第302話 出国準備とその間のフォロー伝説
いざ、イギリスへ!!
ということで、もろもろ準備をしなくてはいけないのだ。
まずは学校に二週間くらいの休学届け……。
なぜか先生からは、サクッと受け入れられた。
「本当にいつもお疲れ様。頑張ってね」
「あっはい!」
「二週間の間の内容は補習で対応するから。とは言っても君は優秀だから、自学でそこまで進んでしまっているかもだけど」
教科書の内容だけなら、二年生の分は全部読み切ってはいるなあ……。
とにかく許可が出て良かった!
次はクラス。
「あの、実は、二週間くらい学校休むので……」
そう言ったら、クラス中が私に注目した。
な、な、なんだー!?
「頑張って、師匠!」「体に気をつけてね!」「向こうで生水とか飲んだらダメだよ!」
次々に励まされてしまう。
なんと理解ある人たちだろう。
理由も聞かずにこんなに親身になってくれるとは。
一年生の頃は、全然打ち解けなくてつらたん、と思っていたが、1年半でここまでみんなと仲良くなれるとは……。
いい学校なのだ……。
ちょっとじーんと来る。
事情は話せないけど、行ってきます!!
私はやる気満々になって家に帰ってきた。
ビクトリアも、教授たちに二週間休む話をしてきたらしい。
彼女は自分が配信者であることをオープンにしているので、サクッと理解を得られたんだとか。
このオープンにできる度胸はビクトリアの凄いところだよね!
「リーダーもオープンにしてるじゃない」
「してないしてない」
「本当……? もしかして隠してるつもりなの……?」
不思議そうにそんな事を言われてしまった。
な、なんだなんだ。
その後、会社でも私たちの仕事の割り振りを他の配信者に任せる相談。
私に来てたお仕事は、イノシカチョウの三人がそれぞれやってくれることになった。
ビクトリアの案件はファティマさんが担当。
よしよし。
持つべきものはどんどん成長してくれている後輩。
まあみんな、同年代なんだけど。
うちの会社の配信者、女性陣は一人を除いてかなり若いんだそうだ。
他の会社だと、社会人経験を積んだ人とか、若くても大学生だとか。
「冒険配信者黎明期の頃には、中学生の配信者もいたそうだがな。今はその辺りがうるさくなってきているから、基本的には18歳以上を対象にしている」
「ほーん」
兄がそんな説明をしてきたので、私は驚いた。
「私は15歳デビューなんだけど」
「まさかお前がカッとなって高校入学直後に個人勢デビューするとは思ってもいなかったんだ。あれで俺の人生が大きく変わった……」
会社辞めて、イカルガエンターテイメント立ち上げたもんね。
私たち兄妹と受付さんだけの会社が、今ではすっごく大きくなった。
うーん、感慨深い……。
『なにっ、バングラッドが二週間もいなくなるのか! 我は悲しい』
『なあに、たった二週間待っておればまた戻ってくるのだ。腕がなまらぬよう、向こうからもインするからな』
ウェスパース氏とバングラッド氏の我コンビがなんかぺちゃくちゃ喋っている。
すっかりゲーム友達になってしまった!
異世界で言えば超越的存在みたいな二人が、こっちだと普通のゲーマーだもんね。
ゲームには凄い魅力があるのかも知れない……。
私は嗜む程度だけど。
で、バングラッド氏の準備はこれでおしまい。
この人、イカルガ以外には関わりを持ってないしなあ。
聞いたら、部下もいないし、魔王にも従っているわけではなくて、食客という形であちこちの戦いに顔を出して、好き勝手に戦っているだけらしい。
で、あまりの強さに魔将の称号を与えられたとか……。
『軍勢にはな、我のような食客タイプと、現地人が魔王に忠誠を誓った裏切り者タイプと、魔王が直接連れてきた大魔将タイプの三種類があるのだ』
「ほうほうほう」
『大魔将は四体いる。うちの一体はきら星はづき、お主がこの間倒した。で、これから我らが向かうエゲレスとやらでさらにその一体と戦う。数千年もの間君臨してきた強大な魔将だが、この短期間で立て続けにお主と遭遇してバチボコにやられるのかと思うと、我は楽しくて仕方ない』
今からワクワクしてますね、バングラッド氏!
私はと言うと、イギリスのご飯が楽しみでならない。
ビクトリアはビクトリアで、イギリスのあまり美味しくないと評判のご飯を食べてみたいらしい。
みんな目的があるのだ!
イギリスは雨が多かったり、寒かったりするらしい。
防寒装備を用意して、傘もいいのを準備して……。
あっという間に、その日がやって来る。
迷宮省の車が迎えに来た。
前みたいなリムジンではなくて、普通のワンボックスカーだ。
ここは経費削減されたのね。
「普通の車に見えるでしょう。実は全身に防弾処理がされていまして、内側からは対ダンジョン結界処理も施されています」
あっ!
あなたはお前らの中にいると仰っていた職員さん!!
「戻ってきたんですねえ」
「はい! 地方に飛ばされていたんですが、この度戻ってこられました! また、はづきさんのサポートができて嬉しいです! 私たち、真の迷宮省の職員は、みんなあなたのファンなんですよ!」
両手で握手してきた。
なるほどー。
迷宮省が丸ごと味方なのだ。
それは嬉しいなあ。
今度の長官、全く口出しをしてこなくて、依頼されたら判子を押すだけの仕事をしてるらしい。
それでいて、何かあったら職員に資料をまとめてもらった後、矢面に立つ。
「何もしないんですけど、いざという時だけ守ってくれる人ですよ。いやあ、一ヶ月天下のあの長官とは大違いです」
中林前長官、嫌われてるなあ!
私たちはワンボックスカーに乗り込み、空港へ。
一応迷宮省側から、イギリスまで付き添ってくれる女性が派遣されている。
「通訳は必要ないと思うのですが、形式上、皆さんが国の代表ということになります。ですので、そのお世話や迷宮省側の意思を伝える役割として同行致します」
なんか大人の女の人だ!
タマコさんというコードネームを持っているようで、風街さんみたいな迷宮省エージェントなんだそうだ。
そして私たちは、イギリス行きの飛行機に乗り込む。
もちろん、ファーストクラス!
体が贅沢を覚えてしまうー。
イギリスまでは凄く長いし、途中給油のために別の空港に降りたりするからね。
なるべく居心地のいいところにいてもらうという判断なんだと思うけど。
「ふふふ、役得ですね……。初ファーストクラス……!!」
タマコさんがぐふぐふ笑っていた。
私とビクトリア、タマコさん、そしてバングラッド氏。
四人を乗せた飛行機が飛び立つのだ。
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