第101話 大きなダンジョン調査伝説

 今日もなんか陽キャからお昼一緒に食べないかと誘われた!

 恐ろしい恐ろしい、何を企んでいるんだ……。


 私は笑顔で受けた後、さっとお弁当を食べてから姿を消した。

 色々質問が飛んでくる環境はたくさん喋らなくてはならないので、危険なのだ。


 陰キャは相反する属性の者との会話に慣れていない!

 危うくボロを出すところだった。


 さて、昇降口まで来た私は、下足箱に寄りかかってツブヤキックスをチェックする。

 話題になっているダンジョンを探すためだ。


 当然のように、そんな曖昧な条件でのダンジョン情報集めなど上手く行くわけがなく……。

 昼休み残り10分という頃合いで、私はツブヤキックスに情報提供依頼を出した。


『求む、それなりに大きくてずっと残ってるダンジョン情報! しっかり下調べしてから探索します!』


※『今回はフッ軽じゃないのか!』『常に新しいことに挑戦するはづきっちよ』『分かった、調べてみる!』


 この時間帯は、学校も会社も昼休みが多いんだと思う。

 たくさんの返信が集まった。

 さて、これを寝かせたまま放課後まで過ごす……。


「ねえ、帰りに一緒にご飯しない? 美味しいタコスのお店を見つけたんだけど……」


「えっ、タコス!?」


 隣のチョーコ氏から大変魅力的な誘惑を掛けられ、私は激しく揺らいだ。

 うおおおお行きたい。

 だが私は先日の懐石で、ちょっと我慢することを学んだのだ。


「い、今少しだけダイエット中なので……」


 それだけ必死に絞り出した。 

 チョーコ氏の目が丸くなる。


「そっか……。やっぱりたくさん食べてると、ね」


 何か勘違いされたような。

 だけどそれでいいや。


 私はペコペコ頭を下げて誘いを辞退すると、即座に裏口から帰宅するのだった。

 表口だと見つかりそうだからね。


 さて、道すがら、ツブヤキックスに集まった情報をチェックしていこう。


「ふむふむ。都内だと大体は企業系の人たちが手を付けてるのね……」


 それは当たり前か。

 東京からちょっと大きめの地方都市までは、企業系の人たちのホームだったりする。

 そこに発生するダンジョンは、その人たちが継続して攻略してるんだろうなと思って間違いないかも。


「じゃあ……やっぱり遠出かなあ」


 リスナーからの情報提供で、一番遠いのは……北海道か。

 さすがに遠すぎる~。

 土日使っても厳しそう。


「いや、飛行機を使えば行ける? 行けはするけど……うーむ」


 日帰り辛そうだし、宿泊は父が許してくれないし。

 ここは持ち帰りで家族に相談した方がいいかも知れない。


 私は独断専行でそういうのを決めないタイプなので、実際に持ち帰り案件にしてみた。

 すると……。


 その日の夜の食卓に、父と母と兄と受付さんが揃った。


 !?


 なんでここに受付さんが!?


「私、斑鳩合同会社で受付と事務をやっております、よろしくお願いします。斑鳩さんとはその、いい関係を築かせてもらっていて……」


「なんでもないぞ。なんでもない関係だ」


 間合いを詰めてこようとする受付さんを、兄が必死に牽制している。

 だが、父と母はなんか満足げにうんうん頷いているではないか。

 危うし、兄!


「じゃあ本題なんだけど、実は北海道のダンジョンに行きたくて……。でも日帰りは無理そうで」


「お前はまだ子どもだ。一人で宿泊はやめなさい」


 父が厳かに告げた。

 やはり。

 これは計画の練り直しだなあ。


「俺と母さんもついていこう。大事な仕事なんだろう? 何、保護者同伴でも構わんさ。なあ?」


 父が兄に確認する。

 兄も頷いた。


「一人で宿泊は心配だが、両親同伴なら安心だ。頼む……」


 な、な、なにぃーっ。

 保護者同伴でダンジョン遠征する配信者なんて聞いたこともない。


 あ、でもまあ、こうやって遠出する前例みたいなのができた方が都合いいかも。

 今後は積極的に父を巻き込んでいこう……。


 母は割りと放任主義だけど、父は過保護なのでは? と思うところも多いし。


 秋に来る海外遠征も、父を連れて行こう。

 そうだ、そうしよう。


「……この家の男性、みんなはづきちゃんラブが強すぎるのでは……?」


 受付さんがなんか、真実の一端に気付いたようだった。


 北海道の釧路の方に発生した山のダンジョンに向かうことが決定。

 兄はこの話を、迷宮省側にも持ちかけたらしい。


『では、風街が同行します。飛行機もこちらで用意しましょう。結界処理が成されたものですし、水上に離着陸が可能です』


 凄いのが来たぞ……!!

 直で釧路まで行く気だ!


 さらに、気付いたら兄と受付さんも一緒に来ることになってしまった。


 家族旅行じゃん!!

 というかどこに行くにも受付さんがついてくるぞ、最近!

 兄はもうカウントダウン状態なんじゃないか。


 私も陰の者とは言え、年頃の女子である。

 近くにあるラブの気配は気になる。

 今のところ受付さんの完全な一方通行だが、今回の旅行で彼女はうちの両親公認になることを狙っているかも知れない……!!


 聞けば現役時代の炎上も兄にモーション掛けたせいらしいし、兄のファンの女子たちと盛大にバトルしたのも理由だそうだし。

 ……何年もスタンスは一貫してるのか。


 ちょっと応援したくなるかもしれない。

 そして何年もモーション掛けられて全く陥落しない兄!!


 この男、放っておいたら一生独身だ!

 私も受付さんの応援をすることにしようか……。


 そんなことを考えていたら、向かいの席で今後の話をしている兄が、盛大にくしゃみをしたのだった。 


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