第217話 イカルガエンタご祈祷伝説
イカルガエンターテイメントビルでご祈祷やろうということになった。
なんでこんな中途半端な時期に?
と思ったら。
「今までやたらと忙しくてな。そういう儀式を全て後回しにしていたんだ。こういう時代ご祈祷をやらないでいるとちょっとしたことからダンジョン化したりする可能性もある」
「なるほどー」
そういうわけで、宮司さんと、この間会った顧問陰陽師の宇宙さんが来た。
宮司さんのやたらゴージャスな車に、当たり前みたいな顔して宇宙さんが乗ってるんだもんな。
「こちらは私の兄」
「兄です」
あっ、兄弟だった!
宇宙さんの家が神社だったのね。
ダンジョンがはびこるこの時代、配信なしでダンジョンやモンスター、怨霊とやり合えるのは力を持った宗教家だけらしく、あちこちで重宝されてるんだとか。
「納屋がダンジョンになったとかちょこちょこあるんです。配信ほどのスケールではないのですが、一家の一大事ですからね。私が出向いて調伏しています。弟も手伝いに駆り出してはいますね」
「いい小遣い稼ぎだよ」
はっはっは、と笑い合う兄弟。
よく見ると宮司さんもしょうゆ顔だ。
しょうゆ顔兄弟だなあ。
ご祈祷のための道具は案外シンプル。
「このスピーカーと」
「あっ、機具と設置場所が立体音響!」
「Aフォンが大体のことは手伝ってくれるから」
「神主仕様のAフォンが五台も!」
「祓串(はらえぐし)は最近はバーチャルだね」
「私のバーチャルゴボウと同じ感じなんですねえ」
「怨霊と対峙する時は本物の方が威力が大きいけど、ご祈祷ならバーチャルで十分」
だそうだ。
こうして、厳かなご祈祷が始まった。
「サイバー祈祷だ……!!」
受付さんがなんか衝撃を受けてる。
宮司の人がありがたいご祈祷の言葉みたいなのを朗々と言っていて、これを三つのAフォンがなんか別の言葉を被せたりハモったりしてる。
他のAフォンは、スピーカーを操作して楽器の音を鳴らしたり、あちこちをピカピカ極彩色に照らしたりしていた。
「なんだなんだこれは」
最新のご祈祷スタイルに驚くイカルガ社員たち。
みんなまあまあフリーランスとか、あるいは古い会社でやって来た人なので、こういう最新型ご祈祷に縁が無かったらしい。
最後に宮司さんがお神酒を捧げて終わった。
お神酒の表側にQRコードついてるんですけど。
「これでいつでもインスタントに祝詞を流せるから」
「はえー、便利ー」
「ただし三年ごとにQRコードの期限が来るから、私を呼んで更新してね」
「はえー、ビジネス~」
やり手であることは凄く良くわかった。
「こんなんだが、この辺りではトップクラスの実績を持つ神社だからな」
「こんなんとか言わないで下さい」
兄が紹介してくる言葉に、宮司さんが抗議している。
だが、派手な分厚い封筒をもらったらニコニコになった。
「こっちは電子マネーじゃないんですね……」
「テンションが違いますからね。それに電子マネーですとわずかに手数料を取られますから」
「な、生臭っ」
ぼたんちゃんがボソッと呟いた。
こうして、イカルガビルのご祈祷はひとまず終了。
仕出し弁当をたくさん頼んで、宴会になった。
三階の企画室が宴会場に早変わりする。
「企画室にいつの間にか大きい冷蔵庫が……!!」
「こんなこともあろうかと思いましてね」
企画担当の人が、ドヤ顔で冷蔵庫を開けた。
あっ、中身が全部瓶ビールとソフトドリンク!!
みんな、やんややんやと盛り上がった。
以外なことに、イカルガエンターテイメントの社員さん、半分はお酒を呑まない人だった。
兄も禁酒したらしい。
「仕事の後に彼女と一杯やっていたら記憶が飛んでな……。朝目覚めたら大変なことになっていたので、酒はやらんと決めた……」
「あーん、正気を失わせるチャンスがー!」
受付さんがなんか嘆いている。
さては最近つやつやしてたのは……!
あとは、プログラマーの人たちは下戸が多かった。
みんなソフトドリンクを飲みながら、ビクトリアやもみじちゃんと最近のアニメとかラノベとかマンガの話で大盛りあがりだ。
はぎゅうちゃんは、受付補佐のお姉様がたに男の落とし方なるものを学んでいる。
ぼたんちゃんは……。
私のところに来ようとして、あっ、宇宙さんに掴まった!
「君は才能があるな! どうだ、私の陰陽術を学んでみないか?」
「いっ、いえ結構です……!」
「君には類まれな才能がある! 私の陰陽術を学べば特別な存在になれるかも知れないぞ」
「えっ!? と、特別!?」
「いかにも……。長い黒髪というだけで、陰陽術的には大きなアドバンテージがあってだね……」
二人がなんか怪しいやり取りを始めた!
これは、ぼたんちゃんが新たな技を身につけるフラグと見た。
私は彼女こそ、めちゃくちゃに伸びる素質を持った配信者だと思うなあ。
まあ、私自身がなんでこんなに伸びたのか全然分かってないんだけど。
「はづきさん、いいですか?」
そこに宮司さんが来た。
ビール瓶を何本か空けてかなり出来上がってるみたいで、目が据わってる。
「怪しがられるので滅多に言わないのですが、私は人の運命のようなものが星の形で見えます」
「は、はあ」
「あなたは今、世界の空で大きく輝くきら星です」
「ふんふん」
私は仕出し弁当をもりもり食べながら聞く。
このお弁当本当に美味しい。
「そこに、あなたごと世界を取り込もうと降りかかる大きな闇があります。まるで、空をめくってその外側から来るような……そんな光景です」
「もぐもぐ」
「だが、あなたの輝きは日々増して行っています。あなたが何を思い、何を成すか。それこそがきら星が、世界を照らす太陽になるかどうかの鍵と言えるでしょう……あ、ビール無くなっちゃった……」
宮司さんがまたビールを求めて移動していった。
酔っ払って変なことを仰る。
その後も私のところに、乾杯を求めてたくさん人が来た。
宮司さんに言われたことは完全に頭から抜けてしまったかも知れない。
そして私はお弁当を二つ食べた。
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