第303話 機上配信はづきっち伝説

 ファーストクラスの席はやっぱり広い……!

 そして今回、この飛行機に乗り込むのは、なんと私たち三人と迷宮省のタマコさんだけ。


 四人で貸し切り!

 アテンダントさんは二人で交代交代で対応してくれるみたいだけど。


「ご、豪華すぎる……」


 タマコさんがプルプル震えていた。

 もう仕事を忘れておられる!


『ふむ……。後部が全て結界になっておるのか。これは内部から発生するダンジョンと言うよりは、外部の攻撃を意識したものだな』


 バングラッド氏は早くも、飛行機の頭からお尻までを歩いてきたらしい。

 色々と感想を述べている。


「まあねー。去年とか、私の乗ってた飛行機が丸ごと空のダジョンに突っ込んじゃったもの。幸い、そこで配信をスタートしたから突破できたけどさあ」


「リーダーのあの配信、見てたわ。何が起こったんだって思った。あんな配信、前代未聞だもの」


 ビクトリアが見てたとは!

 アメリカ上空で、色欲のマリリーヌが作り出したダンジョンが、私の乗った飛行機を止めようと襲いかかってきた時があった。

 あそこで私は、乗り物が配信者の武器扱いになってパワーアップするというのを知った。


 ちなみにあの飛行機、アメリカの博物館で今も飾られているんだって。

 きら星はづき飛行機みたいな名前がつけられてるらしい。


 確か、レーダーに映った飛行機の識別コードが私の名前になったんだとか。

 そんな不思議なことがあるんですねえ……。


『ご搭乗の皆様、イカルガエンターテイメント御一行様。当機はこれより離陸致します』


「あっ、シートベルトしなきゃ」


『シートベルトとな?』


「バングラッド氏は必要ないかもだけど、体を椅子に固定して安全を守るためのベルトでして……」


『きら星はづきにも必要あるまい』


「私は人間なので必要なんですー」


 こうして座席に戻って、ベルトで体を固定!

 ゆったり広いシートだから、ベルトをしてても圧迫感はないなー。


 見送りでたくさんの人が来ている。

 取材とかも来てたけど、特に言うこととかは無かったのでスルーしたよ。


「リーダー、配信での露出が多いのにメディア露出がほぼゼロという不思議な配信者として扱われているわ」


「取材されたら緊張するじゃん。私はコミュニケーションが苦手なので、大変困る……」


「配信だと一方的に喋れるものねえ」


「うんうん」


『そう言えばダンジョン配信でも、デーモンどもとは一方通行な話しかしておらんな』


「うっ、そこを突かれると……」


 バングラッド氏、よく見てる。

 なんか配信者になるために、私の配信をたくさん見て研究しているらしい。


 多分魔将の中で、一番私のスタイルに詳しい人になっているぞ。


「あっ、走り始めた」


 飛行機がガタガタ言い始める。

 そしてふわーっと浮かび上がり、ぐんぐん空へ。

 ちょっとGが掛かった。


 タマコさんは興奮してなんかわあわあ言っている。

 楽しそう~。

 初対面の時はクールだったのに、すっかり面白い人になって……。


「いやあ、地方に左遷された時に気付いたんです。真面目に、真剣に仕事をしてても理不尽にその全てが奪われることがあるって。だから私は、楽しめる状況ならリミッターを外して楽しむことにしました!」


「潔い!」


「はづきさん、機内で配信したりはしないんですか? ロンドンまでは14時間のフライトですから、かなり時間はありますが」


「あ、そう言えば……! じゃあ何をしようかなあ」


「リーダー、ここにパーティーゲームがあるわ。オフラインで対戦できるやつ」


『むっ! これは腕が鳴るわい』


「やるか……やりますか……!」


 ということで。

 空の上から、ちょっと配信することにした。


「お前ら、こんきらー! 今私は、魔将討伐のためにイギリスのロンドンへ向かってるんですけどー」


※『こんきらー!』『こんきら! この間言ってたやつ!』『移動中配信?』『敵に場所を知らせることにならない?』もんじゃ『はづきっちの配信は、むしろ場所を知らせて敵を威嚇する行為だなw』


「そうですねー。移動してるだけだと暇なのと、ちょうど時間があるのでゲーム配信をします。これは飛行機で遊べるパーティゲームで、バーバリアンブラザーズと言ってですね」


 最大四人まで参加できて、ふにゃふにゃなキャラクターを操って相手を叩いたり持ち上げたり投げたりして、穴とかビルの外とかに落っことせば勝ちというゲーム。

 様々なシチュエーションがあるので飽きずに楽しめるのだ!


※『生身ならはづきっち無双だけど、ゲームは苦手な人だからなw』『これは久々にあひーが聞けそう』


「そんなばかな。私は簡単にあひーなんて言わないぞ」


 こうしてゲームスタート!


「あひー!?」


※『いきなりw!!』『自分から穴に落っこちるやつがあるかw!』『まだよじ登れる!』


「ひい、ひい、死んじゃう死んじゃう」


「えい! リーダー落ちろ! えいえい!」


「あーひー」


 落ちたあ!

 一番最初に脱落したぞ!


 タマコさんとバングラッド氏が激戦を繰り広げている。

 せっかくなので、私は解説に回った。


「ビクトリアとバングラッド氏と、後は迷宮省職員のタマコさんが遊んでてですね」


※『公務中に!?』『いや、ここには魔将のバングラッドがいるんだ』『魔将の監視任務だな、うん』


『ぬわーっ!? や、やるなタマコ!!』


「ふっふっふ、職員だって魔将に勝てるんですよ!」


※『迷宮省の職員が魔将を穴に突き落として勝ったぞw』『なんというフェアな世界であろうか……』『そのタマコさんもビクトリアにボコボコにされて負けてるけどなw』


 ビクトリア、WIN!


 その後も勝ったり負けたり、負けたり負けたりしながら飛行機は突き進んでいく。

 わあきゃあ言いながら遊ぶゲーム配信は、好評だったのだ。


 なお、私はハイウェイトラックの上で殴り合うステージとか、極めて事故で決着がつきやすいステージでは無類の強さを発揮したよ!


『きら星はづきは豪運過ぎる』


「運の良さが重要なステージだと本当に強いわリーダー」


「ゲーム自体は苦手みたいなんですけどね……」


 私は運だけでゲームをやってる……。


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