第452話 後ろから拝見、はづきのダンジョン突破伝説

「突発ダンジョンなんで、配信しながらサクッと行きますね。えー、巻き込まれている人を助けるのが早いか、突破しちゃうのが早いかですが……アンケートを……」


「はづきちゃん、そ、そんな悠長な……!」


「大丈夫大丈夫、うちのリスナーは優秀なんで。じゃあみんなが投票している間にモンスターやっつけていきますね」


※『配信再開して、まだくろすちゃんとコラボしてると思ったらw』『くろすちゃんは、はづきっちの配信のおかしいところをたっぷり見ていくといいですよ』『本当におかしいから』


「なんかコメントの皆さんが不思議なことを言ってる……!」


※『くろすちゃん後ろ後ろー!』


「へ!?」


『もがーっ!!』


「ひえーっ、コズミックなモンスター!」


「あちょっ」


 つんっ。


『ウグワワーッ!?』


 ピチューン。


 いやあ、後ろから迫ってきていた名状しがたきモンスターの群れでしたね。

 バーチャルゴボウを伸ばして突いたら全滅したので、さほどでもないですねー。

 さて、モンスターが塞いでいる個室の扉をチョップで割って……。


「隣の個室は解放しました! えー、皆さん、あと数分でダンジョンが無くなるのでここでじっとしててください」


「はづきっちだ……」「きら星はづき!? 本物……!?」


※『アンケートが締め切られる前に攻略が進んでいくぞ!』『急げ! いつものはづきっちの速度に追い越される!』『みんなアンケートに答えるんだー! くそ、締切までの1分が無限のように長いぜ』


「な、な、なんだこれー……!?」


 くろすちゃんが未知の世界を経験して、混乱しているようです。


「同接が多いと大変なんですよ。こうやってですね、みんなをまとめてアンケートするのも……あちょっ」


『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』

『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』


※『バーチャルゴボウを伸びる三節棍みたいにしながら振り回して360度から襲ってくるモンスターを的確に薙ぎ払った!』もんじゃ『破壊力もだが、彼女の強さはその命中率にあるな。当ててはいけないものを回避し、確実にモンスターだけを排除する……』『あ、アンケートが締め切られた』


「お前ら、回答ありがとうー! どれどれ……?」


 投票数は1234万と……。

 今日もたくさん来てますねー。


「信じられない同接数になってる……」


「世界中から来てるからねえ。異種族の人も見てくれてるし! あ、なるほど、助けて回る方が僅差で勝ってる! じゃあ、お客さん全員を助けながら突き進みます!」


 私の配信画面の右上に、助けたお客カウンターが出現する。

 さっき救出したのが三人だから、まずは03という数字。


「くろすさん、後ろから見てて! いろいろなところから見れた方が、動画は楽しくなるんで」


「は、はいっ! 私のスマホを回して……」


 疑似Aフォンは、あくまで南くろすさんをバーチャライズさせておく力しかない。

 ということで、撮影配信は彼女のスマホが必要なのだ!


 南さんの配信では、後ろから私の動きを追う感じになってたみたい。

 これも面白い絵だなあ。


※『救出カウンターが回っていくぞ』『流石に都会のレストラン、お客も多いんだな……』『これ動画早回ししてる?』『いや、リアルタイム配信』『速すぎるでしょw』


 群がるモンスターをぺちぺち叩いてやっつける。

 そのついでに、テーブルの下とかに隠れている人たちを救出する。


 ルーチンがだんだん出来上がってきたぞ。


「みなさーん! 落ち着いてついてきてください! 後ろのモンスターは全てきら星はづきさんがやっつけているので安心ですから!」


 南さんの声がする。

 さすがもと教育実習生。

 引率のお姉さんっぽさ助かる~。


※『優しい先生に引率されるボイス』おこのみ『ああ~^』『ワイらの人生にはついぞなかった瞬間』『優しい女先生なんかファンタジーだからな』『つまりここはファンタジーってこと!?』『幻想でもいい!! 幻想でもいいんだ!!』


 お前らの一部が強く反応してる!!

 苦労してきたんでしょうねー。


「はづきちゃん、どんどん進んでいきます。止まりません! コメント欄と会話しながら、ついでみたいに湧いてくるモンスターを倒してます! こ……これが超一流冒険配信者の姿……」


※『くろすちゃんこの人は例外w』『業界で一番やべえやつだから』『リアルガチで人類の希望やってる女子高生を基準にしたらダメ』


 なんだか色々言われている気がするぞ!

 でも後日、私の配信を背後から移した南くろすさんの映像は大いに受けたらしい。


 そして同業の人たちが口を揃えて、「全く参考にならない」と言ってたとか。


 じゃあ時間軸をえいっと今に戻して……。


「えー、あなたがこのダンジョンのボスでしょうか」


『な、なんできら星はづきがいるんだよ!? 展開したばっかのダンジョンが十分そこそこで壊滅したから、あの魔王不良品渡しやがってとか思ってたのに! ま、まさかこんな速度でダンジョンが壊滅したのは……』


「私です」


『お前だったのかきら星はづき!!』


 相手はなんか配膳ロボットのコスプレをしたおばさんです。

 いや、配膳ロボットと同化してるメカニカルおばさん……!?


 私を見て凄く焦ってる。


『長く働いてきた私を、新人をちょっといびったからってクビにしやがってー!! だから私にはここをダンジョンにする権利が』


「じゃあ倒しますね……」


『ちょっ、ちょっとまっ、私の話をもう少し』


「あちょっ」


『ウグワーッ!!』


 ぱあんと破裂して消えてしまった。

 ダンジョン化も終わる。


※『いつもの』『相手に事情があろうが耳を貸さずに一撃必殺』『今回の奴の場合、もともと邪悪だったっぽいけどな』『もうはづきっちは相手のこと忘れてるぞ……!』


 失敬な。

 倒したばかりの相手のことはちゃんと覚えてます。


「えーと、猫耳のおじ……おばさん……」


※『もう記憶から消えかかってる!!』もんじゃ『相手の記憶に焼き付くことで精神攻撃を仕掛けるやり方もあると聞く。それに対して、相手をあまり気にしないはづきっちは最強の防御を持っていると……』『さすがの有識者も苦しいフォローだ』


 助かった人たちは、お客さんも店員さんも、ワーッと喜んで外に飛び出してく。

 良かった良かった。

 早めに解決したので、お店の被害も最小限みたい。


 Aフォンには迷宮省から連絡があって、現場検証チームが出ますという話が来ていた。

 向こうも早いなー。


「あー、怖かった……」


 くろすちゃんがしみじみ呟いた。


「冒険配信者の人って、みんなこういうリスクを背負って頑張ってるんだ……。そりゃあ、人気なはずだよねえ」


「うんうん、だからコラボしたらよしよししてあげてください」


「分かりました。じゃあまずははづきちゃんをよしよしします」


「おほー。よしよしされるー」


※『おほーはやめなさいw』『突然の百合は体に良い。今は効かないが直にガンにも効くようになる』『見てよかった、突発配信!』


 こうして、くろすちゃんとのコラボは終了!

 大盛況だったのでした。


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