第219話 突撃、廃村ダンジョン伝説


 つるべ火を蹴散らした後……。

 見下ろす廃村はとっても黒紫色。。

 なんだか暗いモヤみたいなものに包まれていて、なるほどこれはダンジョン化していますわ。


 ここからが私のお仕事本番です。


「じゃあ、いってきま~す」


「気をつけて下さいね! はづきさんがダンジョンを踏破しないと、機体が降りられませんから!」


「任せて下さい。じゃあお前ら、行くぞー。酔い防止にカメラはちょっと離しておくから」


※『画面酔いし易い人への配慮が完璧』『もうベテランだなあ!』『はづきっち視点のFPS配信はマジで酔うからなw』『妙な動きしまくるんだもんw』


「そうかなあ! よし、ダーイブ!」


 私はパラシュートを背負って、廃村ダンジョンへ飛び込んだ。

 バサッと開くパラシュート。


 ふわふわのんびり降りていく。

 すると、侵入者を迎撃すべく空を飛ぶモンスターが……。


※『烏天狗だ!』『すげえー、一般モンスターがもう妖怪になってるのか!』『このダンジョン結構強いんじゃない?』


「そうかも知れないねー。だけど私には、もみじちゃんの惣菜パンから構想を得たこの新型バーチャルゴボウがあるのです!」


 ポーチから取り出したのは、一見するとちょっと太めのバーチャルゴボウ。


※『新型!?』『何が起きるのかなんとなく分かるけど、一体何ができるんだ!!』『早く見せてくれはづきっちー!!』


 いいリスナーだなあお前らは!

 彼らの振りにお応えして、私は新型バーチャルゴボウ……略してNVG(ニューバーチャルゴボウ)を構えた。


「いきまあす! ポチッとな」


 ゴボウのスイッチを押したら、バネでゴボウの頭がびよーんと伸びた。

 これを予測してなかった烏天狗が、ゴボウの先端でペチッと叩かれる。


『ウ、ウグワーッ!?』


 おお、バーチャルゴボウだと一撃で消えない!

 これかなり強いモンスターじゃない?

 でも飛行能力を失ってキリモミ落下してるかあ。


「さあ来なさーい。あちょちょー!」


 NVGを振り回すと、バネで繋がっているから変な方向にびよんびよん動く。

 パラシュートを自分で叩いちゃったので、私は斜め向きに落下し始めた。


「あーれー」


※『空中で変なもの振り回すからw!』『はづきっち着地だー!』おこのみ『我フラグのにおいを感じ取ったり!!』


 私は廃村のモヤモヤを突っ切り、その下にあった大きな木に引っかかって止まった。

 パラシュートの紐とかがぐるぐる絡まっている。


「いやー、ちょうどいいところに木がありましたねー。なんか紐が胸とかお股に食い込んでるんですが……」


※おこのみ『ナイスセンシティブ! ナイスセンシティブ!!』


 あっ!

 おこのみが大喜びしているということは、紐の食い込み方が大変えっちな感じになっているようだ!

 これはいけない、アワチューブから制限が掛かってしまう……。


 ネチョネチョ動画も経由してるから、全然制限が掛かっても問題ないんだけど、アワチューブ見てるお前らが困るもんね。

 私はNVGの新機能をさらに使った。

 それは……。


 ゴボウの下の方からちょっと薄い感じのゴボウが出てくるのだ!

 これを刃に見立てて……。


「あちょー!」


 スパスパ、スパーン!


 私に絡みついていたセンシティブ紐が切断された。


 ぽてっと地面に落下する。


「うっ」


※『お尻から落ちた!』『痛そうー』『あ、でもすぐ立ち上がった』『立ち上がってからお尻を抑えてぴょんぴょんしてるぞw』『やっぱり痛かったんだw』


「さすがに初体験だったので……! あひー、これはお尻が赤くなっている……」


※おこのみ『うんうん……いいぞいいぞ……』『想像を掻き立てる素晴らしい配信だ』『最近のはづきっちは清廉になって来ていたからな……。こういうネタ要素が戻ってきて嬉しいよ』


 古参!

 みんな好みが違うもんだなあ。

 お尻の痛みも引いたところで、私は村の中を散策することにした。


『ウボアー!』


 廃屋からゾンビ!


※もんじゃ『狂骨だ! 恨みを抱いて死んだ人間の魂が変じると言われている妖怪で』


「あちょっ!」


『ウグワーッ!!』


※『有識者が説明している間にやっつけたな』『過剰火力だからな……w』『はづきっちの攻撃威力で、ポコポコ叩いてくるのは脅威なのよw』


『ウガアアアアーッ!!』


 廃屋を粉砕しながら鬼みたいな人が!


※もんじゃ『以前はづきっちが遭遇した上位モンスターの鬼だな! 当時ははづきっちの攻撃を受け切るだけの実力を持っていたが……』


「あちょあちょ! ゴボウ二刀流! かたっぽうは契約農家さんから買ったゴボウです! みんなも買って食べよう!!」


『ウグワーッ!!』


※『リアルゴボウパねえ!!』『鬼の金棒ごと本体を叩き切ったぞ!』『受けることを許さねえw!!』『はづきっち、さらにやるようになったな!』


「皆さんのお蔭であります」


 ペコペコカメラに向かって頭を下げる。

 駆け寄ってきていた小鬼たちが、頭を下げた私のお尻に弾かれて『ウグワーッ!』とふっ飛ばされていった。


※『うらやましいけどうらやましくないw』『全身これ必殺武器w』『しかし、普通のモンスターが明らかに強力なこのダンジョン、どれだけヤバいことになってるんだ』


 そうなんだよね。

 放置された廃村、ダンジョンの濃度がどんどん上がって行って、とんでもないことになってたりするらしい。


 ただ、そこに住む人はいなくなっているし、人の感情とかのエネルギーが得られなくなるので規模の拡大は止まっちゃうんだとか。

 お蔭で山のあちこちに、こういう強力なダンジョンが点在している……みたいなことになる。


 山は危険だぞー。


 あっ、ここでダンジョンに迷い込んだ熊がモンスターにやられた跡を発見。

 なむなむ。


 こうしてモンスターをやっつけながら、村を歩き回る私。

 私の後ろはダンジョン化が解除されて、普通の空気に変わって行っている。


 さてさて、このダンジョンのボスはどこにいるんでしょうかねえ……。


 ぐるりと村を回ってみて、また最初の木に戻ってきた。

 絡まってたはずのパラシュートが引き裂かれて、地面に落ちてますねえ。


 そして樹木の枝から、さっきは気付かなかったものがいくつもぶら下がっているのが見える。

 あれは……。


 なんか首を吊ってる人に見えますね!


『うごごごごごごご!! 憎い……! 憎い……! 世間が憎い……! この村も昔は栄えていて、若者に溢れていて、未来も希望もあって……!』


「あっ、さっきの木がボスモンスターでした! これは最初に来たところとかがラストステージになるお約束みたいなやつですね!」


※『はづきっち、ボスの話を聞いてあげてw!』『背景でなんかずっと喋ってるじゃんw!』『はづきっちの声がでかくて聞こえないよw!』


 ということでダンジョンボス戦なのだ。


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