第69話 フッ軽風街さん伝説

 ダンジョンを踏破して外に出たら、見知った顔がいた。

 リアルお前らが驚愕して目を見開き、口をポカーンとさせてる。


「またもやったみたいですね、はづきさん!」


「か……風街さん! なんでここに風街さんが!?」


「ヘリで来ました」


「ヘリで!!」


 聞けば、私の配信をチェックしてて、今度は異世界と繋がっているみたいなテレビを確認、すぐさまこちらに駆けつけたらしい。

 凄いフットワークの軽さだあ。


「配信は……既にアーカイブ化されているみたいですね。これを確認しながらお食事でもどうです?」


「あ、ご飯行きます」


 残念ながら、お前らにはご退場願うことになった。


「そ、そんなぁ~」「あんまりだぁ~」「あいつらは良かったのにどうして~」


「その、絵的に皆さんそんなに面白くないので……」


 私が告げると、彼らはハッとした。


「普通すぎるってことね。ダンジョンに同行したわけでもないし、見た目も普通にオシャレしてるし……それは確かに配信の絵としては映えないよね」


 風街さんにビシバシっと言われて、お前らがへなへなっと腰砕けになった。

 そう!

 配信映えするには何か面白い人か華がないといけないのだ!


 ……あれ?

 じゃあなんで私は受けてるの……?


「はづきさん、アイデンティティに疑問を覚えたような顔しないで下さい。あなた以外全員分かってますから、それ。じゃあリスナーさんからご紹介いただいた餃子のお店に案内しますね。デザートで落花生を使ったスイーツが出るみたいですし」


「餃子!? スイーツ!? はい、い、行きます!!」


 お前らに「ごめんね」と謝って、餃子に向かう私なのだった。


「呼んだらはづきさんがやって来て、それであわよくば一緒にご飯できちゃうなんて覚えられたら大変よ? 上手く行かなかったら逆恨みされちゃう。ここで上手く行かなかったパターンを見せておくのも大事だからね。配信者ってちゃんと生きてる人間で、ただのコンテンツじゃないんだから」


「あっはい」


※『含蓄あること言ってる』『さっすが風街さんやなあ』


「う、うわー! 配信続いてた!!」


※『イキった奴らがガツンとやられたのを見た』『胸がスッとしましたわ~』『あいつらよりは愛好会のほうが好感を持てる……』


 なるほど、なるほど……。

 そんなことをしてたら、餃子屋に到着。

 ここからの配信は、サウンドオンリーになるみたい。


「リアルタイムでどこに行ったって分かったら、人が詰めかけてきて大変でしょう? 後から写真をアップして、お店を聖地にしておけばいいんです」


「な、なるほどー」


「もちろん、お店に許可をもらってね」


「あっはい」


 ためになるー。

 そして餃子。

 ひたすら餃子を食べる。


 配信者はにんにくとか気にしなくていいから最高!


※『ああーっ、ひたすら続くはづきっちの咀嚼音』『餃子食べ食べASMR』『助かる……』『こ、この音は餃子オンザライス!!』『ライスお代わりした!?』


 異常に反応がいい……!!

 私の餃子を食べる音なんてニーズがあるんだね……。

 私は不思議に思いながら、ジョッキに入った烏龍茶を飲み干した。


※『ああーっ、はづきっちの喉越し音ASMR』たこやき『助かる命がここにある』『ありがてえありがてえ』


 なんで反応がいいんだろう!!

 でも餃子は美味しい。

 止まらない止まらない。


「食べながら聞いていて下さい。これはリスナーさんに聞こえても構いません。まず、はづきさんが異世界に通じているダンジョンを発見してから、世界中で同じパターンのダンジョンが出現することが増えました。これは、世界中にダンジョンが出現するようになった原因に関わっていると考えられます」


 餃子を頬張っていて声が出せない私、ふんふん鼻息を鳴らしながら頷く。


 これにもお前らがウワーッと沸き返るので、この人たち本当に何をやっても喜ぶなあ!


「ちょ、ちょっとデザート頼みます。えーと、メニューは……」


 読み上げてリスナーに決定してもらう。


「じゃあ、みかん大福とピーナッツのジェラートを……」


 その間にも、風街さんが状況の説明をしてくれる。


 ちょうどもんじゃがリスナーの中にいたので、分かりやすく纏めてくれた。


※もんじゃ『つまりこれは、はづきっちがダンジョンが変質するきっかけになっている可能性があるということだな。なぜ彼女が特別になったのかは分からないが、これまであまりにも特異な現象に遭遇し過ぎている。その上でその全てを打ち破って帰還している。そのせいで、徐々に起こるはずだった変化が早送りになって発生しているのではないか……ということか』たこやき『特異点になってるんじゃない?』


「はづきさんのリスナーさんは優秀だねえ!」


 風街さんが大変感心した。

 そう、うちのリスナーは集合知なんです。


「斑鳩さんとも連絡を取り合っているけど……あ、ここからは普段の口調で良い? いいよね? じゃあ普段の口調で行くけど許可をもらってるから、今度はづきさんとコラボしに行くね? じゃあこっちから予定は送るから……ああ、はづきさんの予定は全部こちらで把握しているから任せて。合間合間に入れるから。というか本当にあなたの夏休み予定がびっしりねえ……」


「うわーっ、急に喋り始めたー」


※『風街流星は素になると割りと凄く喋るぞ!』『ライブダンジョンでも名うての陽の者でもあるからな……』


「よ、陽キャ……!!」


 震え上がる私。

 こうして、私の予定に風街さんとのコラボ配信……という名の調査活動が加わったのだった。


 そして……明日はソシャゲのモーションのお仕事だ。


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