第469話 決戦スタート!世界の配信者が戦うのだ伝説

 ついに魔将ジーヤが発見された!

 ということで、中国本土にやって来ていた世界各国の配信者が、目的地に集まってくる。

 その場所はかつて中国の首都だった北京。


 あまりにもあからさますぎる。

 これは罠では?

 という論が吹き出す中、でも一番絵的にも文脈的にも映えるからいいじゃん、ということでまとまった。


 配信者などこんなものである。

 よりエモい方が同接数を稼げる。


 中には、中国に疎い現地のリスナーのため、北京とか中国について簡単なレクチャーをしながら移動する配信者もいた。


 そして、全戦力が北京に集中する……!!


「ここまで集まると、本来ならば各地の守りがおろそかになって良くはないんだが」


 配信者の一人がつぶやく。

 メキシコから来た配信者で、手にしたギターに機関銃を仕込んでいる。

 なお、頭のソンブレロはつばの部分に銃を仕込んでおり、紐を引っ張ると発射できる。

 さらに背負ったギターケースはバズーカ砲である。


「どうしたんだ、急に。あ、配信をしているから説明しているんだな」


 これに応じたのは、スペインから来た配信者だ。

 ユニフォーム姿から、明らかにサッカー選手である。

 一人しかいない。


 彼は自らイレブンに分身することで、一人でサッカーをして攻略する力を持つ。


 そして二人の共通語がスペイン語なので、問題なく会話ができる。


 メキシカン配信者はホセ。

 スペイン配信者はパンチョ。

 国の垣根を超えてコラボをする、噂の配信者タッグ、ホセ&パンチョその人である。


「ああ、つまりな兄弟。遥か西の国の彼女が魔将を片っ端から蹴散らしちまった! チャイナは安全になったってことだぜ」


「ああ、遥か東の国に住む彼女か! 俺はハポネスの女の子が好きなんだ。今度デートに誘おうかな」


「おい兄弟、全世界のオマエラを敵に回すつもりか……!?」


「世界一競争率が高いセニョリータってことだろう? むしろ燃えてくる……!!」


『当機はこれより北京上空に差し掛かります。降下を開始……ウグワーッ!!』


「「始まった!」」


 彼らが乗っているのは輸送機。

 それがぐらぐらと激しく揺れる。


 ホセ&パンチョの他には、各国の配信者がぞろぞろ。

 基本的には中南米から、スペイン、ポルトガルの配信者が多い。


 皆、自ら輸送機の後部に走っていった。

 一流の配信者たるもの、上空から降下できる手段を有しているものである。


 ホセのソンブレロが大きく広がり、落下傘代わりになった。

 パンチョはイレブンに分身し、手を繋いで輪になって空気抵抗を増やす。


 彼らの背後で、輸送機が落ちていった。

 そして空には無数の翼を持つデーモン。


「お出迎えだ!」


「最初から空中戦とは燃えてくるぜ!」


 ホセはギターケースを構え、バズーカをぶっ放す。

 パンチョは幻の12人目を作り出し、イマジナリーサッカーボールを蹴り出した。


 さすがはこの地までやって来て、生き残った配信者だ。

 デーモン程度は相手にならない。


 翼のデーモンをくぐり抜け、全員が地上に到達。


 標的は崩れ落ちた天安門に立つ、ひょろりと背が高い老人。

 肌の色は赤く染まり、長く真っ白なヒゲは地面に付きそうだ。


『来たか、羽虫どもめ』


 この地を統括する大魔将、ジーヤ・リャンが歯を見せて笑った。


「でかいがひょろっとした爺さんだぜ!」


「俺のボールを当てたらぶっ倒れちまうんじゃないか」


「「楽勝だぜ!!」」


 ホセ&パンチョを先鋒に、配信者たちがジーヤ目掛けて突撃する。


 すると、ひょろりとしたジーヤのシルエットが膨れ上がった。

 一瞬で見上げるほどの真っ赤な巨体を持つ、鬼に似たモンスターに変貌する。


「「おっと、戦略的撤退だぜ!!」」


 ホセ&パンチョが急ブレーキを掛け、すごい勢いで後退していった。

 だが、他の配信者は急には止まれない。


 ジーヤが振り回す真っ赤な巨腕に薙ぎ払われ、「ウグワーッ!?」と宙を舞う。

