第2話 SNSトレンド伝説

 学校の授業以外の時間は寝たふりをして過ごしている……。

 なぜなら、起きていても話す相手がいないからだ!

 そう、私には友達がいない……!


 ううっ。

 こんな陰キャな私でも、冒険配信者になったらドッカンドッカン人気になると思ってました。

 登録者3人だもんなあ。


 昨夜は確認した。

 冒険後の死んだ頭で見た時、登録者は3人。

 じっと見てても全然増えないから、絶望して家に帰って、ダンジョンなんか行ってない顔をしてから寝た。


 朝は、まだ登録者数が3人だったら絶望するので、怖くて見ていないのだ!


「ふふっ……冒険配信者、向いてなかったかあ……」


 机に伏せながら遠い目をしていたら、すぐ前の席の陽キャどもが集まって、何かお喋りをしている。


「でさ! マジらしいんだけどアーカイブ見たらマジで!」


「マジで!? 切り抜き見せて見せて……うわーっ! マジだあ!」


「ゴボウで戦ってる! おかしーっ!!」


 ゴボウで!?

 私はハッとして目覚めた。

 いや、ずっと寝たフリなんだけどさ!


「アワチューブでさ、同接3人しかいなかったらしんだけど」


「神じゃん! ってか、同接が増えて逆転したわけ? やべー」


「なんでこんなの見つけられたの?」


「これさ、ツブヤキッターで一瞬だけトレンド乗ってたのよ! そしたらこれがあって!」


 なにぃ……!?

 どこかの配信者の話か?

 私以外にも、ゴボウで戦った人がいたなんて……。


 ううっ、私は二番煎じだあ……。

 やはり配信者としての才能がない。

 引退するしか無いな……。


「マジで面白いから! 見てみ? 最初はちょーつまんないんだけど、同接増えた辺りからやべーから」


「マジ!? うわ、やべー!!」


 そんなやばい配信者って誰だよ。

 くそー、人気者め!

 妬みのパワーで燃やしてやりたい!


「マジやばいよね、このきら星はづきって冒険配信者!」


 私は一瞬、何を言われたか分からなかった。

 次の瞬間、激しく反応した。

 伏せたまま、机ごと飛び跳ねたね。


「うわーっ!?」


 陽キャたちが驚いて振り返る。


「ちょ、大丈夫?」


 なんか心配して声を掛けてくるので、私は半笑いになって顔を上げた。


「へへへ、だ、だ、大丈夫です」


 私のことか!

 きら星はづきって、私じゃん!

 私が、トレンドに!? どういうこと!?


 速攻でトイレに移動して、スマホを起動した。

 怖くて見てなかったあたしのチャンネルを見ると……。


「あひーっ!?」


 驚愕のあまり声が出た。

 左右の個室で、「うわーっ!?」「なんやなんや!?」と叫びが聞こえる。

 びっくりさせてごめんね……!!


「わた、わた、私のチャンネルの登録者が、38人もいる……!! なんで……!? こんなん、一生のうちでできた友達の数より多いじゃん……! いや、今まで生きてきて片手で数えられるくらいしか友達いないし、もう付き合いもないんだけど……!!」


 アーカイブの再生数も、なんと3560回に及んでいた。

 何事……!?


 平常心ではいられない。

 私はその後、お腹が痛いふりをして保健室に……行くような真似をして目立つことなどできず、普通に授業を最後まで受けて帰った。


 ううっ、私の小心者……!!


 帰宅すると、自室にもう一つのスマホがある。

 これが冒険配信者、きら星はづきのスマホなのだ。


 元々は兄のスマホなんだけど、あの人が冒険配信者やってたころに使ってたやつね。


 あの人、元々幻想ファンタジア株式会社……通称げんふぁんの所属配信者だったんだけど、引退して今は会社員やってるのだ。

 そのアプリが入ったままのスマホを私がもらって、使ってるってわけ。


「私がトレンドに……? いや、一瞬って言ってたし、もう残ってないでしょ。ハハハ」


 ツブヤキッターで、きら星はづきを検索してみる。

 うわーっ!

 めっちゃ出てくる!


 トップには、私の配信の切り抜きと見られる動画があった。

 これって、最初のリスナーのたこやきさん……!?


 たこやきさんがあの後、切り抜き動画を作り、それがプチバズったらしかった。

 道理で登録者数が38人に……。


 自分のチャンネルを確認した私は、驚愕でベッドに向かって倒れ込んだ。


「あひーっ!? と、と、登録者数、112人!! えっ? えっ? 三桁……!? なんで……?」


 全くわからない。

 なんでだ。

 いや、切り抜きがバズったからでしょ。

 全然わかる。


 落ち着け、落ち着け私よ……。


 私がドッタンバッタンやっていたので、お母さんが覗きに来た。

 そして私が挙動不審なのはいつものことなので、うんうん頷いてまた出ていった。


「ああ~っ、私、生きてていい。これは生きてていい感じだあ~」


 寝転んだまま、スマホを見上げてニヤニヤする。

 おっと、いけないいけない。


「次の配信予定を書き込まないとね! ゴボウでゴブリンと戦えたんだから、次は……」


 きら星はづきのツブヤキッターアカウントを作って、そこでちゃんと宣伝をして……。

 そう、私、SNSの表アカウントすら作ってなかったのだ!


 ウォッチ用の裏垢しか無かった。


『新人冒険配信者のきら星はづきです! 面白い冒険を配信して行こうと思います! よろしくお願いします!』


「これでよしっと」


 最初の挨拶を打ち込んで、うんうんと満足する私。

 そんな視界の隅で、通知欄にポコン、と数字が出る。


「お?」


 ポコン、ポコポコポコ……。


「お、お、おおおおおおおおっ!?」


 通知が……通知が増えていく……!!

 あっ、つぶやきにいいねがついた! リツブヤキもついた!? 増えてく!? 返信まで!?

 あああああ、フォロワーが増える! どんどん増える!


 これまでの、空虚で空っぽで壁に向かって一人でブツブツ言っているような、漆黒のツブヤキッターライフから打って変わった、とんでもない反応の数!


「あ、あ、あ、あひーっ!?」


 陰キャである私には、あまりにも刺激が強すぎる……!!


『はづきちゃんはじめまして! ごぼうでもやればできるんですね! 勇気づけられました!』


『可愛い、ファンになりました』


『次はもうちょっと柔らかい野菜で挑戦して欲しい。トマトとか』


 トマト……!?

 トマトで、ゴブリンと……!?


「できらあ……!!」


 私の次なる配信が決定したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る