第489話 生配信!宇宙大決戦伝説

「えー、前代未聞とは思いますが、歌の途中で宇宙に出ました!」


 きら星はづきの背景が、一面の宇宙になっている。

 足元には大きな地球。

 前代未聞どころではない。


 そして、彼女の頭上には巨大な名状しがたき塊がうごめいている。


 その中心に、マロングラーセが逆さに立っていた。



 ※

 



『あたしを宇宙まで打ち上げるとか、普通じゃ絶対考えつかないアイデアなんですけど! ってか普通無理だし。これ全部仕込んでたってこと?』


「あ、はい、そう言う感じで……」


※『あっ、アバターロケットがバグった感じになって消えていく……』『一瞬で力を使い切ったんだなあ』『安らかに眠れ、アバターロケット』南くろす『現在の世界の技術を結集して作られた最高レベルのロケットでした! だからここまでやれました!』


 くろすさーん!

 私はコメントに反応して手を振った。

 さて、ここで間奏終わり。


 四曲目を歌いきらないと!

 足場が無いはずの宇宙に、もみじちゃんが巨大なパンのステージを作り出した。


 その上に、私とイノシカチョウと……。

 あと一人。

 機材の影に隠れてますねー。


 スター性があるのに、裏方に徹するつもりかしら。


『いい加減、その変な棒をくっつけんなし!!』


 魔王の声がエーテル宇宙に響き渡ると、とりもち棒がパチンッと弾かれた。

 あっ、パン種が焼けてしまっている。

 これではくっつかない!


「や、やられました!」


「うっし、ここからは力で勝負だね!」


「私達の攻撃だって通じないわけじゃないし!」


 イノシカチョウ、やる気満々。

 コメント欄の声援を受けて突撃なのだ!


 間違いなく強い三人なんだけど……。


 逆さに立つ魔王がニヤリと笑った。


『勝負になんなくね?』


 彼女の足場になってるグニャグニャから、触手みたいなのがドバーッと出てきた。


「きゃーっ」


「アヒェー」


「こ、ここでサービスシーンは期待されてないーっ!!」


 なんと、イノシカチョウの攻撃を打ち消しながら、触手が三人を絡め取ってしまった!

 これはセンシティブ。


※おこのみ『セン……いや、この状況でセンシティブは求めてない!!』『うおおお同士の言う通りだ!』『平和だからこそセンシティブは輝く!!』


 センシティブ勢!!

 なんか最終回みたいなこといいやがって。


 だけど、私の歌が終わるまでもうちょっと。

 これを中断して助けに行ったら、イノシカチョウに掛かってるバフみたいなのが途切れちゃいそうな……!

 なんともしがたい~!


「こんなこともあろうかと潜んでいたのよ」


 機材の影から、すっくと立ち上がる姿。

 あーっ、あなたはー!!


※『誰かいると思ったら!』『まさか、まさかの!』『ビクトリア!!』


「行くわよ! ファッキン魔王! シューッ!!」


 パンの土台に立ちながら、ビクトリアはAフォンから取り出した長い銃みたいなのをぶっ放した。

 そ、それは!


『うわっ!? なにそれ!? あたしの触手が壊されたし!』


 打ち出された鋭い釘が、触手の一本を連続して貫いて切断する。

 もみじちゃんが解放された!


「ロングバレル・ネイルガン! 釘打ち銃よ。で、もちろんここからは……」


 ふわっと飛び上がるビクトリア。

 その手にはお約束の得物。


 ぶぃぃぃぃぃぃぃんっ!ぶぉぉぉぉぉぉんっ!と唸りをあげる。


※『チェンソーだああああああああ!!』もんじゃ『神秘そのものである魔王に対して、現代の道具だけで挑む系配信者……そうだ、それが彼女だった!』


『舐めんなし!』


 魔王の周りから、光の槍みたいなのが次々に生み出され、ビクトリアめがけて打ち出される。

 これを彼女は、チェンソーを振り回しながら切り払うのだ。


「リーダーの配信で見たから! リーダーの動き、一回くらいは目コピで再現できるのよ! で、その一回で十分……!!」


 チェンソーが触手を次々に切り裂いていく。

 はぎゅうちゃんとぼたんちゃん解放!


 四人がパンの大地に降り立ったところで、四曲目が終わった。


「先輩! ここからは任せるから!」


「やっちゃえ、師匠!」


「はづきちゃん、お待たせしました」


「リーダーのちょっといいところ見てみたいなー」


 四人とも、魔王相手の時間稼ぎをしてくれたんで、結構ボロボロになってるのだ!


「よーし、じゃあ私が出ちゃおうかな……!」


※『うおおおおおお真打ち登場!』『頼むぞはづきっち!!』『あっ、ずっとBGMではづきっちの持ち歌流れてるじゃん』『Aフォンの力か!』


 エーテル宇宙は音が伝わるから、音楽だって流せるのだ。

 私は私の歌をバックに戦うという不思議なことになった。


『一人に戻りまーす! ゆーはぶこんとろーる!』


「あいはぶこんとろーる!」


 その間に降り注いできた光の槍が、雨みたいな量。

 だけど、既にその時には、私は今朝採れたてのゴボウを手にしている。

 それを振ったら、光の槍がまとめて折れて、明後日の方向に飛んでいった。


※『産地直送です!! まだ土がついてますけど!』『ゴボウ農家さん!!』『畑から採れる聖剣の最新バージョンだぜ!!』


 ここで、私とベルっちは一人に戻った。

 彼女の声が完全に聞こえなくなる。

 つまり、一心同体ということです。


 コンサート衣装だったものが、見慣れた姿になる。

 ジャージだ。


※『最終決戦で初期衣装キター!!』『いや、よく見ろ! ピンクのジャージのあちこちに、ちょっと黒いラインとか黄色いラインが入ってる!』『ピンクジャージspec2!!』『真・ピンクジャージだ!!』


 お好きに呼ばれたらいいでしょう……。

 Aフォンから、翼の生えたブタさんが飛び出す。

 それは私の背中にくっつくと、『ぶいーっ』と一声鳴いて光の翼に変わった。


 飛び上がる私なのだ。


『マジで最終決戦になってるし。いきなりここで終わり? マ!? あたしはもっと遊びたいんだけど!!』


「えー、地球はマロンさんの遊び場じゃなくてみんなの遊び場ですのでー、えーと、その、譲り合いの精神をですね」


『うぜえーっ! 説教すんなし!!』


「一般常識的な?」


※『うおおおお!! 触手がとんでもない速度で大量にはづきっちに叩き込まれてるのに!』『ぺこぺこしながらこれを全部切り払うはづきっち!』『態度は卑屈なのに鉄壁!!』もんじゃ『そうだった……。彼女の強さは、あの圧倒的な守りの堅さ。誰一人として、まだ彼女の体に攻撃を当てたことがない……!!』


 ちょっと外れて地球そのものを狙った触手攻撃があって、先端がグワーッと肥大して小さな島なら叩き潰しそうなサイズになる。

 私は呼び出したバーチャルゴボウをつま先でちょこんと蹴り出して、その不意打ち触手にコツンとぶつけた。


 光り輝くバーチャルゴボウが勝手に九節棍になり、ヘビみたいな動きをして触手に巻き付いて破裂させる。


『はあーっ!? 意味分かんないんだけど! 人間の死角だったっしょ!?』


「あっあっ、Aフォンで多窓してるんで死角はないですぅー」


 じゃあそろそろ、倒しますね。



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