 やられるばかりではない。


 銃弾が、ナイフが、チューリップが宙を舞い、激しく大魔将ジーヤとぶつかり合う。

 そこはあっという間に激戦区となった。


 ジーヤ・リャンの攻撃方法は肉弾戦と、その怪力で地面を叩いて揺らすこと、そして空を叩いて衝撃波を発生させること。

 シンプルだが、防ぎようがない。


 並の配信者であれば相手にもならないだろう。

 だが、集まったのは一騎当千の配信者だ。


 ホセのギターマシンガンが火を吹く。

 乱射しながらギターをかき鳴らす。


 パンチョのイレブンが全員でシュートを決める。

 パスという概念はない。


『ぬうっ!! 貴様らがこの場で最強の者らしいな』


「いかにも!!」


「俺たちは強いぜ!!」


 二人でポーズを決める、ホセ&パンチョ。

 実際、自国ではトップクラスの配信者である。


 このままならばジーヤを押し込める……!

 そう彼らが思った時だった。


 ジーヤ・リャンが笑った。


『おお、間に合われた』


「「なんだと!?」」


 ジーヤの意味深な言葉にホセ&パンチョは反応し、慌ててその場に身を伏せた。

 他の配信者たちは間に合わない。


 調子に乗ってジーヤに飛びかかろうとしたところで……。

 突然空から落ちてきた巨大な指先に、ぷちっと押しつぶされた。


「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」

「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」

「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」


 ホセ&パンチョを除いて全滅である。

 二人は伏せた姿勢のまま、また素早く後退した。

 彼らが顔を上げると、そこには日本のギャルファッションをした少女いる。


『いやー、マジで人間舐めてたし。ちょっと異常じゃない、この速度? ジーヤやられてんじゃん』


『面目ございません、マロン様』


「「マロン!?」」


 ホセ&パンチョのリスナーたちが騒ぎ始める。

 魔王だ、魔王が現れた、と。


 そしてカメラが彼女を映し出すと、リスナーたちの声が途絶えた。

 画面越しであろうと、魔王マロングラーセを直視したものは正気ではいられなくなる。


 強い守りがカメラに施されていたり、魔王が気を遣って力を抑えていれば例外なのだが……。


 ホセ&パンチョは科学的な戦い方をすると自負していたので、そういうオカルトに頼っていなかったのである!


「まずいぞ兄弟。同接パワーが消えた」


「そいつはやばいぞ兄弟。俺たち、一般人になっちまう」


 同接を失った配信者など脆いものだ。

 故に、リスナーを直接攻撃できるマロングラーセは、配信者にとってまさに天敵と言えた。


 だが。

 二人はニヤリと笑った。


「配信者としては悔しいが、役割は果たせたぜ」


「ここからは主役交代だ。俺たち地球の配信者は、選手層が厚いんでね! 試合中盤から、スター選手を投入だぜ!」


 二人が左右に分かれると、その向こうの空から輸送機が飛んできた。

 機体下部から、グライダーのようなものが展開。


 それに、数珠つなぎになって配信者がくっついていた。

 なんとも締まらない絵面。


 だが……。

 彼らが現れた途端、ホセ&パンチョのリスナーたちが正気を取り戻した。


※『ワオ! あれはなんだ!』『鳥か!? 飛行機は後ろにいるから……』『ハングライダー!』『違う違う、あれは』


『かーっ!!』


 ジーヤがやって来る者たち目掛けて衝撃波を放つ。

 だがそれは、グライダーにぶら下がった少女が「あちょー」と気の抜けた声とともに振り回した棒で叩き切られた。


※『きら星はづきだ!!』


 リスナーたちの声が合わさる。

 きら星はづきと仲間たち、現着である。


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