第149話 インターネッツ侵略伝説

『ビクトリアの日本デビューかい!? 友人の新しい門出なんだ! 幾らでも協力するよ!』


『ああ。我々は既に戦友。手を貸さぬ理由がない。協力を約束しよう』


 ということで、デビューイベント当日に大物ゲストがワイプで登場することになった。


「ありがとうー! 二人がこっちに来たら日本を案内するね。二十三区外の東京限定でよければ……」


 そんな約束をしつつ、通信は終わり!

 兄にザッコで連絡をすると、『でかした! お疲れ』と返答があった。

 これで二人のデビューは一層華やかになることだろう。

 楽しみだなあ。


『ちなみにお前がハロウィンの日についでで倒した嫉妬勢の尖兵だが』


「ほえ? そんなことあったっけ」


『どうでもいい記憶だから忘れたな。まあいい。嫉妬勢の尖兵と見られるデーモンがあちこちのダンジョンに出現するようになっている。その全てがSNS上で有名配信者にクソリプを投げつけていた連中だ。どうやら嫉妬のシン・シリーズはSNSで適合者を見つけ、尖兵にしているようだ』


「あひー、無限にいるじゃん」


『そう、無限にいる。なかなか頭の痛い問題だ。大して強くは無いんだが』


 この国では、配信者をとにかく守る法律になってるそうなんだけど……。

 それでも法のギリギリで配信者にクソリプチキンレースをする人は絶えないのだ。

 何がそこまでやらせるんだろうなあ……。


『嫉妬だろう』


「しっと!!」


『他者と比較してしまうという煩悩は、人間が最後まで捨てきれないものなのだそうだ。つまり嫉妬のシン・シリーズはそんな根源的煩悩を糧とする恐るべき相手ということになる。まあ同じ根源的煩悩である色欲をお前は倒してるわけだが……』


「えへへ、あの時は大事になりました」


 しばらく、あんな大冒険はしなくていいかな。

 家の近くでこじんまりとダンジョン配信していたい。


『近々、また迷宮省から連絡があるそうだ。現在はライブダンジョンと協力体制を築いているようだな』


「風街さんいるもんねえ」


 そんな噂をしていたら、翌日には風街さんから連絡があったのだった。

 呼ばれて、新宿までやって来た。


 う、うわーっ。

 人混み~。


 私は人の中をひいひい言いながらかき分け、約束の場所までやって来た。

 Aフォンの地図ナビゲーション優秀。

 地図を読めない人はダンジョン配信できないので、私も最低限地図は分かるんだけど……。


「向きとかまで修正してくれるのはほんと楽……」


 私が変な方向に行こうとすると、Aフォンの力が働いて向きを修正される。

 配信者とAフォンが強く結びついているからこそだなあ。


 こうして来たのは喫茶店。

 新宿には無数の喫茶店がある……。

 ここはお高い個室喫茶ね。


 部屋の中には二人の女性がいた。

 すっかり顔見知りで、二週間に一回は会ってる風街さんと……。


「あ、はづきちゃんだ。はろはろーエリートのはるのみこです。はづきちゃぁーん久しぶりだにぇ」


「は、はるのみこさん!! お久しぶりですー」


 私はペコペコした。


「私はそういうの気にしないから大丈夫だよぉ。今日はちょっとね、案件でね」


「案件?」


「りゅうちゃんがいるでしょ。迷宮省の女」


「みこちゃん、私をなんかサスペンスドラマみたいな呼び方しないで。あのねはづきちゃん。今回は……いえ、今回もあなたの力を借りたいんだけど、今回はここにいる自称エリートも協力してくれるそうでね」


「はいはい」


 私は席について、オーダーを出す。

 コーラフロートだ。


「彼女マイペースだねぇ」


「いつもことだもの。それではづきちゃん。今回行く場所は……普通に営業中のネットカフェ」


「ネットカフェ!!」


 意外な目的地に、私は驚いた。

 なんでネットカフェ……?


「迷宮省の調査で少しずつ分かってきているんだけど、嫉妬勢はどうやらインターネットで増殖しているらしいの」


「あ、それ兄も同じこと言ってました」


「斑鳩さんも気付いてるのは流石ね。あの人昔から頭良かったから。それでね、基本的に嫉妬勢はネガティブな発言を検索しているらしいの」


「はあはあ」


 扉が開いてコーラフロートが届く。

 私はサッと受け取ってズビーっとコーラをのみ、アイスをパクパク食べた。


「あまりにも自然なコーラフロート貪り、みこじゃなきゃ見逃してるにぇ」


「話戻っていい? いいよね? それでね。個室インターネットカフェを探して、そこから私たちで囮捜査をしようという話になったの。あ、これは配信するわよ」


「な、なんとー!」


 今回は知的な案件だった!


「ええと、つまり私たちでネカフェで他人を装ってやるんですか」


「そういうことになるわね。捨て垢を作って、過激な発言をしている暇人……ゴホンゴホン、アンチのフリをして、私たちに嫉妬勢が接触してこないかどうか探るの。ただ気をつけて。アンチ発言は人格を引っ張られるから、演技でも私たちがアンチっぽいことをやり過ぎると持ってかれるわよ。あと、バレたら炎上する……」


「「ひぃ~」」


 私とはるのみこさんが情けない悲鳴をあげた。

 ああ、なんかこの人とはシンパシーを感じる。


「じゃあ……河岸(かし)を移しましょうか」


 せ、専門用語!?

 かっこいいー。


「酒飲み用語だにぇ」


 ぼそっと突っ込むはるのみこさんなのだった。 


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