと強い。


「フヒィ! 私の、留学の、足しになれぇ!」


 バールのようなものを振り回して、雑にモンスターを退治していく。

 うんうん、強い強い。

 現在進行系で兄がカリフォルニア州知事にお願いして、ビクトリアの日本留学を許可してもらう事になっているらしい。


 ついに日本に来れるということで、ビクトリアのテンションが超高いのだ。


「みんな頑張ってるなあ」


 私は感心しながら地下鉄のホームをとことこ歩いた。

 バーチャルゴボウをヒュンヒュン振り回すだけで、近寄ってきたモンスターがどんどんいなくなるから楽ちん。


 そして少しすると、国が用意した地下鉄ダンジョン……地下鉄回廊と言われてるけど、ここを踏破するためのマシンが到着!

 真っ黒な電車だ!


「ブラックホーク号の到着よ! お待たせ。みんな乗り込んで!」


 スカーレットが顔を出した。

 電車の中には、軍の人たちがみっしり入ってるらしい。


「凄い! やっぱり僕らはヒーローなんだな!」


 意気揚々とカイワレが乗り込んでいった。

 うんうん。

 登録者数4人、同接0人で生き残ってきた彼はヒーローの素質があると思っている。道が長く険しいけど。


 インフェルノが乗り込んだら、車内からどよめきが聞こえた。

 あ、軍服が紛らわしかったか!

 網タイツだから許してあげて欲しい。


 後から、ビクトリア。

 最後に私。


 先の乗り込んでいたフル武装っぽい軍人さんが、


「恐ろしく覇気を感じない一団だ……! こ、これが色欲のマリリーヌへの切り札、ラストバスターズ……!!」「なるほど、どうして切り札になるのか見た目では全くわからん!」


※『軍の人の評価が適確で笑う』『はづきっちは一番弱そうなところからの実は最強ポジだもんな』『美味しすぎるw』


 私の顔の横を流れるコメントに、軍人さんたちが首を傾げている。

 大部分が日本語だもんね。


 でも、それ以外の言語も結構多くなってきてる。


 今日はコメント制限が掛かってるのかな?

 ネチョネチョ動画で視聴してる人も多いかも。


 電車が動き出した。


「これより、色欲のマリリーヌ討伐の最終作戦を開始します。地上に存在した、マリリーヌの力を伝播させる拠点は全て破壊されています。彼女、きら星はづきのおかげです」


 軍人さんたちが「オー」とどよめいた。

 私、照れる。


※『てれてれしてるw』『かわいいw』『俺らの姫は常に謙虚だからな』『もうちょっと自己肯定感高くてもいいんだぞw』


「そうは言われてもー。あっ、正面の映像が見られるよ」


 私が指さしたのは、進行方向。

 そこにある壁は、一面がモニターになっている。


 線路を凄い勢いで突き進む黒い電車と、立ち塞がろうとするモンスターたち。

 電車からは次々、ガラスの小瓶とかロザリオとかが発射されてモンスターに炸裂、吹き飛ばす。


「あれは何をしてるの?」


「フフフ……。聖水とロザリオをそのまま弾丸にしてモンスターを退けているの。弾丸を聖別するよりこちらの方が威力が高いの。だけど……かさばるし遠くまで投げられないし」


 ビクトリアの説明、なるほどだー。


※『ビクトリアちゃん、はづきっちとの距離がめっちゃ近くなってる』『あら~^』『助かる』『二人ともお顔がいい』


 コメント欄が喜んでいる。

 なぜだ。


 ビクトリアはぎこちない笑顔で、手を振った。


「こ、これからお世話になるかもしれないから、ファンサービス……フ、フフフフフ」


 頑張ってる頑張ってる!!

 陰キャがコミュニケーションに使うエネルギーは、常人の十倍くらい必要なんだ。

 私は詳しいんだ。


※『ああああかわいい』『ぎこちないところ最高にきゃわわ』『初期の頃のはづきっちみたいだ』『今のはづきっちはすっかり……』『いや、そんなに変わってないな』


 もちろん、コメントの流れが爆速になった。

 もう凄く人気あるじゃんビクトリア!

 あとなんで私に言及するんだ。


 やがて、地下鉄回廊の終わりが見えてきた。


「ここまでは何度も侵入ができたわ。だけど、ここからマリリーヌの居城であるピットフォールへ下っていけた者はいない……!」


「すごく大事になってる」


※『シン・シリーズが出てきたのが三ヶ月前くらいだろ?』『たった三ヶ月で伝説のモンスターみたいになってるじゃん』もんじゃ『日本の大罪勢ははづきっちが弱いうちに撃破したからな。あれは蛹の状態だったと今は言われている。本来であれば、あの状態から羽化して、アメリカで猛威を振るうマリリーヌのように変じるのでは、とな』『有識者ニキ~』


 なるほどー。

 ナカバヤシさんは蛹だったのか。

 じゃあ、マリリーヌはどんなに強いんだろう。

 ちょっと怖いなー。


「来た!」


 軍人さんの隊長らしき人が立ち上がった。

 なんか作戦本部からインカムみたいなので指示を受け取ったみたい。


「マリリーヌの軍勢が来たぞ! 迎え撃つぞお前ら!!」


「うおおおおおおお!!」


 軍人さんたちが叫んで、前方車両に走っていく。

 そこからは直接射撃できるみたい。


 画面を見たら、地下鉄の終わりの明るくなった部分がどんどん迫ってくるところだった。


 ついに地下鉄を抜ける!

 そしたら、到達したのは断崖絶壁だった。


 下の方は薄暗くて、ピカピカ光るネオンっぽい輝きが見える。


「マリリーヌの城だ……!」


「ぬう、なんという威圧感だ」


「私たちここまで来てしまったのね……」


 ラストバスターズの三人が緊張の声を漏らす。

 私は……。


「なんかナイトクラブとかみたいな……陽キャの気配を感じる……。こわあ」


※『はづきっちだけ全く違うベクトルで警戒してて草』



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る