第316話 アイリッシュ海を渡るよ伝説

 最終日も近いということで、ついにイギリス解放作戦は最終段階になったのです!


 これ、私が無理なく休学できる日に合わせて作戦が組まれてるよね?


「本来ならこれ、ありえないような過密スケジュールですからねえ」


 タマコさんがパソコンの中のスケジュールを見ながら、しみじみつぶやく。


「そうなんです?」


「そうなんです。だって、何ヶ月も掛けてイギリスを侵略してきた異世界の悪魔たちを、二週間で完全にやっつけて、しかも大本の大魔将まで駆逐しようっていう作戦ですよ? 普通不可能です」


「そんな作戦に私は連れてこられたんだなあ……!!」


 なお、立案はルシファーさんだそうです。

 重要な全作戦に私が配置されてるとか。


「それで今、船の上に……」


「そういうことになります」


 私たちは客船に乗って、北アイルランドのベルファストまで一直線。

 その先に風の大魔将イエローキングがいるんだそうだ。


「他の方々の話を集めていたのですが、本来ならこの海路も風のデーモンによって支配されていて使えなかったはずなんだそうです。それを、はづきさんたちが片っ端からやっつけたので」


「通れるようになって良かったねえ」


 うんうん。

 私は頷く。

 紅茶とケーキが出てきたので、美味しくいただくことにした。


 海は穏やかな感じで、船はまったり進む。

 いや、船だから進行速度が分かってないだけで、結構速いのかもしれない。


 他に乗り込んでいる配信者の人たちは、みんな緊張してピリピリしてる感じ。

 ブラックナイトとホワイトナイトの姉弟も、普段より口数が少ないし。


「ブラックナイトさんがぺたぺた触ってこない」


「彼女もこれからの戦いに備えて精神を集中しているんです。大きな戦いを前にして平常心でいられるなんて、本物の達人かお化けくらいですよ」


 タマコさんはハハハと笑ってケーキをもぐもぐ食べた。

 バターケーキなんだけど、こってりしてて美味しい。

 イギリスはちょっと寒いので、こういうのでカロリーを摂取しておかないとね。


 ちょっと待つのだ。


「緊張しないのが達人かお化けということは、私は達人っていうこと……? そんな凄いかなあ」


「あはは」


 タマコさんが笑って答えてくれなかった。

 まあ達人だと思われてるならそれでいいや。

 ところでタマコさんはどうして平常心?


 ちなみにビクトリアは、緊張でガチガチになっているシェリーを励ましている。

 本当に仲良しになったなあ。

 年頃も同じくらいで背格好もよく似てるもんね。


 全部終わったらコラボとかして欲しい。


 日本だともみじちゃんも、中国のメスガキ系配信者、チェンファとちょこちょこコラボしてるし。

 もみチェンとか愛称をつけられて、ちょこちょこ話題になってる。


 ぶつかりあったライバル同士は、こうして親しい友になるのだ……。

 私はあんまりそういう人いないかなー。

 割とみんな仲良くしてくれるからね!


 のんびり紅茶を飲みながらリラックスする。

 海風がちょっと冷たいけど、気持ちいい。


 私たちはみんな甲板にいるんだけど、これは風のデーモンの襲撃に備えてのことらしい。

 こうして船はアイリッシュ海をどんどん進んでいき……。

 向こうに見える陸地が大きくなってきた。


 配信者の皆さんの緊張が高まる。


 その頃、私はうとうとしていた!


「ハヅキが大物すぎるわ」


「僕らは彼女を見習わないといけないのかもね」


 ブラック&ホワイト姉弟の声が聞こえますねえ。


 船の揺れと、ほどよい量のスイーツと、美味しい紅茶。

 海風と人々のざわめき。

 眠くならない方がおかしいのです。


 だけど、さすがに目が覚めたよ!


 なぜなら……。


「こっちの配信者がリーダーの寝てる姿をSNSにアップしたわ。そしたらトレンドが『きら星はづき起きろ』になってる」


「あひー、な、なんだかしょうもない世界的トレンドに!!」


 これは大いに受けたみたいで、船の上の配信者さんたちが爆笑している。

 緊張が解けたみたい?


 ほどよい緊張はピリッと引き締まるからいいけど、行き過ぎるとガチガチになって動けなくなっちゃうもんね。


「仕方ないなあ……。やりますかあ」


 温かいタオルを持ってきてもらって、顔を拭いて目を覚ました。

 そうしたら、ブラックナイトさんがいそいそやってくる。


「ハヅキに、バトルの前のメイクをしてあげる」


「あひー、私にメイクを!? なんで!?」


「ハヅキ、そのままでも肌がきれいだし可愛らしいけど、メイクをしたらもっと美しくなれるわ。メイクは女の武装なのよ?」


「そ、そんなものでしょうか」


 確かにイカルガでも、ビクトリアとファティマさん、ぼたんちゃんはメイクするもんね。

 まあ、ぼたんちゃんのは校則に触れないレベルまでのベースメイクですが。


 アバターをかぶるからあんまり関係ないと思うけどなあ。


「気持ちの持ちようね。ハヅキは肌がきめ細かいから、きっとメイクが映えるわよ……」


「ひー」


 ということで、私はペタペタメイクされてしまった。

 これを見て、配信者の皆さんがおおーっとか感嘆しているのだけど。


 私が鏡を見ても、ピンと来ない。

 なんかちょっと目が大きくなって唇が強調された?


「ははあ、素で可愛らしくて、メイクをすると美女になるのは妬ましいですねえ」


 タマコさんが嫉妬の大罪に目覚める──!?


 まあ、船に乗ってからこっち、ずっとアバターを被ってる状態なんですけど。

 臨戦態勢だからね。

 つまり、普段のアバターにメイクが施された感じになってる……のか?


「本人と配信の姿は混じり合っているわ。だから本人を美しくしたら、アバターも美しくなるの」


 ブラックナイトさん理論だ!

 なるほど分からん。


 そして船はついにベルファストの港へ。


『最終決戦だ』


「あっ、Aフォンからルシファーさんの声が!!」


 『先ほど会議が終了した。これから飛んでそちらに行く!!』


 また飛んでくるのかあ。

 お疲れ様です。


 フルメンバー(ルシファーさんは多分間に合わない)で挑む、イギリス最終決戦ベルファストなのだった。


 ちなみにバングラッド氏は、船の中で船員さんたちとずっとカードゲームしてたらしい。


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