第315話 イギリス勢力図を塗り替えろ伝説

 私たちは、次々にイエローキングの軍勢をやっつけながら快進撃する。

 何しろ、私が休学できる期間は二週間しかない。


 宿題だって溜まっちゃうし、授業は進んじゃうし。

 ということで、進めるときには大急ぎなのだ。


 シェフィールドに拠点を移して、マンチェスターをすぐに攻略。

 別行動をしたビクトリアが、配信者のみんなとリーズを解放した。


 で、そこから一日置いて今度はスコットランド地方へ。

 エディンバラにいたイエローキングの腹心みたいなのをやっつけて、そしてグラスゴーへ。


「序盤がのんびりしてたからどうなるかなーと思ってたけど、ここを攻略したらあとは北アイルランドのベルファストだけになるんだねえ」


 猛スピードでイギリス観光をしてしまった気分だ。

 こっちの食べ物にも慣れてきたけど、なぜか食事だけはルシファーさんがエスコートしてくるんだよね。


「君にスターゲイジーパイやうなぎのゼリー寄せのような、ネットでおもちゃにされているモノを食べさせるわけにはいかんからな」


「はあ、毎日インド料理とか中華とか和食で楽しんでます。フランス料理とかはないんですか?」


 ルシファーさんがとても嫌そうな顔をした。

 あっ、この人フランスがキライなんだな!


 嫉妬のレヴィアタンがフランスの人だったはずだから、きっと仲も悪かったに違いない。

 そう言えば、ルシファーさんはレヴィアタンが動いてた時は何もしてこなかったもんなあ。


 ところで今回は、なんか造船所の上に鎮座している巨人みたいなのがボスデーモンっぽい。


※『はづきっちのイギリス紀行も終わりが見えてきたなあ』『毎回一時間ちょいで終わるから翌日に響かなくて助かる』『はづきっちの配信、ちゃんと一時間以内にダンジョン攻略するもんなw』


 コメント欄の反応を見て、ルシファーさんが顔をしかめた。


「一時間で攻略される側の気持ちを考えたことがあるのかお前たちは。ダンジョンとはそれを作り出したものの人生そのものだ。これまで積み重ねてきた全てが詰まっている。それを、たった一時間で攻略されて、『あちょっ』とか言ってゴボウを突き出されて全て灰燼に帰させられるダンジョン主の気持ちが……いやいや、やめておこう」


※『全部言ってるのよw』『まあね、他のダンジョン配信でこんな短時間でクリアする人いないからね』『弱いダンジョンなら一瞬でクリアするけど、強いダンジョンになるとスイッチが入ってRTAで無体なくらい短時間でクリアするからな』『どうあっても短時間クリアしてくるじゃん……w』『敵に回すとあまりにも強すぎる』


 そうかなあ。

 自覚はない!


 今は雑談なんかをしつつ、地上でのんびりウェンディゴの視線をカウンターしてるところなのだ。

 あとは、ウェンディゴから作り出した私のブタさん式神で、向こうの軍勢を押し返している。


 ブタさんが開けたスペースに、配信者のみんなが突っ込んでいく。


「がんばれー!!」


 私はみんなを応援した。

 風の大魔将側も、配信者がみんな飛び始めたのでアドバンテージを失い、力を発揮しないうちにやられることが増えてきてるのだ。


「圧倒的ではないですが、我が軍は」


「ミス・ハヅキ! その傲慢は私の役割だぞ! 君はこのマフィンでも食べていればいいのだ!」


 ルシファーさんが怒った!

 そしてマフィンいただきます!


※『己の役割は譲らない傲慢!!』『俺割とこの人好きよw』『はづきっちが餌付けされてるw』


 忙しい議員さんだけど、毎回都市の解放作戦には顔出してくるしね。

 どうやら、すごい速度で飛べるらしいんで、ロンドンから通ってきてるらしい。


 えっ、超音速で飛べるんですか?


「私はこう見えても本来、大罪勢最強なのだぞ……」


「自称ではなく」


「同族喰らいがいなければ単体では最強だ」


※『いたもんなあ同族喰らいw』『初手で憤怒を下したどこかの暴食が……』『あれ、勝敗を分けたのは何だったんだろうな』もんじゃ『未覚醒のはづきっちだろう? 同接のパワーと大罪の潜在能力が噛み合ったのだろうと考えている』『やっぱハイブリッドが最強なんやな』『こんなポテーンとした成りで侵略者メタ張って成長してきてるからな』


「今日は考察勢多くない!? 難しい言葉が多いと目が滑る~!!」


※『はづきっちがもっと簡易な表現をしろとおおせだぞ!!』『つまりね、はづきっちが無意識で私ツエーしてたっていう話でー』いももち『収録前なんだけど、はづきちゃん可愛い!! 応援してる!!』


「分かりやすくなった! あと応援ありがとー!」


※『喜んでて草』『あっ、はづきっち! ボスデーモンが雑に配信者を薙ぎ払ってるぞ!』『さすがに強い』『はづきっち出陣か?』


「あっはい。バングラッド氏~」


『おうおう。出番か』


 空でウェンディゴたちと戦っていたバングラッド氏、降りてきた。


「ちょっとボスをやっつけに行きましょう!」


『良かろう! 合体だ!』


 変形するバングラッド氏!

 私の背中にドッキング!


 ……これ、どういう原理なんだろう……?

 なんで合体できるの?


「魔力による結合だな。人間にはできないものだ」


「そんな、まるで私が人間じゃないみたいな……」


※『ハハハ』『お気持ち程度の人間アッピルw』『抜かしおるw』


 お、お、お前ら~!


『きら星はづき! 今回は我が考えた新たな戦法をだな! 速度を上げるやり方を思いついたのだ!』


「へえ、いいですねやってみましょう!」


 とりあえずコメント欄の不届き発言は無視だ無視!

 ということで、バングラッド氏の新戦法に乗っかって……。


『名付けて、きら星はづきミサイル! いけー!!』


「えっ!? それってつまり、あひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 私は空を吹っ飛んでいた!

 物凄い勢いでバングラッド氏から発射されたらしい!

 ぐんぐん近づくボスデーモン。


 なんてことー!


「と、とま、止まれ止まれ止まれー!? はづきは急に止まれなーい!!」


 なんか混乱して叫びながら……。

 私はボスデーモンに頭から突っ込んだのだった。

 がつーん!とぶつかる。


『ウグワーッ!?』


 叫びながら、ボスデーモンが全身に亀裂を走らせ、粉々に砕け散る。

 私はポトッと落ちた。


 落下までは時間があるので、バーチャルゴボウを取り出し……。

 これを傘みたいな形に展開して、落下をゆっくりにするのだ。


 降りるだけなら全然大したことはない。

 私はすとん、と造船所の上に降り立った。


『おーい! どうであったかきら星はづき! かなり強力な技だと思うのだが!』


「封印!! この技は封印!!」


※『ですよねー』『強力無比なことは確かだが……w』『一番身も蓋もない技だったもんなw』


 こうして、グラスゴーは奪還。

 私には封印技が一つ生まれたのだった。


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