夏めく私の充電編
第218話 農林!廃村を田んぼにしよう伝説
普段はちまちまと町のダンジョンを攻略している私だけど、やっぱり本分が学生なので、学校がある時期はあまり遠くまで行けない。
そんな時、手助けをしてくれるのが迷宮省なのだ。
「きら星はづきさん、お迎えに上がりました」
「あっ、はい!」
豪華な車が到着したので、私はぴーんと直立して出迎えた。
連絡はもらっていたけど、やっぱりこういう公式の仕事は緊張するなあ……。
いつも一緒に来てくれた風街さんは、今年に入ってからはアイドルというか、歌のお仕事が増えてきていて大変らしい。
迷宮省職員としてもちょっとお休みをいただいて、ライブダンジョンの仕事に専念しているらしい。
ということで……私の担当は、お前らをやってらっしゃる女性職員さん。
「調布の飛行場まで案内しますね。そこから垂直離着陸できるカラスで現地に直行します。ああ、配信は機内からスタートしていただいて結構です。空中でもモンスターの発生が確認されていますので」
「あっはい。カラス……?」
車で飛行場に向かう。
その途中、職員さんからおずおずとサインを求められたので、私は得意げに三種類のサインを書いた。
フフフ、かなり書き慣れてきたからバッチリだぞ……!
あまり公私混同すると停職されてしまうということで、職員さんは涙を飲んで私に色々質問してくるのをこらえたらしい。
頑張った……!
こうして到着した飛行場。
なんかヘリの本体みたいなのが鎮座しているけど、ローターがない。
その代わり、本体にワイヤーでくっついた黒いリングみたいなのが、あちこちに大量にある。
「現代陰陽術を応用した、陰陽式垂直離着陸機です。カラスと呼ばれているのは、このリングが全部カラスをイメージして作られた式神で……」
「科学ではない話になって来た!」
これはこれで国家機密の一つなんだそうで、カメラに映したらいけないらしい。
私は搭乗口から乗り込み、カラスが動き出してから配信をスタートすることにした。
同時にカラスが飛び上がっている。音が全然しない。
「お前ら、こんきらー!」
※『こんきらー!』『こんきらー!』『あれっ、背景がいつものところじゃない……』
「そうなんです。今日はですね、迷宮省さんとのコラボで、ちょっと大きい仕事をしに行くんですねー」
※『何をするんだろう……』『どこ行くの?』
「空を飛んで、放棄された村に向かいます! そこはダンジョンハザードが起きてから、まるごとダンジョンに呑まれてしまったそうなので。だけど村でやってた田んぼや畑があるんですよねえ。ということで、今回の配信は教養番組みたいな感じで行きます!」
おおーっとコメント欄がどよめいた。
何をするかよく分かっていないのかも知れない。
「みんなが食べている、野菜やお米は農家の人が作ってくれてます。じゃあ農家の人の顔を見たことありますか? ないですよね? 昔は生産者の顔が見えてたんですが、今はあんまり見えません! どうしてでしょう!」
※もんじゃ『食糧生産を企業が請け負っているからだな』『有識者~』『はづきっちにゴボウを卸してるうちも企業だよー!』
「いきなり答えを言う人がいる!! あとゴボウ屋の人いつもありがとうございますー!! まあそうです……。私も最近知ったんですけど、田畑や農地にはもうほとんど人間が関わってないそうで。今回みたいな廃村を配信者の力で解放して、まるごと開発して農地にしちゃいます」
カラスの窓から見える光景は、一面の田畑。
あちこちにガラス張りのキラキラ光るビルがある。
田畑に出ている人の姿は無くて、誰も操縦してない耕作機が動き回っていたりする。
あれ、Aフォン技術の応用で動いているらしい。
「さて、ここでAフォンの技術に詳しい、イカルガエンターテイメント顧問陰陽師の安倍宇宙明さんと繋がっています!」
※『安倍……!?』『いや、本家は土御門とか別の名字になってたはず……』『まさか……!』
ワイプで宇宙さんが登場する。
烏帽子にしょうゆ顔、平安っぽい服。
大変うさんくさいので、配信がざわついた。
※『うさんくさい……!』『本物……か……!?』『はづきっち騙されてないか!?』
『フフフフフ……私が胡散臭いのはその通り。今ご紹介にあずかった、安倍宇宙明こと宇宙さんです。ちなみに私の名前は芸名で、かの大陰陽師とは縁もゆかりもない……』
※『やっぱりw』『素早くネタバラシしていくスタイル』『流石イカルガと契約してる陰陽師』
「宇宙さん、農地は今、どうやって運営されているんですか?」
『いい質問だねはづきさん。およそ1ヘクタールごとに一台の簡易Aフォンが管理をしているんだ。耕作機械群を指揮し、常に作業をしている。取り込む際にはそれぞれの所属する企業から、収穫機械が送り込まれてくるんだ』
ここで宇宙さんが作ったプレゼン画像がワイプに登場する。
私はこれを拡大した。
うーん、今日の配信は勉強になるね!
