第100話 エモエモ!?委員長動画伝説

 家に帰ったら、ちょうど委員長の動画がプレミアム公開するところだった。

 お前らに告知をした後、同時視聴の準備をする。


「ま、私は先に見てるんですけどね。お前らの驚く声とか感動を横から眺めてやります」


※『そういうの普通言わないもんだろw』『マウントを取りに来る女w』『同時視聴する人間が言っていいことばじゃないだろw』『これぞはづきっち』


 やいのやいの言われるが、知ったことではない。

 私は!

 圧倒的優位な立場で!

 一切動揺もしない状態で同時視聴したいんだよ!


 プレミア公開のカウントダウンが始まり、私は余裕のポーズで待った。

 チェックした通りのあの動画が流れるはず……。


「!?」


 突然、なんか音楽が流れ始めた。

 な、なんだこれは……!?


※『初手、はづきっち動揺』『いきなり想定外来たかw』『その顔が見たかった』『リスナーの求めるものを供給してくれる女』


「いや、いやいやいや、中身はほら、ちゃんと私は先に見てるから……見て……」


 バーチャルなテクスチャーを貼られたエモい感じの校舎の中を、私に案内されて進む二人。

 あの時、外が暑くてセミなんか鳴いてなかったはず!?

 すぐ外に木々が生い茂っていて、そこに集ったセミたちが夏を感じさせる鳴き声の合唱をする……。


 こんな校舎と蝉の声は知らない。


「見知らぬ校舎と聞き覚えのない蝉の声……!!」


※『草』『一番衝撃受けてるのはづきっちじゃんw』


「だってだって! き、聞いてない! 馬鹿な、こんな馬鹿なーっ」


※『いつも怨霊とかデーモンがはづきっちに対して思ってる感情』『ここで意趣返しされるか』風花雷火『狙い通り』『委員長!』『委員長もよう見とる』『監視されてて草』


「い、い、委員長さん、まさか私に編集前の動画を見せてきたのは、こ、こ、これを狙って!?」


 恐ろしい人だ!

 卯月さんが言ってきたことは正しかったー。

 私は委員長の手のひらの上で転がされていたのだ。


「ああ~。今度はなんか三人でグラウンドを見つめるところでエモいBGMまで掛かってきたー。なのに話題が最近何してるのみたいな話だあ……」


※たこやき『ここもはづきっちの知らない光景?』


「や、こんな感じで三人で並んでた……。だけどそれをエモエモにしてくると思わないじゃん」


※『動画はエモいっぽいのに話題が下世話なのがギャップで面白い』『クリケット部全国大会出場の下りでめちゃくちゃ盛り上がるなwww』『この三人が一ミリも関係ないのにw』


 ここで無加工のクリケット部全国大会出場!の垂れ幕がアップになる。

 なんだこの演出!?


 ちなみに委員長のプレミアム配信の方でも、コメントは大草原だ。

 みんな演出と中身のギャップに笑っている。

 凄い……。何を考えたらこんな動画作れるんだ……!


 私は戦慄した。

 この先何が起こるのかさっぱり分からない。


 あ、喫茶店に入った……。

 ちょこちょこ、委員長のナレーションが入るのだが、淡々と状況を語るだけ。

 そこにエモい音楽が流れるので、このギャップがもうおかしい。


 というか、私の知っている場面が全く流れてこないんだが!!

 全部事前チェック動画から大きく編集されてるんだが!


「マ、マ、マウント取れないぃー」


※『まだマウント取りたがってて草』『きら星はづき初めての敗北』『歌みた動画でも敗北してたが』『どうでもいいシーンで負けるな』『肝心なときにしか勝てないからなはづきっちは』


 守衛さんにスポドリを差し入れる場面とか、カットされたはずの先生との雑談とかも動画にあった。

 なお、守衛さんと先生はフリー素材の3Dモデルになってたけど。

 声も合成音声だし。


 なるほど、プライバシーは完全に守られている……。

 さすが委員長、コンプラとかも完璧なのだ。


「敗北を認めて改めて見ると勉強になる……」


※『敗北を知ったはづきっち』『こうして一回り大人になるんだな』『人が成長する姿を見ちまったなあ』


「まあ私はリアルだとよく敗北してるんですが……」


※『さもありなん』『イメージ通り過ぎるw』


「誰がイメージ通りかーっ」


 わあわあと騒いでいるうちに、プレミア公開が終わってしまった。

 あっという間だった。

 大体十分弱の動画にしっかりとまとめてあった。


 冗長なところもなくて、ツッコミどころと本当にエモいところが混在していて、これは流石だなあ。

 プロの仕事だ。


「いやあ……委員長凄いね。こんな凄い動画編集するなんて……」


 きっとツブヤキックスでも話題になっているに違いない。

 私は委員長の配信タグでツブヤキックスで検索をしてみた。


 すると、それなりに有名なアワチューバーの人のツブヤキがあった。


『風花雷火委員長の動画の編集を担当しました! ありがとうございます!』


 委員長じゃないんかい!!

 いや、まあ、プロに依頼するのは正しい!


 そっか、全部自分でやるわけではなく、必要なところはプロに任せるのも手かあ……。

 私は学習した。


 うちのショート動画もたこやきにお願いしてるしな……。

 この間の歌みた同時視聴動画もショートになってアップされてて、めちゃくちゃ受けている。


 うーん、餅は餅屋。


 本日はリスナーも、私の不本意な敗北っぷりに大満足したらしく、スパチャがたくさん来た。

 そ、そんなに私が負けるのが好きかーっ。


 くそー、今度は勝つ。

 勝つために冒険配信する。

 最近は突発でダンジョン見つけて突撃ばかりだったんで、ちょっと準備して大きなダンジョンに挑むとしよう。


 武器も思考停止してゴボウだったしな。

 ちょっと違う武器を使おうか……。


 明日の勝利のため、私は動き出すのだった。


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