※『ほえー』『農家の人は農家の式神になってたんやなあ』『思った以上に魔法が関わっていた俺たちの生活』
『科学技術だけではダンジョンに太刀打ちできなかったからね!』
確かに、とうなずくコメント欄なのだった。
それはそれとして、宇宙さんの顔が画面に長く出ていると不評になりそうなので、私はサッと彼をワイプに戻した。
『あーっ、小さくなってしまった』
「はっ、私の配信なので……!」
『それは確かに……。私は数字を持ってないからなあ……』
宇宙さんがしょんぼりしてしまった。
陰陽師は裏方仕事なので、色々大変なのだ……!
「そういうことで、実際に農地になるまでの作業を見てもらいましょう、という企画なんです! 今回は整地ですねー」
※『整地というと』『はづきっちの整地……』『なんとなく予想がつく……』
「廃村ダンジョンをなぎ倒してですね、まず安全な場所に」
※『いつものやつw』『安心感~』
ですよねー。
こうして飛行するカラスが、目的地上空に差し掛かった頃……。
『もがーっ!!』
廃村と見られるところから、次々に飛び上がってくるのがいる。
昼間なのに、いきなり辺りは薄暗くなり……。
そんな空間をぼんやりと照らし出す、火の玉がたくさん。
※『釣瓶火(つるべび)じゃん!』『確か妖怪の姿になってるのって超強力なモンスターなんだろ?』『いっぱいいるぞ!』『空の上でどうするはづきっち!』
「えーと、それはですねー」
カラスを支えていた、黒いリングの一つが飛んできた。
これが、私のAフォンとリンクする。
で、私はカラスの扉からふわっと飛び上がった。
おおーっ!
話には聞いてたけど、本当に飛べてる。
「ちょっとこう、初めての空中戦をやっていこうかと……。滑空じゃなくて普通に飛ぶので」
私の小走りくらいの速度で動き回れるっぽい。
これは便利だなあー。
※『はづきっちの配信、まだまだ新しいネタが出てくるもんだな!』『空中戦がんばれー!』
ということで、廃村上空でのモンスター退治をお送りいたします。
ぶいーんと飛び立った私が、ゴボウを構える。
釣瓶火は次々、なんか炎の中に浮かんだ顔で威嚇しながら襲いかかってきた。
ゆっくりと思ったら、急に加速して体当たりしてくるのね。
「うおー、リズムゲーで鍛えたバッティングセンスを見せてやるうぅぅ」
※『妖怪をリズムゲームで撃退!?』『あっ!! なんかリズミカルなBGMが掛かりだした!!』『はづきっちがリズム取ってるぞ!』
『もがーっ!』
「あちょっ」
カーン!
『ウグワーッ!!』
「えーと、このリズムです。Aフォンにいい感じで間合いを取ってもらいながら接近して、これで釣瓶火をやっつけていきますね」
※『ほんとにリズムゲーじゃんw』『あっ、はづきっち後ろ後ろー!』
「もうリズムを取ってあるので平気です!」
『もがーっ!』
「あちょっ」
カーン!
『ウグワーッ!!』
『もがーっ!』
「あちょっ」
カーン!
『ウグワーッ!!』
『もがーっ!』
「あちょっ」
カーン!
『ウグワーッ!!』
何回か繰り返したら、釣瓶火はみんな消えてしまった。
「モンスター退治のいいところは、リズムゲーよりは短く終わるところですね」
※『そんな感想初めて聞いたw』『空中戦というかバッティング戦じゃねえかw』『飛んでいる意味とは……!!』
私もまだ空中戦初心者ですんで……!!
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